映画評「フローズン・リバー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督コートニー・ハント
ネタバレあり

2008年度のアカデミー賞脚本賞と主演女優賞の候補になったインディペンデント映画。コートニー・ハントという女性監督が自らの短編を長編化した長編デヴュー作ということだが、感心させられた。

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ニューヨーク州と言っても広うござんす、ニューヨーク市から何百キロも離れたカナダとの国境にほど近い場所で、ギャンブル好きの夫に金を持って逃げられた為、二人の息子とトレーラーハウスで暮らす白人女性メリッサ・レオは、その費用の返済も満足にできないので夫を探すうちに夫が捨て置いた車を盗んだモホーク族の女性ミスティー・アパムと保留地で関わり合うことになる。
 夫に死なれたモホーク女性は義母に奪われた一歳の子供を取り返す為にも車が必要で、アジア人の密入国を手伝って生活費用と資金を稼いでいる。借金に追われるメリッサも興味を持ってその仕事を手伝うことになるが、パキスタン人夫婦の時に「爆弾ではないか?」と雪道に捨てたバッグに入っている赤ん坊を二人で協力して探し出し、懸命に蘇生させた時に二人に子供を愛する母親ならではの共感が生まれる。

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これをもって違法行為を辞めようとした矢先に息子がトレーラーハウスを台無しにした為新しい家の購入が必要になったメリッサは嫌がるミスティーを誘って最後の仕事に取り掛かるが監視の警察に追われ、治外法権のある保留地に逃げ込む。しかし、保留地のトップも問題を無視できず、メリッサを逃亡させてミスティーが追放されるか、メリッサを逮捕させるかという二者選択に迫られる。

不法移民自体はそれほど珍しい素材ではないものの、手伝う側の話は余りお目にかからないし、それも子供との生活を維持若しくは取り返す為に懸命な母親が実行するということで断然感興が湧く。さらに、インディアン保留地での治外法権の紹介もあり、素材的になかなか興味深い。凍った、国境を流れているセントフローレンス川を車で渡るという設定により必然的に環境描写も重要な要素となって、映画的な魅力を生み出す。

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インディペンデントらしいセミ・ドキュメンタリーだが、手持ち若しくは肩掛けカメラをこれ見よがしに激しく動かしたり長回しをするといった匠気のない自然なタッチにも好感を覚える。

そして何よりも、その環境に沈潜する二人の母親の思いこそ、我々の胸を強く打つ。幕切れの二人の心境も非常によく理解でき、四月に母を失った僕は涙を禁ずることはできない。勿論両親からの伝聞だが、一歳の時母親の懸命の看病で僕の命が救われたことがあるということを思い出していた。

オスカー候補のメリッサ・レオの好演も印象深い。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2011年07月15日 07:04
これはひさしぶりに観れる映画でありました。
トレーラーハウスで暮す人が年々増えているそうで、超大国であるアメリカ合衆国の現状を見せる映画でありました。
2008年公開だけど、買い手がつかないで日本公開になったのが2010年だそうで、不法移民とか一般の日本人にはなじみがないとか出演陣に有名人がいないとかというのが理由だったようですが・・・・シネマライズが買って公開。ヒット。
『ハングオン』も同じような理由で公開が遅れましたが公開したら大ヒット!おかげで二作目は大手が買って大公開。
日本のバイヤーも落ちたものです。(~_~;)
オカピー
2011年07月15日 16:16
ねこのひげさん、こんにちは。

そうでしたね。
アメリカにおける貧困という問題を背景に持ちながらも、基調は母親の愛情で、不法移民問題を絡めて、なかなかうまく作ったものだなあと感心させられました。

今この手の映画はインディということで片づけられてしまいますが、ニューシネマ後期の時代だったら堂々と全国公開されたかもしれないですね。この映画のタッチはその時代ならメインストリートとして通る内容を持っていますよ。
当時はミニシアターがという配給形式がなかったから、勢い全国公開になりやすいわけですが。

思い出すのは僕も姉と観に行った「ジョニーは戦場へ行った」という地味~な反戦映画が1973年の興行収入でベスト10に入ったことですね。ティモシー・ボトムズという若手俳優がちょっと知られる程度の配役でしたが、観客動員数が最低で映画を観るのはほぼ映画ファンに限られる時代だったから、観客の質も今よりはずっと高かった(はず)^^

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