映画評「オーケストラ!」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年フランス映画 監督ラドゥ・ミヘイレアニュ
ネタバレあり

監督のラドゥ・ミヘイレアニュは名前から判断してルーマニア系であろうし、出演者にもロシア人が多い為、東欧的な印象を残すフランス映画である。

30年前ブレジネフ政権末期の頃ソ連ではユダヤ人排斥が行なわれ、ユダヤ人であった優秀なソロ・バイオリストの女性を起用した為ボリショイ交響楽団の指揮者の座を追われ、ロシアになった今でも清掃係に甘んじているアンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコフ)が、清掃中にパリの劇場からLAフィルの代わりにボリショイに出演交渉をするファックスが届いているのを見て一計を思いつく。彼同様に零落しているかつての仲間と共にボリショイ楽団として出演してしまおうという算段である。

そして、ある理由からソロ・バイオリニストに若く実力のあるアンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ローラン)を指名し、何とかフランス到着の段に至るものの、メンバーたちが浮かれてパリでてんでんばらばらの勝手な行動を取るので、フィリポフは大弱り。

というコミカルなドタバタが全体の3分の2以上を占めるが、笑いの感覚が東欧的で些か垢抜けず、展開に要領を得ない箇所が目立つ。

ところが一転、フィリポフの精神状態に不安を感じて降板すると言い出したアンヌ=マリーを関係者の働きで呼び戻し、初めは覚束なかった楽団の演奏が彼女が演奏を始めるや締まった演奏に変わり、メンバーが彼女が誰であり彼女は自分が誰であるかを知る。という終盤は、作者がどうしても見せたかった眼目らしくて大変素晴らしく感動的なシーンになっている。

従って、上で指摘した前半における展開のぎこちなさは一部計算で、セミ・ミステリーの構成と解らぬよう謎解きの様相を極力見せないように工夫したと考えられないこともない。

昔取った篠塚、いや、昔取った衣笠、じゃなくて昔取ったきねづか・・・でした!

この記事へのコメント

2011年06月23日 10:39
こんにちは。
たぶん、前半のドタバタ劇は、ラストの高揚のために、計算されたものなんでしょうねぇ。でもまあ、これは演技の世界ですが、現実の音楽界でもヴァイオリンのソリストでブスはほとんどいませんねぇ(笑)
2011年06月23日 15:00
かなりケチをつけておりますが
遠慮なくTB持参いたしました。^^
もうちょいとヒネリが欲しかったかな、
と、すぐ泣く方々大勢さんの中で
ポカンと観終わったことを記憶しております。
オカピー
2011年06月23日 22:10
kimion20002000さん、こんばんは。

>ドタバタ劇
僕もそう思うのですが、少し呼吸が悪くて洒落っ気が足りず、作者が想定したほど上手いコントラストになっていない感じがありました。
最後の演奏場面は映画的に上手く作っているとは思いましたが、多くの方が仰るほどは感銘できなかったかな。
オカピー
2011年06月23日 22:36
vivajijiさん、こんばんは。

>ケチ
違う観点かもしれませんが、僕にも文句を言いたいところが色々ありました。
嘘っぽい話でも良いけど、フランス映画らしくもう少し洒落っ気が欲しかったです。

最後は感銘的ではありますが、僕の涙腺はそれほど刺激されませんでしたよ(笑)。

この監督の作品では、もう一本だけ公開されている「約束の旅路」のほうがお気に入りです。

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