映画評「ローマの休日」
☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1953年アメリカ映画 監督ウィリアム・ワイラー
ネタバレあり
ブログを始めて6年を超え、再鑑賞作品も少なからぬ取り上げて来たが、有名すぎて書きにくいということもあったのか、定評のある作品を意図的に避けるところがあった。しかし、先日も記したように精神状態改善の一環で今後増やしていくつもり。オールド・ファンの皆様、お喜びくださいませ。
さて、「ローマの休日」は僕の映画鑑賞歴の中でも大好きな作品の一つで、ある年齢以上の女性ファンに投票させたら人気NO.1になること間違いないであろう。男性を入れても案外そうなるかもしれない。と言いつつ、実はそれほど見ていず、せいぜい5回目くらいではないかと思う。
あるヨーロッパの王女アン(オードリー・へプバーン)が各国歴訪でローマを訪れ、スケジュールや規則に縛られた毎日が嫌になってある時睡眠薬を含んだ状態で町に出、ベンチに眠りこけているのを見かねたアメリカ紳士グレゴリー・ペックの家に泊めて貰うことになる。
寝ぼけながら放つ彼女の台詞が尽く可笑しいのだが、彼の部屋を見て「エレベーターか?」という辺りは正に傑作。
彼女と会う前に賭けトランプをやっていた新聞記者のペック氏は、出社して彼女が病床に伏していることになっている噂のアン王女と知り、特ダネを取れたら5000ドルという賭けをする。
ここでは賭けトランプからの実に上手い流れとなっている。
小さなギャグをジャブのように繰り出して面白可笑しく進行するうちに、特に“真実の口”の場面を経て彼女はアメリカ紳士に愛情を抱くようになる。彼もまたしかり、折角書いた特ダネを握りつぶし写真をお別れの儀式の際に“公式に”返し、お互いの愛情が本物であったことを確認して別れていく。
欧州では一種のジャンルとして定着しているに違いない「アルト・ハイデルベルヒ」式の物語で、構図としてはそう珍しいものではないが、溢れるギャグ群の面白さで時間を忘れ、特に幕切れになって色々な角度から効いてくる賭けの伏線・布石の巧みさに圧倒される。
何でもこなすウィリアム・ワイラーの演出は全く淀みなく鮮やか。しかし、オードリーなくしてワイラーもここまでの偉業は達成できなかったであろうし、ワイラーなくしてオードリーもここまで成功することはなかったであろう。この当時のペックは決して上手い演技者ではなかったが、本作では受けに回って良い演技を披露した。
スペイン広場の時計は確かに変だった。
1953年アメリカ映画 監督ウィリアム・ワイラー
ネタバレあり
ブログを始めて6年を超え、再鑑賞作品も少なからぬ取り上げて来たが、有名すぎて書きにくいということもあったのか、定評のある作品を意図的に避けるところがあった。しかし、先日も記したように精神状態改善の一環で今後増やしていくつもり。オールド・ファンの皆様、お喜びくださいませ。
さて、「ローマの休日」は僕の映画鑑賞歴の中でも大好きな作品の一つで、ある年齢以上の女性ファンに投票させたら人気NO.1になること間違いないであろう。男性を入れても案外そうなるかもしれない。と言いつつ、実はそれほど見ていず、せいぜい5回目くらいではないかと思う。
あるヨーロッパの王女アン(オードリー・へプバーン)が各国歴訪でローマを訪れ、スケジュールや規則に縛られた毎日が嫌になってある時睡眠薬を含んだ状態で町に出、ベンチに眠りこけているのを見かねたアメリカ紳士グレゴリー・ペックの家に泊めて貰うことになる。
寝ぼけながら放つ彼女の台詞が尽く可笑しいのだが、彼の部屋を見て「エレベーターか?」という辺りは正に傑作。
彼女と会う前に賭けトランプをやっていた新聞記者のペック氏は、出社して彼女が病床に伏していることになっている噂のアン王女と知り、特ダネを取れたら5000ドルという賭けをする。
ここでは賭けトランプからの実に上手い流れとなっている。
小さなギャグをジャブのように繰り出して面白可笑しく進行するうちに、特に“真実の口”の場面を経て彼女はアメリカ紳士に愛情を抱くようになる。彼もまたしかり、折角書いた特ダネを握りつぶし写真をお別れの儀式の際に“公式に”返し、お互いの愛情が本物であったことを確認して別れていく。
欧州では一種のジャンルとして定着しているに違いない「アルト・ハイデルベルヒ」式の物語で、構図としてはそう珍しいものではないが、溢れるギャグ群の面白さで時間を忘れ、特に幕切れになって色々な角度から効いてくる賭けの伏線・布石の巧みさに圧倒される。
何でもこなすウィリアム・ワイラーの演出は全く淀みなく鮮やか。しかし、オードリーなくしてワイラーもここまでの偉業は達成できなかったであろうし、ワイラーなくしてオードリーもここまで成功することはなかったであろう。この当時のペックは決して上手い演技者ではなかったが、本作では受けに回って良い演技を披露した。
スペイン広場の時計は確かに変だった。
この記事へのコメント
TBしました、私の6年前の記憶便りの記事もいいとこばっかり書いているので、こちらも宜しいかと。^^
今年になって製作裏話を書きましたが、あらためてこの映画は主人公二人がが秘密を抱えているという設定がとても上手いと思いました。ラブ・ロマンスに軽いサスペンス味が付いて、最後に上手にペーソスまでくっついて人情劇にまでなっている。
真実の口のエピソードは、トランボの本にはなかったそうです。
スペイン広場の時計の件は・・・分かりませぬ
映画にもメリットとデメリットがありまして、僕が今病気になっているのも映画の影響かもしれないのですよTT
自分が変なことをしなければ良かったのですが、自業自得・・・後の祭り・・・
ロマンスもコメディーもサスペンスは必要ですから、その点この作品は上手く考えたものですよね。トランボ氏にこんな才覚があるとは、想像できませんでしたなあ。
僕は敢て書きませんでしたが、最後は切ないですね。でも、大人のおとぎ話は結ばれたりはしません。そこが品の良いところ。
>スペイン広場の時計の件
二人が最初に出会う時針は2:40を指しているのに、座る段になると4:55分(あるいは11:20か)になっているんですよ。短針と長針がはっきりしないので後者についてはよく解りません。いずれにしても変。
座っているシーンを午前中に、出会いのシーンを午後に撮影したために起きたミスで、さすがの巨匠ウィリアム・ワイラーを持ってしても時計の針を動かすことは出来なかったそうで、教会が拒否したそうです。影の長さが違うという指摘もあります。
いまだったらCGでチョイチョイでしょうけどね。
”真実の口”で、ペックの手首が消えてオードリーが驚くシーンは演技ではなく、実際に驚いていて、グレゴリー・ペックと監督がオードリーに内緒で仕組んだんだそうです。だから自然なんですね。あのシーンは本当に愛くるしいです。
初主演のオードリーの演技に不安があったという話らしいですが、まあ、名作というのはこういう裏話を探す楽しみがありますね。
時計の件は、映画の間違い探し特集で記憶しておりました。影も変だったかもしれません。それで良い映画が悪くなるわけがないどころか、昔の映画はそういう楽しみがありましたねえ。
>“真実の口”
何だかそんな話を聞いたことがあるような気がします^^
名シーンだと思います。僕はあそこから愛情が俄かに芽生えたと思っています。
>オードリーの演技
出始めの王女の緊張した感じはそのままなのかもしれませんね。
ビートルズのデビュー・シングルの、ポール・マッカートニーの声は緊張で震えていると指摘されていますよ。
私事ですが、最近、ちょっとしたきっかけで海外のインディーレーベルから依頼を受けて、レコードジャケット用のイラスト制作を細々と始めていまして、バタバタしていて全然、コメントに来れずにおりました。
でもレビューは毎日、拝見させて頂いていました!!
ご病気の件、きっと時間が解決してくれると思いますので、ゆっくりのんびりが一番だと思います。
この映画はオードリー主演モノの中でも私的TOP5に入ります!
ちなみに「昼下りの情事」「シャレード」「暗くなるまで待って」がTOP3です。
オードリー・ヘップバーンは国籍、世代、性別を問わず、誰もが女性に無意識に期待するような「可憐さ」「愛らしさ」「清潔感」を、何歳になっても備えていた稀有な方だと思います。また、この作品、再観賞したくなりました。
でも私もオカピーさんと同じで既に4、5回は観賞済ですが 笑
大変励みになるコメントでした。
音楽の方もちょっとやる気になれず、映画だけ続けています。
ネタはあるんですけど、今は“物をためない”生活を目標にしていますので、CDを買うのは暫く中断なんです。
>海外のインディーレーベルから
それは凄いですね! ビックリです。
僕も翻訳でばんばん稼ぐことを夢見て会社をリタイアしたのですが、結局大成せず。
>きっと時間が
そうですね。周囲もゆっくりやりましょうと言ってくれますが。
どうしても体調の方の不安も出てきて悪循環に入っていくんですよね。そういう自分に苛立ちを感じ。焦ってだんだんややこしい感じに・・・。
僕には本作がNo.1ですね。
続くのは色々あるのですが、「シャレード」「昼下りの情事」かな。
「暗くなるまで待って」は映画としては良いですが、作品の系列からちょいとトップ3からは外したい感じなんです。
庶民的な感じがあるのにやはり周囲には絶対いない、そういった魅力でしょうか。
彼女をもっと日本人的にすると、僕の初恋の彼女に似ているかもしれません。
ちょっとエキセントリックなところもあったけど、可愛かったなあ(片想い)。
本当にオードリーは可憐ですよね。
銀幕の大女優に比して、アイドルというものを下に観ることは一般的ですが、少なくてもオードリーに限っては、いわゆる「アイドル」という体系に高いクオリティを感じます。
わたしの母親も大ファンでしたが、
父親は彼女が「ロビンとマリアン」で復帰したとき、
「これはオードリー・ヘップバーンじゃない。」
と動揺していたことが記憶に残っています。
その後、オードリーの復帰が気になって「華麗なる相続人」を見に行ったらしく、「ふ~ん、年齢を経た彼女もいいなあ」
などと言っていた記憶がありますよ。
では。
もの凄い演技をするという女優ではなかったですが、監督や脚本家にやる気を起こさせる女優と言いますか、「ローマの休日」から「暗くなるまで待って」まで、夫君のメル・ファーラーが作った「緑の館」以外は皆素晴らしい作品で、彼女自身だけの力ではないとは言え、いずれも二塁打以上の会心の当たりという感じでしたね。
>「ロビンとマリアン」
老けたりとは言え、なかなか魅力的でした。
作品自体も引退していたオードリーにダブるところあり、素敵でした。
>「華麗なる相続人」
積極的に観たいと思うほどではないですが、今回のWOWOW特集に入っていましたので録画しておきました。
時間があったら(十分あるのですが)観るつもりです。
>小さなギャグをジャブのように繰り出して
グレゴリー・ペックがエディ・アルバートの椅子を蹴って倒す場面は大笑いしました!
>折角書いた特ダネを握りつぶし写真をお別れの儀式の際に“公式に”返し
今更言うまでもないです。素晴らしくて感動的な場面です。
>今日はリチャード・バートン主演「聖衣」(1953年)を見ました。
一昨年か去年NHKーBSでやっていました。録画したはずですので、いずれ再鑑賞しようと思いつつ、なかなか。
>恋人役のジーン・シモンズは「ローマの休日」のアン王女役に
>キャスティングされていたけど迷った末に「聖衣」を選んだそうです。
結果的に、ジーン・シモンズが大スターのオードリーを生んだとも言えるわけですね。オードリーほどの魅力があれば、いずれ世に出たでしょうが、そういう天の配剤も面白い。
>今更言うまでもないです。素晴らしくて感動的な場面です。
幕切れ(終わり)良ければ全て良し、ではなくて、この映画に関しては全て良ければ幕切れも良し、でしたね。諺の間違った引用ですけど(笑)
王女アン(オードリー・へプバーン)が美容院で髪をカットしてもらう場面もいいですよね!美容師の吹替えが広川太一郎さん。おネエ言葉があの場面に合ってました。可愛らしいヘプバーンの映像が1980年代のCMで使われていました。3分32秒あたりからです。
https://www.youtube.com/watch?v=CB8yLyQiqPE
>この映画に関しては全て良ければ幕切れも良し
最後にグレゴリー・ペックが「去り難し・・・。」と言う感じなのもいいですよね。
>録画したはずですので、いずれ再鑑賞しようと思いつつ、なかなか。
「聖衣」をご覧になった後は双葉師匠の評論を是非!
>可愛らしいヘプバーンの映像が1980年代のCMで使われていました。
CMにあったのは憶えています。しかし、何のCMかは憶えていませんでしたね。
>「聖衣」をご覧になった後は双葉師匠の評論を是非!
何と我がライブラリーにありませんでした。しかし、図書館にもアマゾンプライムにもあるので、大丈夫。
読まないでか(笑)
美容師役のパオロ・カルリーニ(1922年1月6日– 1979年11月3日)は、イタリアの舞台、テレビ、映画俳優ですね。
僕が他に好きな場面は花屋さんです。花束を買うだけの持ち合わせがないアン王女に1本だけ「プレゼントです。」と言って渡す場面。あの花屋さん役の人の資料は見つかりません(残念)。
双葉師匠は「ワイラー監督には珍しいロマンティックな喜劇」と書いていますね。またワイラー監督の優れた演出がなければ、ヘップバーンの成功は勝ち得る事は出来なかった事も。
>エリザベス・テイラーとケーリー・グラントに出演交渉されたそうですね
>それが実現されたら、随分イメージが違う作品になった事でしょう。
リズは美人ですが、お姫様という感じはないんですよねえ。グラントはいける感じがしますが、コミカルすぎる気がしないでもない。まあ、別の完成品を見ている僕らは何とでも言えるのですがね(笑)
>あの花屋さん役の人の資料は見つかりません(残念)。
ギルド・ボッチというらしいです。1886年生ー1964年没。
イタリアの脇役俳優のようです。
>ワイラー監督には珍しいロマンティックな喜劇
13年後くらいに再びオードリー主演の「おしゃれ泥棒」を作りました。器用な監督で、「ローマの休日」の後、重なる内容の作品を殆ど作っていません。「大いなる西部」があると思えば「コレクター」があり、「ベン・ハー」があると思えば「必死の逃亡者」がある。凄いデス。
オードリーとは「噂の二人」でも組んでいますね。