映画評「鈍獣」

☆☆★(5点/10点満点中)
2009年日本映画 監督・細野ひで晃
ネタバレあり

宮藤官九郎が自らの戯曲を映画用に脚色、新人の細野ひで晃が映像化したコメディー。

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雑誌編集者・静(真木よう子)が失踪した作家・凸川隆一を捜索する為に彼の故郷・福島県を訪れた際鉄橋の上で列車が急停車、向かいの席に座っている相撲取り然とした肥った男(芝田山康=元大乃国)に顔から突き当たって眼鏡を壊し、鼻血を流す。

という発端が、実はこれから詳細に語られる本編の終りでもある、という構成にちょっとニヤッとさせられる。

静は、出版社との契約書に名前が出ている同級生のホスト・クラブ経営者・江田(北村一輝)が作家を殺したのではないかと疑い、江田本人を含めて関係者(ユースケ・サンタマリア、南野陽子、佐津川愛美)から、一年前に突然現れた“凸やん”(浅野忠信)が自分たちに不都合な25年前の事件を小説にしようとしていることを知って色々手を尽くしても一向に止める気がない為毒殺しようとするがビクともしない。そこで一計を案じて25年前の記憶と直結する鉄橋に箱に詰めた“凸やん”を連れて行った、という話を聞き出す。

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ここで回想はスタートの時点に戻るわけだが、探偵に相当する静を事実上の狂言回しとして展開する誠に古典的な構成で、舞台で観たらば楽しいだろうなあと感じさせる一方で、映画で観ると、ドタバタにも拘らず25年前に死んだ凸川と彼に因んで名付けられた“凸やん”という二人の存在を展開の核とする内容に意外と観念的な印象が付き纏い、シュールなアート作品としては興味深いのだが・・・といった印象に留まる。

ミステリーとしては、通称“凸やん”が作家・凸川であるかどうか、彼らが殺そうとしている凸やんが本当の凸やんであるか、という二つの謎を軸としている。本格ミステリーでないので大方ネタばれしてしまうと、25年前の鉄橋事件はミスリードで、凸やんは恐らく二人とも現在まで生きている。相撲が強かった大きい方の凸川は恐らく最初に登場し中盤でソフトクリームをなめているあの大男であり、通称凸やんが殺そうとしてもなかなか死なないダイ・ハードである理由は25年前の事件にある、ということらしい。

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という次第でよく解らないところが多いものの、本作と「真夜中の弥次さん喜多さん」とを併せて、宮藤の死生観を考えるに興味深いブラック・コメディー作品とは言えるかもしれない。一作者の死生観が解ったところで何と言うことはないのですがね。

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