映画評「牛泥棒」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1943年アメリカ映画 監督ウィリアム・A・ウェルマン
ネタバレあり
昨日に引き続き日本劇場未公開の西部劇だが、監督がウィリアム・A・ウェルマン、主演がヘンリー・フォンダなので、以前から注目していた作品。
フォンダは恋人メアリー・べス・ヒューズに会いにネヴァダ州の小さな町に相棒ヘンリー・モーガンと一緒にやって来るが、酒場には絵が飾られているばかりで本人がいない。町の女衆に追い払われたのだと言う。それに加えて、よそ者である彼に対する町民の態度が不遜だった為に甚だ気分を害す。
ここまでが起承転結の起であるが、町の保守性を的確に表現し、作品全体の基調がここで早々に決定される。好調な出だしと言うべし。
そんな折牧場主が射殺されるという事件が発生、町民の多くは犯人を捕まえてリンチにしようと息巻く。唯一商人ハリー・ダヴェンポートが冷静に保安官の帰りを待ってきちんと裁判にかけようと提案するも半ば無視され、軍人時代の失敗を取り返そうと躍起になっている元南軍将校ウィリアム・イースを実質上の指導者として捜索隊が組まれ、妙な因縁を付けられたくなくないフォンダたちも参加する羽目になる。寒さに震える山中で一つの馬車と遭遇するが、それには結婚したばかりのメアリーとその夫が乗っていて、フォンダもこれには白けるばかり。
ここまでが言わば承で、メアリーの登場は転調として上手く機能している。
遂に一行は火を焚いて眠っている三人組と遭遇。メキシコ人のアンソニー・クインはともかく、リーダー格のダナ・アンドリューズは好青年ではあるものの、不幸な偶然が重なって、一行の目には犯人としか見えず、結局リンチ執行が決まる。執行の前に妻に宛てて青年は手紙を書く。軍人の息子は父親の正義に疑問を覚えて綱を切れない。積極的にリンチを執行したがる者は殆どいないが結局事は終わる。
その直後保安官が戻り、犯人を逮捕したと言う。これにショックを受けた南軍将校は帰宅後自殺して果て、その他のメンバーも罪悪感を背負って生きることになる。
というお話で、リンチは非人道的であり、為してはならないものという主張がテーマとなっている。フォンダ絡みで言えば「十二人の怒れる男」に成れるチャンスがあったのに成れなかった捜索隊の物語である。
ウェルマンの展開ぶりは楷書的に明快に展開させ快調、序盤と終盤の絵柄を呼応させたのも気が利いている。
が、全く気に入らない点が一つある。最後に読まれるアンドリューズの手紙の文章がまるで憲法か判決の文言のようであり、脚本家が言いたいことがそのまま綴られているような気がすることである。とても一庶民が妻に宛てた文章には思えず、まるで含みがない。青年の良心を映画的に示すのであれば、彼の手紙はもっと平易に妻への愛情を示し、もっと素朴に家族への心配を表現するものでなければならないのではあるまいか。“九仭(きゅうじん)の功を一簣(いっき)にかく”とは、正にこのことだろう。
日本で外貨が売られることを想定しての投機筋による円高。まさに火事場泥棒じゃね。
1943年アメリカ映画 監督ウィリアム・A・ウェルマン
ネタバレあり
昨日に引き続き日本劇場未公開の西部劇だが、監督がウィリアム・A・ウェルマン、主演がヘンリー・フォンダなので、以前から注目していた作品。
フォンダは恋人メアリー・べス・ヒューズに会いにネヴァダ州の小さな町に相棒ヘンリー・モーガンと一緒にやって来るが、酒場には絵が飾られているばかりで本人がいない。町の女衆に追い払われたのだと言う。それに加えて、よそ者である彼に対する町民の態度が不遜だった為に甚だ気分を害す。
ここまでが起承転結の起であるが、町の保守性を的確に表現し、作品全体の基調がここで早々に決定される。好調な出だしと言うべし。
そんな折牧場主が射殺されるという事件が発生、町民の多くは犯人を捕まえてリンチにしようと息巻く。唯一商人ハリー・ダヴェンポートが冷静に保安官の帰りを待ってきちんと裁判にかけようと提案するも半ば無視され、軍人時代の失敗を取り返そうと躍起になっている元南軍将校ウィリアム・イースを実質上の指導者として捜索隊が組まれ、妙な因縁を付けられたくなくないフォンダたちも参加する羽目になる。寒さに震える山中で一つの馬車と遭遇するが、それには結婚したばかりのメアリーとその夫が乗っていて、フォンダもこれには白けるばかり。
ここまでが言わば承で、メアリーの登場は転調として上手く機能している。
遂に一行は火を焚いて眠っている三人組と遭遇。メキシコ人のアンソニー・クインはともかく、リーダー格のダナ・アンドリューズは好青年ではあるものの、不幸な偶然が重なって、一行の目には犯人としか見えず、結局リンチ執行が決まる。執行の前に妻に宛てて青年は手紙を書く。軍人の息子は父親の正義に疑問を覚えて綱を切れない。積極的にリンチを執行したがる者は殆どいないが結局事は終わる。
その直後保安官が戻り、犯人を逮捕したと言う。これにショックを受けた南軍将校は帰宅後自殺して果て、その他のメンバーも罪悪感を背負って生きることになる。
というお話で、リンチは非人道的であり、為してはならないものという主張がテーマとなっている。フォンダ絡みで言えば「十二人の怒れる男」に成れるチャンスがあったのに成れなかった捜索隊の物語である。
ウェルマンの展開ぶりは楷書的に明快に展開させ快調、序盤と終盤の絵柄を呼応させたのも気が利いている。
が、全く気に入らない点が一つある。最後に読まれるアンドリューズの手紙の文章がまるで憲法か判決の文言のようであり、脚本家が言いたいことがそのまま綴られているような気がすることである。とても一庶民が妻に宛てた文章には思えず、まるで含みがない。青年の良心を映画的に示すのであれば、彼の手紙はもっと平易に妻への愛情を示し、もっと素朴に家族への心配を表現するものでなければならないのではあるまいか。“九仭(きゅうじん)の功を一簣(いっき)にかく”とは、正にこのことだろう。
日本で外貨が売られることを想定しての投機筋による円高。まさに火事場泥棒じゃね。
この記事へのコメント
>その直後保安官が戻り、犯人を逮捕したと言う。
これは僕もショックを受けました。まさに冤罪!
>軍人時代の失敗を取り返そうと躍起になっている元南軍将校
過去の汚名挽回を試みた。それがまた失敗に繋がりました。
>軍人の息子は父親の正義に疑問を覚えて綱を切れない。
演じたウィリアム・アイス(1918年4月7日-1957年1月26日)。
「幼い頃から演技に興味を持っていました。彼は古い納屋を劇場に変え、自分が書いた演劇を上演し始めました。」英語版ウィキより。
そして、いろいろあった人生のようです・・・。
>小泉政権は、結果的に企業に有利になるように働き、国民だけでなく国家にもマイナスになる政策を採ったと思います。
三位一体の改革を思い出します。彼が首相になった時から心配する声がありました。
>演じたウィリアム・アイス(1918年4月7日-1957年1月26日)。
本作がデビュー作のようです。
>彼が首相になった時から心配する声がありました。
人間的には、最近の自民党総裁よりはずっと好きです。憎めないところがありましたよねえ。
原発についても、退任してから180度変わった。この辺りも実に面白い。
>とても一庶民が妻に宛てた文章には思えず、まるで含みがない。
さすがオカピー教授です!僕なんぞは単細胞なので「良い事が書かれた手紙だなあ。」と思ってしまいました。
>それには結婚したばかりのメアリーとその夫が乗っていて、フォンダもこれには白けるばかり。
何の為にこの町に来たのだろう・・・・って感じです。
>メアリー・べス・ヒューズ
50代後半に「セクシーなおばあちゃんの役割のオーディションにうんざりしている」とショービジネスの世界から引退。
美容院を経営したり、テレマーケティング業者として働いたりしたそうです。
>>とても一庶民が妻に宛てた文章には思えず、まるで含みがない。
>さすがオカピー教授です!
正義や良心をもって感動させるのなら憲法のような含みのない文章でも出来るわけで、小説、まして映画にする意味がないと考えています。
この文脈からは少し外れますが、スターリン憲法でさえ、(まあ条件付きとは言え)人権を尊重していますからね。
まあ、こうした屁理屈をこねないと映画評にならない(笑)
>>メアリー・べス・ヒューズ
この人が出た映画は余り日本に輸入されなかったこともあり、僕が観たのは多分この一本だけです。
プライム・ビデオにある「情熱の狂想曲」というのを見る予定にしています。これを見れば2本目になりますね。
また大昔に古本屋で買った「日本史探訪21 菊と葵の盛衰」(角川文庫)を最近読んでいます。面白いです。
>スターリン憲法でさえ、(まあ条件付きとは言え)人権を尊重していますからね。
国家にとって都合がいい条件でしょうか?
>まあ、こうした屁理屈をこねないと映画評にならない(笑)
それも必要な事でしょう(笑)。
>「情熱の狂想曲」
未見ですが、カーク・ダグラス主演ですね。
>岡本喜八監督作品「ジャズ大名」を見ました。
前世紀に観ていますが、残念ながらブログにはアップしていません。
岡本御大の作品ですから、背景音楽も面白かった。
>「日本史探訪21 菊と葵の盛衰」(角川文庫)を最近読んでいます。面白いです。
「日本史探訪」は大昔にNHKでやった番組ですね。
観たことはないと思いますが。
NHKは歴史が好きですで、今でも色々とやっていますね。
>国家にとって都合がいい条件でしょうか?
スターリン憲法は読んだことはないですが、かつての自民党草案がそれを思わせると、その草案に批判的な人は仰いますね。
例えば、“公益(現憲法では、公共の福祉)に反しない限り、表現の自由を認める”といった具合。
これの何が問題かと言うと、国民の常識に基づく公共の福祉に対して、公益は官憲が決めるもの。従って、官憲がこれは公益に反すると自由に決めつけることができるので、実質的に表現の自由を認めない、ということ(になるよう)です。
かりに自民党政権がこの憲法を施行出来たとして、すぐにそういうことをするとは思いませんが、何度も言って来たように、後にそれを許す余地を残してはいけないわけです。
現在の中国、ロシアなどはこの伝ですよね。今のロシアは、それでもスターリン時代よりはまだ良いと思いますが。
たった一言、“公益に反しない限り”を加えるだけで、無効化できるのだから怖いです。
>>「情熱の狂想曲」
>未見ですが、カーク・ダグラス主演ですね。
三日後にアップします。
メアリー・ベス・ヒューズは小さな役でした。
>岡本御大の作品ですから、背景音楽も面白かった。
前世紀でしたか(笑)。岡本喜八監督は背景音楽にもこだわる監督ですか?
>NHKは歴史が好きですで、今でも色々とやっていますね。
先日は曽我兄弟の事も題材にしていました。そして北条時政を粛清するかどうか悩んだ源頼朝の事も。
>実質的に表現の自由を認めない
結局庶民はそういう目に遭う憲法なんですね。
>“公益に反しない限り”を加えるだけで、無効化できるのだから怖いです。
恐れ入りました!
>BSから録画した「花嫁の父」を昨日初めて見ました。面白かったです。
>双葉師匠も絶賛していました。
リズが実に綺麗でしたなあ。
実は僕は中学生の時に続編の「可愛い配当」のほうを先に観たのです。「花嫁の父」は大学生になってくらいからだったでしょうか。
「可愛い配当」は右も左もろくに解らない中学時代に観たきりで、出来栄えなど正確に把握していないのですが、師匠ほどは差がないような気がしましたね。
>前世紀でしたか(笑)。岡本喜八監督は背景音楽にもこだわる監督ですか?
そうでしょうね。
佐藤勝と組んで、面白い音楽の映画を作って来ました。「ジャズ大名」は山下洋輔でしたが。
>結局庶民はそういう目に遭う憲法なんですね。
しかし、ソ連時代を知っている老人たちは、つらい時期のことなどすっかり忘れてノスタルジーに沈んで、プーチンよりさらにひどいスターリンを慕っているというのだから、人間というものは困ったものです。
その時代をまともに知っている人が一人もいなくなった日本でも、明治が良いと言って帰りたく思っている人がいますが、恐ろしい。勿論良い面もたくさんありましたが、多分現代の感覚ではそれ以上に悪いことが多かった筈の時代です。
西部劇というより法廷劇みたいで、アメリカでは興行的に不発、フランスで高評価されたそうですね。
手紙については、オカピ―さんにいわれてみるとたしかにその通り、あの文章読み上げで物語がまとめられる、そういうきらいはありましたね。
個人的には、ヘンリー・フォンダが相棒に「いい手紙だ、読んでみろよ」と手紙を渡そうとすると、相棒が「オレは読めないんだよ」と言うところが印象に残りました。読み書き、だれもができるわけではないってことです。
>フランスで高評価されたそうですね。
フランス人の意識の高い人たちは、こういう寓話的な作品が好きですね。
日本でもズッコケた人が多い「大砂塵」なんかもそうでしょう。
>読み書き、だれもができるわけではないってことです。
見落としてはいけない点ですね。