映画評「昼下りの情事」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1957年アメリカ映画 監督ビリー・ワイルダー
ネタバレあり
ビリー・ワイルダーの名人芸が味わえるロマンティック・コメディ―の傑作。
開巻は後年の「あなただけ今晩は」(1963年)と類似するパターンで、誰でもいつでもキスをしているパリという紹介から始まり、紹介するのが探偵業のモーリス・シュヴァリエ。本当の巴里っ子でござんす。フランスが舞台なのに話されているのが英語なんて変だという無粋なことを仰る方がいらっしゃいますが、彼のフランス訛りの英語を聞いていればそんな気分も起こりにくいでありましょう。
その彼にはうぶな娘アリアーヌ(オードリー・へプバーン)がいて、日々父親が探っている浮気調査のデータを調べているうちに、有名なプレイボーイのフラナガン氏(ゲイリー・クーパー)が浮気相手のマダムXの夫に射殺されそうになっていると知り、ベランダから彼の部屋に入り込み見事未然に防いだことから知り合いプレイガールの振りをすると、余りの可憐さに“女性とは遊び”を決め込んでいたプレイボーイ氏の方の調子もおかしくなる。
かくして、浮気はなかったと気を良くしたミスターXから紹介された探偵氏に調査を依頼するが、探偵氏は娘の動向に異変を感じていたので調査するまでもなく、フラナガン氏に真相を披露する。複雑な心境になったプレイボーイ氏はさっさとパリを去ることにするが、アリアーヌは駅まで見送りに来る。
「ローマの休日」がどちらかと言えば布石・伏線の面白さがたっぷり楽しめる秀作であるとしたら、こちらは小道具の面白さがたっぷり味わえる。勿論「ローマの休日」にも小道具の面白さは十分以上にあるし、本作にも布石・伏線の面白さはあるわけで、あくまで比較の話でござる。
小道具の最たるものは、アリアーヌ=オードリーが抱えるチェロの箱で、箱の中に父親が預かっていた白テンのコートを入れてフラナガン=クーパーに自慢げに見せるところなど大いに楽しめる。これは父親が娘の動向を推理する布石になっているが、娘がクーパーを追いかけて出て行った後父親が娘の代わりに箱を持って出て行くというのが何気なく味わい深い。
本作で一段と有名になった名曲「魅惑のワルツ」も一種の小道具で、随時流れて誠にロマンティックな気分に浸らせてくれる。彼に雇われた楽団の描写も楽しい。
駅で彼女が追いかける場面は駅における名ラスト・シーンの十傑に入れたい出来映え。
☆☆☆☆☆でもヨロシイです。
1957年アメリカ映画 監督ビリー・ワイルダー
ネタバレあり
ビリー・ワイルダーの名人芸が味わえるロマンティック・コメディ―の傑作。
開巻は後年の「あなただけ今晩は」(1963年)と類似するパターンで、誰でもいつでもキスをしているパリという紹介から始まり、紹介するのが探偵業のモーリス・シュヴァリエ。本当の巴里っ子でござんす。フランスが舞台なのに話されているのが英語なんて変だという無粋なことを仰る方がいらっしゃいますが、彼のフランス訛りの英語を聞いていればそんな気分も起こりにくいでありましょう。
その彼にはうぶな娘アリアーヌ(オードリー・へプバーン)がいて、日々父親が探っている浮気調査のデータを調べているうちに、有名なプレイボーイのフラナガン氏(ゲイリー・クーパー)が浮気相手のマダムXの夫に射殺されそうになっていると知り、ベランダから彼の部屋に入り込み見事未然に防いだことから知り合いプレイガールの振りをすると、余りの可憐さに“女性とは遊び”を決め込んでいたプレイボーイ氏の方の調子もおかしくなる。
かくして、浮気はなかったと気を良くしたミスターXから紹介された探偵氏に調査を依頼するが、探偵氏は娘の動向に異変を感じていたので調査するまでもなく、フラナガン氏に真相を披露する。複雑な心境になったプレイボーイ氏はさっさとパリを去ることにするが、アリアーヌは駅まで見送りに来る。
「ローマの休日」がどちらかと言えば布石・伏線の面白さがたっぷり楽しめる秀作であるとしたら、こちらは小道具の面白さがたっぷり味わえる。勿論「ローマの休日」にも小道具の面白さは十分以上にあるし、本作にも布石・伏線の面白さはあるわけで、あくまで比較の話でござる。
小道具の最たるものは、アリアーヌ=オードリーが抱えるチェロの箱で、箱の中に父親が預かっていた白テンのコートを入れてフラナガン=クーパーに自慢げに見せるところなど大いに楽しめる。これは父親が娘の動向を推理する布石になっているが、娘がクーパーを追いかけて出て行った後父親が娘の代わりに箱を持って出て行くというのが何気なく味わい深い。
本作で一段と有名になった名曲「魅惑のワルツ」も一種の小道具で、随時流れて誠にロマンティックな気分に浸らせてくれる。彼に雇われた楽団の描写も楽しい。
駅で彼女が追いかける場面は駅における名ラスト・シーンの十傑に入れたい出来映え。
☆☆☆☆☆でもヨロシイです。
この記事へのコメント
これも、アリアーヌが秘密を持っている所もサスペンスがあって面白いし、ワイラーと違う色っぽいユーモアが楽しいんですけど、個人的にはラストは「ローマの休日」風にやってもらった方が余韻が残って、なお宜しいのではないかと思っています。
ただ、あのストーリーの流れからは難しいかもしれませんがネ。
僕はあの幕切れが好きなんです^^
>ストーリーの流れからは難しい
こちらは言わば少女の背伸びした恋愛ゲームが本当になってしまう、というおとぎ話なのだと思います。あのチェロ・ケースをもった父親の姿を観ると、やはりあの幕切れが良いなあ。
配役でクーパーは年寄りすぎるのが気にはなりますが、まあ天下の大スターですし、当時こういう訳ができる役者で一回り以上若い人って誰がいただろう?
ケイリー・グラントはたった三つしか違わないし、また明日考えてみましょうっと。
今日はもう眠ります。
どうなるのかと思ったら、ひょいと彼女をすくい上げる。
いまの列車では出来なくなった芸当ですが・・・・・・・窓を開けて駅弁を買うことも出来なくなりましたしね。
いまも老年と言っていい芸能人が若い嫁さんを貰っているからいいんじゃあないでしょうか。
加藤茶さんは20代の嫁さんだし、堺正章さんは20いくつ離れた嫁さんで、爺さんたちがんばってます。(~_~;)
こういう嘘っぽいけど上手い映画は、監督の手腕もさることながら、スターシステム時代の役者でないとなかなか難しいんですよね。
今の役者は、特に日本は、TVなどに露出しすぎて、神秘性が希薄ですからおとぎ話が成立しにくくなってしまう。本人が現実っぽい割には作品自体に現実的な生活感情を伴わないから益々嘘っぽくなって映画で大事な「観ている間は本当であると信じ込める」作品が少なくなっているような気がしますね。
>駅弁
文明の利器は、だんだん風情を失くしていくですなあ。
固定電話しかなかった時代は色々サスペンスに応用できました。携帯ですと、わざとらしく設定をこしらえないといけませんからね。
それはそれなりに「セルラー」のように面白い映画も出来るわけですが。
>加藤茶
なるほどそれでTVを賑わせていたのか。
ニュースや新聞を余り観ないようにしているので、最近は本当に世事に疎い^^;
>小道具の面白さがたっぷり味わえる。
テーブルにシャンパンが入ったグラスが載せて4人の楽団にせて向けて滑らせる。4人が飲んだらテーブルが戻ってくる。
>ミスターX
演じたのはジョン・マクギバー(1913年11月5日– 1975年9月9日)。この映画では遠藤太津朗(「銭形平次」の万七親分)似た役者さん。いろいろ笑わせてくれます。「真夜中のカーボーイ」にも出ていますね。
>あの凄惨極まりないソ連時代を懐かしがっている
栄光を求める気持ちとは不思議なものです。その為に犠牲も多いのに。
>4人が飲んだらテーブルが戻ってくる。
極めてビリー・ワイルダーらしい洒落っ気と思います。
>演じたのはジョン・マクギバー(1913年11月5日– 1975年9月9日)。
出演した時は40代半ば。結構若かったんですね。
「真夜中のカーボーイ」では、ジョン・ヴォイトがお金を奪うゲイ紳士の役だったかな?
>栄光を求める気持ちとは不思議なものです。その為に犠牲も多いのに。
庶民に関して言えば、今が少しでも辛いと、実際にはもっとひどかった昔を懐かしむということもあるのかもしれませんね。明治維新後の庶民の中にも幕府時代を懐かしむ人がいたかもしれません。
>父親が娘の代わりに箱を持って出て行く
これも良いですね。
>「真夜中のカーボーイ」では、ジョン・ヴォイトがお金を奪うゲイ紳士の役だったかな?
たぶんそうです。あれも重要な場面です。そのおかげでバスに乗れたのですから(苦笑)。
>明治維新後の庶民の中にも幕府時代を懐かしむ人がいたかもしれません。
四民平等になったけど、資本家と労働者の格差。そして徴兵制。
>喜劇「五泊六日」
聞いたことないですなあ(笑)。
川崎敬三が出ているところをみると、サラリーマンものの一種ですか?
>父親が娘の代わりに箱を持って出て行く
>これも良いですね。
モーリス・シュヴァリエだから格好になる感じ。
>四民平等になったけど、資本家と労働者の格差。そして徴兵制。
相当とまどいもあったでしょうね。