映画評「海角七号/君想う、国境の南」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年台湾映画 監督ウェイ・ダーション
ネタバレあり
台湾映画として自国内で最もヒットし、トータルでも「タイタニック」に次ぐ2位の配収記録を打ち立てた話題作だそうであります。監督は長編デビュー作というウェン・ダーション。
敗戦により台湾を離れ帰国した日本人教師が愛した教え子の台湾の少女に宛てた手紙が本人の声により語られるところから始まる。実際に読んでいるのは、数十年後現在の若い郵便配達夫・阿嘉(ファン・イーチェン)で台北でのバンド活動に挫折して台湾南部の恒春に帰郷して配達の仕事を始めたばかり。折しも故郷では、町興しの為に日本の中孝介(本人)のライブをフィーチャーしたイベントを開催することになっていて、議長の主張により前座として全員が地元出身のバンドが組まれることになる。
このメンバー募集の過程そのものが本作全体のコメディ・リリーフのような印象だが、結局阿嘉を中心とした老若男女入り乱れる即席バンドが出来上がる。この時点では手紙との関連性はなく、彼らの面倒を見ることになった日本人女性・知子(田中千絵)が遅々として進まないバンドの練習ぶりにイライラするうち阿嘉と恋に落ち、手紙の存在に意味が出て来る。
つまり、手紙では日本人男性が恋人を置いて台湾を離れなければならず、現在では知子が自らの将来の為に日本へ帰ろうとしている、という相似性を、現在では阿嘉が台湾に残る立場で意識するという構図である。彼はその手紙にインスパイアされて歌詞を書き、歌を通して思いのたけをぶつけるわけである。手紙の男性の離台は半ば時代故の宿命であり、現在の女性のそれは意志である、という差が上手く使われている。
かくしてセンチメンタルな手紙と現在の恋愛が交錯する部分の叙情性は観客をしんみりとさせるだけのものがあるが、現在のコミカルな部分がその叙情部分に溶け込まず、映画としての統一感を崩してマイナスに作用する。その意味では韓国映画的で、こういう部分は我が日本映画に一日の長があるようである。
演出的には序盤の人物紹介部分もちょっとぎこちない。人物の捌き方から群像劇と思って観ていたら、結局は恋愛映画だった。厳密に言えば、複数の民族が絡み合う台湾の国情を反映しようという狙いもあるようなので、群像劇と思ったのはあながち間違いではないものの、焦点の合わせ方が甘いのであろう。
また、手紙を受取人が日本人名なので勘違いして観続けることになりかねない。日本統治時代にはかく日本名を名乗るケースもあったらしく、この辺りを知らない多くの日本人と知っている台湾人とでは本作に対する印象が違うのは無理からぬことで、台湾でヒットしたと聞いてもピンと来ない日本人が多いに違いない。
本作のヒロイン、余り日本人的ではありませぬ。最近こういう人が増えたかもしれませんが。
2008年台湾映画 監督ウェイ・ダーション
ネタバレあり
台湾映画として自国内で最もヒットし、トータルでも「タイタニック」に次ぐ2位の配収記録を打ち立てた話題作だそうであります。監督は長編デビュー作というウェン・ダーション。
敗戦により台湾を離れ帰国した日本人教師が愛した教え子の台湾の少女に宛てた手紙が本人の声により語られるところから始まる。実際に読んでいるのは、数十年後現在の若い郵便配達夫・阿嘉(ファン・イーチェン)で台北でのバンド活動に挫折して台湾南部の恒春に帰郷して配達の仕事を始めたばかり。折しも故郷では、町興しの為に日本の中孝介(本人)のライブをフィーチャーしたイベントを開催することになっていて、議長の主張により前座として全員が地元出身のバンドが組まれることになる。
このメンバー募集の過程そのものが本作全体のコメディ・リリーフのような印象だが、結局阿嘉を中心とした老若男女入り乱れる即席バンドが出来上がる。この時点では手紙との関連性はなく、彼らの面倒を見ることになった日本人女性・知子(田中千絵)が遅々として進まないバンドの練習ぶりにイライラするうち阿嘉と恋に落ち、手紙の存在に意味が出て来る。
つまり、手紙では日本人男性が恋人を置いて台湾を離れなければならず、現在では知子が自らの将来の為に日本へ帰ろうとしている、という相似性を、現在では阿嘉が台湾に残る立場で意識するという構図である。彼はその手紙にインスパイアされて歌詞を書き、歌を通して思いのたけをぶつけるわけである。手紙の男性の離台は半ば時代故の宿命であり、現在の女性のそれは意志である、という差が上手く使われている。
かくしてセンチメンタルな手紙と現在の恋愛が交錯する部分の叙情性は観客をしんみりとさせるだけのものがあるが、現在のコミカルな部分がその叙情部分に溶け込まず、映画としての統一感を崩してマイナスに作用する。その意味では韓国映画的で、こういう部分は我が日本映画に一日の長があるようである。
演出的には序盤の人物紹介部分もちょっとぎこちない。人物の捌き方から群像劇と思って観ていたら、結局は恋愛映画だった。厳密に言えば、複数の民族が絡み合う台湾の国情を反映しようという狙いもあるようなので、群像劇と思ったのはあながち間違いではないものの、焦点の合わせ方が甘いのであろう。
また、手紙を受取人が日本人名なので勘違いして観続けることになりかねない。日本統治時代にはかく日本名を名乗るケースもあったらしく、この辺りを知らない多くの日本人と知っている台湾人とでは本作に対する印象が違うのは無理からぬことで、台湾でヒットしたと聞いてもピンと来ない日本人が多いに違いない。
本作のヒロイン、余り日本人的ではありませぬ。最近こういう人が増えたかもしれませんが。
この記事へのコメント
僕もヒロインの女性はちょっと・・・。
あのじいさんが良かったですね。本物の演奏家らしい。
>ヒロイン
作者側の意図ではないんでしょうが、恥も礼儀も知らない感じが嫌でした。イライラの表現なのでしょうけどね。
>じいさん
何と言っても本物の味ですね。
番組を引退して、台湾に演技の勉強をしに行ってきます。と言ったときは、なんでハリウッドやニューヨークじゃあないんだ?おかしな人だな?と思ってましたが・・・
数年後、芸能ニュースで今一番台湾で人気のある日本人女優として紹介されたときは、本当に行ったんだ!とビックリしました。
台湾に行ってからの苦労などをブログに綴っていたら評判を呼んで、テレビドラマに起用されて人気が出たようです。
映画は彼女の人気に負うところが多いようで、次の映画も作られているようです。
国籍不明の美人が多いですね。いまの日本女性は、まるでフランス女性のようだと言った外人がいました。
まあ、あくまで美人の場合だけだと思いますが(^^ゞ
>NHKの美術系の番組
ちょっとクイズ形式のあの番組ですか?
毎回ではないですが、BSハイビジョンで観ていました。地震と母の死により生活パターンが変わったのでその後は観ていないのですが。
>田中千絵さん
何だか、世界で尊敬される100人の日本人に選ばれたのだとか。
なのに、しりませなんだ^^;
>国籍不明
グローバルとかインターナショナルとか言っていますが、要は個性がなくなってだんだんつまらない世の中になっているような気がします。
映画もねえ、アクション映画やSF映画などではフランス製もロシア製もアメリカ製も殆ど区別がつかない。
昔は数カット観れば、出演者や言語を見たり聞いたりするまでもなく、カット割りとかカメラワークとかフィルムの色なんかですぐに解りましたが、同じようなものが増えただけで少しも有難くないですよ。
現在の姿を見るとずいぶん変わった感じです。
海外に出ると純粋な日本人でもハーフぽくなるのは食べ物の影響でしょうかね。(~_~;)
中国映画にも出て活躍のようです。
場所を得たということでしょうね。
僕が観ていたのは「迷宮美術館」と言って、画家にまつわる興味深いことをゲスト三名に三択で答えさせるものでした。
どうも現在はやっていないようです。
地震より前は朝方の再放送を観ていたのですが、朝TVを観る習慣が基本的になくなりまして。
>海外
その他の文化も吸収というか、色に染まるというか、色々あるんでしょうねえ。
>場所を得た
見事に試みが成功したようで、喜ばしい。
僕もあやかりたいものですが、行動しないからどうにもなりません^^;