映画評「無法松の一生」(1958年版)
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1958年日本映画 監督・稲垣浩
ネタバレあり
稲垣浩は岩下俊作の小説「富島松五郎伝」(後に映画と同じ題名に改題)を「無法松の一生」として1943年と58年に二度映画化している。僕は大学時代に43年版を観た数年後にこの58年版を観たが、検閲の為に作者が不満を覚えたという43年版のほうに寧ろ強い感銘を受けた。
福岡県小倉、暴れん坊の車夫・松五郎(三船敏夫)は少年・敏雄を救ったことから陸軍大臣・吉岡(芥川比呂志)と知り合うが彼が間もなく急死した為、その後敏雄と未亡人良子(高峰秀子)の面倒を甲斐甲斐しく観るうち良子に対して恋慕の情を覚えるが、しがない車夫と軍人の妻という身分の差を慮って「俺は汚い」とだけ言って告白することなしに身を引き、やがて酔いどれて雪の中に倒れる。
身分の差が厳然とあった封建時代の忍ぶ慕情と男気にやはり感銘を覚えざるを得ないが、43年版の阪東妻三郎に比べると三船敏郎にはどこか理に落ちるところがあって心が揺さぶられるというところまで行かない。僕のご贔屓・高峰秀子も役柄に対してやや庶民的過ぎるだろうか。
人力車の車輪を通して経年を示す趣向は繋ぎとしても活用されていて、ややくどいというご意見も解らぬではないものの、それが止まった時に彼の死を暗示する為には必要な分量だったような気がする。
NHKの解説でも指摘されているが、富久娘のポスターの使い方もうまく、彼がそれを貰い受ける場面でのサブリミナル的な未亡人の挿入や、彼の死後家の中をトラックバックしてポスターがフレームに入ったところで止まるところなど誠に素晴らしい。こういうところが昔の映画は違う。
1958年日本映画 監督・稲垣浩
ネタバレあり
稲垣浩は岩下俊作の小説「富島松五郎伝」(後に映画と同じ題名に改題)を「無法松の一生」として1943年と58年に二度映画化している。僕は大学時代に43年版を観た数年後にこの58年版を観たが、検閲の為に作者が不満を覚えたという43年版のほうに寧ろ強い感銘を受けた。
福岡県小倉、暴れん坊の車夫・松五郎(三船敏夫)は少年・敏雄を救ったことから陸軍大臣・吉岡(芥川比呂志)と知り合うが彼が間もなく急死した為、その後敏雄と未亡人良子(高峰秀子)の面倒を甲斐甲斐しく観るうち良子に対して恋慕の情を覚えるが、しがない車夫と軍人の妻という身分の差を慮って「俺は汚い」とだけ言って告白することなしに身を引き、やがて酔いどれて雪の中に倒れる。
身分の差が厳然とあった封建時代の忍ぶ慕情と男気にやはり感銘を覚えざるを得ないが、43年版の阪東妻三郎に比べると三船敏郎にはどこか理に落ちるところがあって心が揺さぶられるというところまで行かない。僕のご贔屓・高峰秀子も役柄に対してやや庶民的過ぎるだろうか。
人力車の車輪を通して経年を示す趣向は繋ぎとしても活用されていて、ややくどいというご意見も解らぬではないものの、それが止まった時に彼の死を暗示する為には必要な分量だったような気がする。
NHKの解説でも指摘されているが、富久娘のポスターの使い方もうまく、彼がそれを貰い受ける場面でのサブリミナル的な未亡人の挿入や、彼の死後家の中をトラックバックしてポスターがフレームに入ったところで止まるところなど誠に素晴らしい。こういうところが昔の映画は違う。
この記事へのコメント
最近の作品は、雑なのが多くて悲しくなります。デジタル化の影響でしょうか?
>デジタル化の影響
フィルムでないと撮影現場でも編集室でも緊張感が全然違いますよねえ。
HDでは失敗しても上書きできるし、コンピューターで編集は何度もできる。難しいシーンはCGで作ってしまう。
昔は失敗したら高いフィルム代がパー、編集室でも切るところを間違えると大変なことになったわけですから。ロケーション探しに何カ月もかけることもあったとか。
しかし、実際に出来あがった作品は昔の方がしっかりしているのですからねえ^^;
>お気づきでしょうか?
>既に新しいブログに移行して、そこからの投稿になっています!
その事をすっかり忘れていました!違いを判ってなかったです(苦笑)。
>愛知のビエンナーレでも同じようなことがありました。
表現の不自由。あれも随分話題になりました。
>3・11で僕の映画ブログ友達も随分消えてしまいました。
>元気にやっていると良いですが。
その通りです。
あるいは別の管理人さんで体調を崩されて、ある時から更新が止まったままと言うパターンもあります。
>数年前に「無法松の一生」(1965年版)を録画しました。勝新太郎が松五郎役です。
>なぜかラストの数分が録画できていませんでした。
僕は43年版も観ていますが、65年版は観ていないです。他に、三国連太郎主演の63年版もあるそうで、スターシステム時代の人気作ですね。
僕も同じような経験をしたことがありますが、地上波であれば、時間変更でしょう。
>1943年版を見ました。
>いくつかの場面が内務省の検閲で削除され、戦後もGHQにより一部が削除されたと言うのがこれまた残念
そうなんですよ。そういう時代が再び来ないように頑張るしかない。
黒澤明もカット云々ではないですが、両者に苦しめられた口ですね。
43年版のヒロイン役の女優・園井恵子は、広島での被曝で亡くなりました。子役時代の長門裕之が出演していたのも有名。
>あるいは別の管理人さんで体調を崩されて、ある時から更新が止まったままと言うパターンもあります。
僕をご贔屓にしれくれた読者の方でも突然来訪されなくなった方が結構います。元気であれば良いのですが、闘病中という方もいらっしゃったので。
>スターシステム時代の人気作ですね。
原作が優れているからでしょうね。
>43年版のヒロイン役の女優・園井恵子は、広島での被曝で亡くなりました。
猪俣勝人先生の「日本映画俳優全史」の多々良純のところに園井恵子の悲劇的な最期の事が書かれています。そして多々良さんも舞台版「無法松の一生」に出演していたんですね。
>子役時代の長門裕之が出演していたのも有名。
可愛い子役でした。
>元気であれば良いのですが、闘病中という方もいらっしゃったので。
やはり健康が一番です。ここのところ昭和の有名人の訃報が相次いでいます。
そして「死亡遊戯」で悪の組織の大番頭役だったヒュー・オブライエンがトレイシーの次男坊役で出ていました。トレイシーやロバート・ワグナーに遠慮しながら演技しているように見えました(笑)。
双葉師匠は「折れた槍」を評価していました。
>原作が優れているからでしょうね。
読む予定あり!
>園井恵子の悲劇的な最期の事
大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」に、広島に向う女優として登場しました。結果を知っているだけに悲しくて見るのが辛かった。
>スペンサー・トレイシー主演の「折れた槍」を見ました。
>有名な作品のリメイクだとか。
5年くらい前の「他人の家」のリメイク。戦後のリメイクとしてはかなり短いスパンです。
>双葉師匠は「折れた槍」を評価していました。
シネマスコープの活用の仕方に新機軸を示したという観点でしたね。
>「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」
これも未見。見たいです。
>戦後のリメイクとしてはかなり短いスパンです。
1時間36分です。
関係ないけど大映の二本立ては1時間30分以内でした。それが良かった面と悪かった面があった事でしょう。
>シネマスコープの活用の仕方に新機軸を示した
そうです。さすが双葉師匠です!
>北朝鮮はこれからもミサイルを飛ばしてくるでしょう。
異論はあるでしょうが、僕は北朝鮮に関しては、そう心配していません。
彼らの核保有は、明らかに自国防衛(体制維持)の為なので、中露のような他国を攻撃する腹積もりはないと思われます。親(アメリカ)を振り向かせようと反抗する子供みたいなものです。中国も北朝鮮の核増強には良い顔をしていません。そもそもあの程度の数では他国を攻撃した瞬間に自国が滅びてしまう。
日本にとって一番怖いのは中国ですが、経済の事を考えると、日本そのものを狙うことはまずない。あるとしたら台湾有事の時に、沖縄の米軍基地にミサイルがやって来る可能性がかなりあるということですね。その時に日本はどうするかということです。
日米同盟がある限り核保有はできないでしょうね。その意味では北朝鮮も日本も同じ立場。
>関係ないけど大映の二本立ては1時間30分以内でした。それが良かった面と悪かった面があった事でしょう。
1960年代までは大作以外は二本立て興行が常識(つまり、日本ではプログラム・ピクチャーが主流)だったらしく、プログラム・ピクチャー故に、大映に限らず、短い映画が多かったようですよ。
>明らかに自国防衛(体制維持)の為なので、中露のような他国を攻撃する腹積もりはないと思われます。
それを知ってホッとしました。僕は小心者なので(苦笑)。
>そもそもあの程度の数では他国を攻撃した瞬間に自国が滅びてしまう。
国力の違いですね。
>日米同盟がある限り核保有はできないでしょうね。その意味では北朝鮮も日本も同じ立場。
あははは・・・・(と力の無い笑い方)。
>プログラム・ピクチャー故に、大映に限らず、短い映画が多かったようですよ。
やはり興行・商売です。
>バイデン氏、OPECプラスの「短絡的な」減産決定に失望
世界経済に影響が出ますか?
>それを知ってホッとしました。僕は小心者なので(苦笑)。
その道の権威でもない僕の言うことなど大した意味もないですが、総合的に考えれば一々騒ぐ方が変であるというのは確かでしょう。
それより全く可能性がゼロとは言えなくなったロシアの戦術核の使用が嫌ですね。小型とは言え、大きな被害が出ることは確かで、NATO側も大きな報復をするでしょう。それが第三次大戦あるいは核戦争まで行発展するかどうかは解りませんが、世界にとってダメージの大きな戦いになるのは避けられませんから。
>あははは・・・・(と力の無い笑い方)。
いよいよ中国が何かやらかそうだとなれば、核共有は現実的な路線としてあるかもしれません。共有しても日本の単独判断では使用できないわけですが。
>バイデン氏、OPECプラスの「短絡的な」減産決定に失望
>世界経済に影響が出ますか?
多少はあるでしょうね。日本は特に痛いのでは?
そうでなくても景気後退の予想に対処する減産ですから、余りやりすぎると予想以上の後退になるかもしれず、OPECプラスとってもマイナス(洒落?)。
エネルギーとしての原油は、代替エネルギーをどんどん増加してOPECの連中を追い込む時代が早く来れば良いと思いますが、原油はプラスティック製品として大きな用途があるので、ゼロということにはならない。石炭からも作れますが。