映画評「ハート・ロッカー」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年アメリカ映画 監督キャサリン・ビグロー
ネタバレあり
元夫君のジェームズ・キャメロンが発表した「アバター」と競って2010年度アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞を受賞したキャサリン・ビグローの戦争映画。女性監督が作品賞を受賞するのもオスカー史上初めてと話題には事欠かない。
イラク、死んだ爆弾処理班班長の代わりに赴任した新班長ジェレミー・レナーは恐怖を知らないかのごとく無謀に処任務をこなしていく。冒頭「戦争中毒というものがある」という言葉が掲げられ、登場から暫くその状態にあったと思われる主人公が、親しくなったイラク少年が人間爆弾になったこと(実は別人)を知った時に覚醒して、戦場の過酷な現実に疑問を覚える、というのが本作の、恐らくは本当のお話である。
一旦帰郷した後妻子を置いて再び戦場に戻る幕切れがある為にイラク戦争擁護であるとか、戦争肯定とか、アメリカ的ヒロイズムであるとか色々と言われることになったようだが、戦争中毒から覚めた彼は戦場に戻るに当たって自分と対決しなければならないのである。従って、ヒロイズムという意見は当っていなくもないが、敢えて否定しないからと短絡的に戦争擁護や戦争肯定という解釈になるのは首を傾げさせられる。
また、TVの戦争ドキュメンタリーのほうにもっと良いものがあるという意見も的外れで、どんなにドキュメンタリー風に作ろうがいかに上手に嘘をつくかが勝負である劇映画と、嘘をついたら価値のなくなるドキュメンタリーを同じ土壌で比べる料簡は全く理解できない。
或いは戦争はこんなものではないという批判が軍人を中心にあるようだが、こういう映画を観る必要があるのは軍人ではなく、戦場に行っていない普通の国民なのであるから、一般観客の想像力の範囲で本当らしさを植え付けられれば商業映画は役目を果たしたことになる。本当と本当らしさは全く違う概念である。
この映画で一番買いたいのは、戦場にいるような緊張感が味わえることで、爆弾処理の場面(処理自体ではなく監視する軍人の緊張)や戦闘場面では見ているこちらの息が詰まってくる。セミ・ドキュメンタリーである必然性を納得させることができる数少ない映画ではあるまいか。
批判大会になってしまいました。すみません。
2009年アメリカ映画 監督キャサリン・ビグロー
ネタバレあり
元夫君のジェームズ・キャメロンが発表した「アバター」と競って2010年度アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞を受賞したキャサリン・ビグローの戦争映画。女性監督が作品賞を受賞するのもオスカー史上初めてと話題には事欠かない。
イラク、死んだ爆弾処理班班長の代わりに赴任した新班長ジェレミー・レナーは恐怖を知らないかのごとく無謀に処任務をこなしていく。冒頭「戦争中毒というものがある」という言葉が掲げられ、登場から暫くその状態にあったと思われる主人公が、親しくなったイラク少年が人間爆弾になったこと(実は別人)を知った時に覚醒して、戦場の過酷な現実に疑問を覚える、というのが本作の、恐らくは本当のお話である。
一旦帰郷した後妻子を置いて再び戦場に戻る幕切れがある為にイラク戦争擁護であるとか、戦争肯定とか、アメリカ的ヒロイズムであるとか色々と言われることになったようだが、戦争中毒から覚めた彼は戦場に戻るに当たって自分と対決しなければならないのである。従って、ヒロイズムという意見は当っていなくもないが、敢えて否定しないからと短絡的に戦争擁護や戦争肯定という解釈になるのは首を傾げさせられる。
また、TVの戦争ドキュメンタリーのほうにもっと良いものがあるという意見も的外れで、どんなにドキュメンタリー風に作ろうがいかに上手に嘘をつくかが勝負である劇映画と、嘘をついたら価値のなくなるドキュメンタリーを同じ土壌で比べる料簡は全く理解できない。
或いは戦争はこんなものではないという批判が軍人を中心にあるようだが、こういう映画を観る必要があるのは軍人ではなく、戦場に行っていない普通の国民なのであるから、一般観客の想像力の範囲で本当らしさを植え付けられれば商業映画は役目を果たしたことになる。本当と本当らしさは全く違う概念である。
この映画で一番買いたいのは、戦場にいるような緊張感が味わえることで、爆弾処理の場面(処理自体ではなく監視する軍人の緊張)や戦闘場面では見ているこちらの息が詰まってくる。セミ・ドキュメンタリーである必然性を納得させることができる数少ない映画ではあるまいか。
批判大会になってしまいました。すみません。
この記事へのコメント
ご無沙汰しております。^^;
>戦場にいるような緊張感
本作の見所はこの点に尽きますね。
おっしゃられるように、ノンフイクションは、真実をいかに正確に記録するかに価値があるわけですからね。
フイクションは、嘘とわかっていてもどれだけ楽しませるかが命ですからね。人が殺されてもほんとうに殺されているわけではありませんからね。
ところで『メトロポリス』がありますね。楽しみです。(^^♪
なんど観たか忘れましたけど・・・また観ちゃいます。^_^;
色々他人様を批判しておりますが、映画評として本当に言うべきは、戦場にいるような緊張感若しくは臨場感と思いますね。^^
映画評というより、他人様のコメントをあげつらうことに終始しましたが、あの類のバカげた比較を映画評と思って書いていることを見過ごすことはできませんでしたよ。^^;
>『メトロポリス』
前回放映の分がまだHDDに入っています。ハイビジョンでの放映があるかもしれないので、まだブルーレイ化してないのです。^^
>この映画で一番買いたいのは、戦場にいるような緊張感が味わえることで、爆弾処理の場面(処理自体ではなく監視する軍人の緊張)や戦闘場面では見ているこちらの息が詰まってくる。
確かに。のっけの冒頭シーンからしてまさに戦場の緊張感が伝わってきた。そういう描写って他の作品でもビグロー監督は上手いですネェ。その点は認めます…です。ただ、この監督ってこういう描写は上手いのだけど、なんか最後の一点でどうかすると少女趣味的なものを感じてしまう。作家の高村薫の読後感と似た感覚。ここまで言ったら後は個人の好みでもあるんでしょうけどね。
一日遅れのレスです。
僕にしても臨場感というか戦場にいるかのような錯覚に陥らせるだけの緊迫感の情勢は過去の名作にも殆ど例がないと思いつつ、良い映画を観たなあという余韻はないんですよね。
そういうのはやはりストーリー性の強い作品でないとなかなか難しいようです。
全体としてはピンと来られなかったようですが、少しでも楽しめるところがあって良かったと思います。
僕も解ったような事を言っておりますが、この映画の解釈はなかなか難しいところがありますね^^;