映画評「牛の鈴音」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2008年韓国映画 監督イ・チュンニョル
ネタバレあり

私淑してきた双葉十三郎氏はどんなジャンルのどんなタイプの作品も公平に評価できると仰る一方で、ベスト10の作業で劇映画とドキュメンタリーとを一緒に扱うのは反対と仰った。本作のようなドキュメンタリーを観ると、その仰るところがよく理解できるような気がする。

韓国の農村地帯、79歳のチェ老人は30年も共に働いてきた牝牛が愛しくて手放さない。牛と働きたいので耕作機械は一切導入せず、牛にやる草が毒されると農薬も撒かない。
 「その為に苦労するのは私だ」と連れ添って60年になるイ夫人(正式な夫婦なのに姓が違うのは古臭い日本人である僕にはピンと来ない)は最初から最後まで愚痴をこぼしっ放し。老婦人には牛がライバルなのであると同時に、本音では「互いに苦労をしてきた仲間」として愛情を覚えているということがよく解り、大変微笑ましい。
 チェ老人は反対に殆ど喋らない無骨者で、牛への愛情は露骨に示すが、老妻に温かい言葉を掛けることもない。しかし、少年時代に負った足の病を抱えて働き続けて来た彼にとってはどちらも同じ大事なオールド・パートナー(英語原題)なのである。

音楽はあるがナレーションが一切ないが故に一種の映像詩となっている。時に労働詩であり、時に時代を忘れさせる叙景詩である。構図が大変素晴らしくどのショットを切っても絵になる。こんな風に構成されたドキュメンタリーに劇映画は分が悪い。監督はイ・チュンニョル。

この記事へのコメント

2011年03月20日 02:28
こんにちは。
韓国は、姓でどこの出身でどんな家柄でということがだいたいわかりますし、姓の数もとっても少ないですね。
それにしても、記憶に残る映画で、僕も久々の★9でした。
オカピー
2011年03月20日 17:37
kimion20002000さん、こんばんは。

多くの文化を中国と朝鮮半島から輸入した日本人が、夫婦の名前に関しては独自の文化を築いているのは興味深いですね。
素晴らしい映像詩でした。日本のTVのドキュメンタリーも頑張ってこのくらいの作品を作って貰いたいものです。

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