映画評「BOX 袴田事件 命とは」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年日本映画 監督・高橋伴明
ネタバレあり

全く偶然にも、東京電力女性社員殺害事件の再審の可能性が出て来たことが新聞に載った日に、恐らくは冤罪であろう袴田事件を扱った本作を観ることになった。

1966(昭和41)年6月、静岡県清水市のみそ製造会社専務一家4人が殺害された上で放火される事件が発生、従業員でもあった元プロボクサー袴田巌(新井浩文)が逮捕され、警察に痛めつけられ拘留期限三日前に自白する羽目に追い込まれる。
 それに疑問を持ったのが主任判事の熊本正道(萩原聖人)で、1年後に検察側から血液の付着した衣服が証拠として提出されるに及んで、警察の捏造を確信、多数決の末に死刑判決を出さざるを得なかったことに対する罪悪感に堪え切れず遂に退職する。退職後大学の講師を務めながら証拠品がいかにインチキであるか実験を続けるが、控訴・上告は尽く退けられ、精神的に追い込まれていく。

熊本氏の告発がニュースになったのを僕も記憶しており、映画は専ら熊本氏側の見解から作られている。事実がこの作品通りならば間違いなく冤罪であり、刑事・検察官・裁判官はいずれも“有罪”である。全くもって義憤を禁じえない。

「真昼の暗黒」の八海(やかい)事件を始め、映画がこれまで扱った冤罪事件では大概その後無罪の判決が下っているが、袴田事件で再審が通って判決が覆る可能性は低そうである。しかし、これだけ世間に注目されると、仮に再審が認められなくても法務大臣が嫌がって第二の“帝銀事件”のような結末を迎えるのではないか。

本作の目新しさは、映画自体の手柄ではないが、裁判官に着目していることである。袴田氏の現状を観れば、批判されることが少ない裁判官の責任についてももっと追及される必要があると思わざるを得ず、主人公・熊本の言う「常に法廷では裁判官自身も裁かれている」という言葉は極めて重い。

監督はベテラン高橋伴明で、解り易い作りに好感が持てるが、二人が運命共同体であることを示す幻想的な終盤はちょっとやりすぎである。それまでの平明なタッチでそのまま進めれば良かったのではないか。

裁判官と言えども、多くの場合、自分がかわいいのです。

この記事へのコメント

vivajiji
2011年07月30日 05:55
>幻想的な終盤はちょっとやりすぎである。

ほんと。私、椅子からずり下がりました。
「あらあら、どうしちゃったの~」描写。
張りつめていた糸が急にダラリン(- -)
あれはいけませんでしょ~伴明さん。^^
問題提起ものはあまり色付けしないで
静かに終わったほうが印象に残るのにね。

ところで
プロフェッサーの最近の点数づけ
甘めに感じるんですけど。(^ ^)
ねこのひげ
2011年07月30日 06:20
21世紀になった今日でも、いまだに恫喝すれば白状するだろうという警察権力の感覚には恐れ入りますけどね。
20代の頃、35キロオーバーのスピード違反で検察庁に行ったことがありますが、突然怒鳴られてあ然でしたね。
『太陽に吠えろ』の見すぎなんじゃないと、こちらはいたって冷静で・・・超難関のはずの司法試験突破した人間がこの程度かと軽蔑してしまいました。
これじゃあ、免罪事件が起きるはずだと思いました。

東京電力女性社員事件も事実を積み重ねて行けば、こんなことにはならなかったと思うんですけどね。
オカピー
2011年07月30日 16:22
vivajijiさん、こんにちは。

>椅子からずり下がりました
こういう素材は、即実的に扱ってこそ、感銘的なのにね。
勿体ないことをしました。

映画的に多少問題があっても注目すべき内容を含んだ作品ですが、ご覧になった方が意外に少ないようです。
何だか勿体ないなあ。

>点数づけ
何だか母の死以来自分に自信が持てなくなったせいでしょうか、迷った時には高い方を選びがちですし、そうでなくても甘くなっていると思います^^
つまらない作品が増えたせいもあるかもしれません。みんなつまらないからハードルが低くなっているのかなあ。
もう新しい映画は、特にメジャー系は観なくても良いような気がしてきましたよ。
あ~あ、やんなっちゃった(笑)
オカピー
2011年07月30日 17:23
ねこのひげさん、こんにちは。

>白状
今を去ることおよそ30年大学生だった僕は、3月でも寒いある日、帰省する途中の乗り継ぎ駅で次の列車が出るまで1時間以上もあるので時間をつぶし、動くことで寒さを防ごうと駅の構内をうろうろしていたら、鉄道公安官にしょっぴかれて“きせる”容疑でいきなり怒鳴られましたよ。
安い切符を持っていたのは運が悪かったですが、“きせる”をするには定期券も持っていず、色々の質問攻めにもとりあえず矛盾なく答えたのでおよそ一時間で解放されましたが、最初から犯人扱いで、何にもなくても謝りもしない。そこで一旦清算して降りる駅までの切符を買ったので、いくらか損をしましたし、やつが常識と称して言っていることの常識のなさにも腹がたちました
帰宅後母親の怒ったこと怒ったこと。これだって立派な冤罪ですからね。

この映画を観ても何故かそれは思い出しませんでしたが、ねこのひげさんのコメントで思い出しました。
懐かしいと言うか何と言うか^^;

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