映画評「山桜」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年日本映画 監督・篠原哲雄
ネタバレあり
近年大人気の時代小説家・藤沢周平の短編「山桜」を篠原哲雄を映画化した作品。
最初の夫に先立たれた後磯村家に嫁いだ野江(田中麗奈)が、小役人ながら父子共に蓄財にしか興味がなく姑が冷酷極まりない一家に馴染めない或る日、叔母の墓参からの帰路再婚前に「母一人子一人の家で苦労が多いだろう」と縁談を断った手塚弥一郎(東山紀之)と出会い、掛けてくれた優しい言葉に心が動かされる。
そんな折手塚は出自を笠に強権的な農政で農民に塗炭の苦しみを強いている元凶の上役(村井国夫)を斬殺して入牢、藩主が江戸から帰国するまで沙汰待ちとなる。その前に野江は墓前の日に手塚が折ってくれたように折った山桜を携え、母親(富司純子)が一人暮す手塚の家を訪問する。
原作にも明確な結末がない模様で、弥一郎の処分がどうなるか曖昧なままで終わる。このお話の主題はく野江が幸福を求める為に自分の意志を発揮するようにまでの紆余曲折を描くことにあるようだから、余韻を出すという目的とは別に、この構成には問題がないだろう。また、終盤の展開や台詞から考えて弥一郎は“沙汰無し”に終るのではあるまいか?
本作の一番の弱点は、弥一郎の刃傷沙汰までの描写が映画文法的に些か心許ないことである。彼はある一家の祖母と孫娘が困窮の末に死んだことを粗末な墓を見て知る。彼は以前孫娘におにぎりを分けたことがある。しかし、その間の一家の困窮は観客にのみ知らされ(ているようにしか見えず)、弥一郎が家族をどのように観ていたか中抜け状態になり、説得力が些か薄くなっているのである。僕は映画文法や映像言語、視点の首尾一貫性という観点で映画を見るのでどうしても気になってしまう。
ただ、僕はこれを採点には加味しなかった。ここまで巧みに醸成されている日本的情緒を素直に味わえば良いと思うからである。
2007年日本映画 監督・篠原哲雄
ネタバレあり
近年大人気の時代小説家・藤沢周平の短編「山桜」を篠原哲雄を映画化した作品。
最初の夫に先立たれた後磯村家に嫁いだ野江(田中麗奈)が、小役人ながら父子共に蓄財にしか興味がなく姑が冷酷極まりない一家に馴染めない或る日、叔母の墓参からの帰路再婚前に「母一人子一人の家で苦労が多いだろう」と縁談を断った手塚弥一郎(東山紀之)と出会い、掛けてくれた優しい言葉に心が動かされる。
そんな折手塚は出自を笠に強権的な農政で農民に塗炭の苦しみを強いている元凶の上役(村井国夫)を斬殺して入牢、藩主が江戸から帰国するまで沙汰待ちとなる。その前に野江は墓前の日に手塚が折ってくれたように折った山桜を携え、母親(富司純子)が一人暮す手塚の家を訪問する。
原作にも明確な結末がない模様で、弥一郎の処分がどうなるか曖昧なままで終わる。このお話の主題はく野江が幸福を求める為に自分の意志を発揮するようにまでの紆余曲折を描くことにあるようだから、余韻を出すという目的とは別に、この構成には問題がないだろう。また、終盤の展開や台詞から考えて弥一郎は“沙汰無し”に終るのではあるまいか?
本作の一番の弱点は、弥一郎の刃傷沙汰までの描写が映画文法的に些か心許ないことである。彼はある一家の祖母と孫娘が困窮の末に死んだことを粗末な墓を見て知る。彼は以前孫娘におにぎりを分けたことがある。しかし、その間の一家の困窮は観客にのみ知らされ(ているようにしか見えず)、弥一郎が家族をどのように観ていたか中抜け状態になり、説得力が些か薄くなっているのである。僕は映画文法や映像言語、視点の首尾一貫性という観点で映画を見るのでどうしても気になってしまう。
ただ、僕はこれを採点には加味しなかった。ここまで巧みに醸成されている日本的情緒を素直に味わえば良いと思うからである。
この記事へのコメント
いつもながら読み応えがありました。