映画評「バッド・ルーテナント」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督ヴェルナー・ヘルツォーク
ネタバレあり
観たようで多分観ていないアベル・フェラーラ監督の同名作品(1992年)のリメイクで、ヴェルナー・ヘルツォークとしては珍しく都会を舞台にした作品である。しかし、麻薬中毒の主人公ニコラス・ケイジの幻想にイグアナが何度も出てくるのはジャングル好きなヘルツォークらしい。
2005年、カトリーナ台風の襲撃で水浸しになったニューオーリンズ、刑事ニコラス・ケイジが浸水した刑務所から囚人を救った功績で警部補に出世するが、その時に腰を悪くして痛みを発生、それを誤魔化す為に鎮痛剤やコカインを常用するようになる一方で、賭博癖やギャングとのトラブルの為に借金が膨らんだ為一家殺人事件の犯人である麻薬ディーラーに情報を売ることで麻薬と大金を得ることにする。
悪徳刑事をテーマにした作品は少なからずあるが、これほど徹底してネガティヴな部分を集中的に描いた作品は珍しい。ただ、彼の悪徳は人命に直結しないことにのみ関わっている。ディーラー一味といるところでギャングが皆殺しにされる現場に遭遇することはあっても、こと人命に関して言えば彼自身は道徳的なのではあるまいか。
対照的なのが彼の相棒であるヴァル・キルマーで、彼は少なくとも犯罪者の命など命と思っていない。主人公は、刑事倫理的にどうかと思われても、恐らく底の部分で善なのである。同時に、彼の底には弱さもある。従って、自分の都合が悪くなった時に他人の生命を奪わない保証はない。ここに本作独自の善悪観があるように思う。
ただ、刑事映画としては相当ずぼらで、起承転結的に無意味だったり適当すぎる場面が多い。例えば、脅迫容疑で拳銃を取り上げられ証拠保管係に左遷された後正式に復帰したとは考えられないうちに保管室を抜け出て自由に行動しているように見える。災害後の混沌としたニューオーリンズを描いた寓意的ファンタジーのようなものだから、敢えて問題とするには及ばないと思いますがね。
あるいは、彼が色々失態を演じた後何故か奇跡のように幸運が連続して舞い降りる。実に極端な作劇で、一般的なドラマなら「偏った作劇だなあ」とぶつぶつ言うことになるだろうが、本作の場合事情が些か違う。極端さが麻薬場面の繰り返しと相まってたくまざるユーモアを、考え方によっては宗教的ムードさえ生み出し、捨てがたいものがあるのである。
配役では、ラリったケイジの演技が大変面白い。
これが本当のニコラス“刑事”でござるよ。
2009年アメリカ映画 監督ヴェルナー・ヘルツォーク
ネタバレあり
観たようで多分観ていないアベル・フェラーラ監督の同名作品(1992年)のリメイクで、ヴェルナー・ヘルツォークとしては珍しく都会を舞台にした作品である。しかし、麻薬中毒の主人公ニコラス・ケイジの幻想にイグアナが何度も出てくるのはジャングル好きなヘルツォークらしい。
2005年、カトリーナ台風の襲撃で水浸しになったニューオーリンズ、刑事ニコラス・ケイジが浸水した刑務所から囚人を救った功績で警部補に出世するが、その時に腰を悪くして痛みを発生、それを誤魔化す為に鎮痛剤やコカインを常用するようになる一方で、賭博癖やギャングとのトラブルの為に借金が膨らんだ為一家殺人事件の犯人である麻薬ディーラーに情報を売ることで麻薬と大金を得ることにする。
悪徳刑事をテーマにした作品は少なからずあるが、これほど徹底してネガティヴな部分を集中的に描いた作品は珍しい。ただ、彼の悪徳は人命に直結しないことにのみ関わっている。ディーラー一味といるところでギャングが皆殺しにされる現場に遭遇することはあっても、こと人命に関して言えば彼自身は道徳的なのではあるまいか。
対照的なのが彼の相棒であるヴァル・キルマーで、彼は少なくとも犯罪者の命など命と思っていない。主人公は、刑事倫理的にどうかと思われても、恐らく底の部分で善なのである。同時に、彼の底には弱さもある。従って、自分の都合が悪くなった時に他人の生命を奪わない保証はない。ここに本作独自の善悪観があるように思う。
ただ、刑事映画としては相当ずぼらで、起承転結的に無意味だったり適当すぎる場面が多い。例えば、脅迫容疑で拳銃を取り上げられ証拠保管係に左遷された後正式に復帰したとは考えられないうちに保管室を抜け出て自由に行動しているように見える。災害後の混沌としたニューオーリンズを描いた寓意的ファンタジーのようなものだから、敢えて問題とするには及ばないと思いますがね。
あるいは、彼が色々失態を演じた後何故か奇跡のように幸運が連続して舞い降りる。実に極端な作劇で、一般的なドラマなら「偏った作劇だなあ」とぶつぶつ言うことになるだろうが、本作の場合事情が些か違う。極端さが麻薬場面の繰り返しと相まってたくまざるユーモアを、考え方によっては宗教的ムードさえ生み出し、捨てがたいものがあるのである。
配役では、ラリったケイジの演技が大変面白い。
これが本当のニコラス“刑事”でござるよ。
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