映画評「九月に降る風」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2008年台湾映画 監督トム・リン
ネタバレあり

20年くらい前台湾映画は物凄い勢いがあったが、その直後中国勢に取って代わられ、最近は以前のような勢いが少なくとも日本では感じられなくなった。そんな中で本作はその時代の台湾製映画を彷彿とする青春映画である。

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1996年、高校生3年生のチャン・イエ君は真面目な学生ながら、リディアン・ヴォーン君を筆頭とする不良グループと仲良くしている為学校で色々と不名誉なことも経験している。ジェニファー・チューという彼女がいながらナンパの絶えないヴォーン君のご乱行のせいで殴られたチャン君は、ジェニファーを大事にしない彼のこともあって、不仲になる。
 やがて和解した直後彼の運転するバイクで事故を起こし、結果的にヴォーン君は帰らぬ人となり、これをきっかけにグループが瓦解する。翌年卒業したチャンは前年賭博問題に揺れた台湾プロ野球イーグルスの球場へヴォーン君がご贔屓選手リャオ・ミンシュン選手(賭博問題で引退の由)のサインを真似て書いた偽サイン・ボールを持って出かける。

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台湾における野球の八百長問題は一昨年辺りもあったと思うし、1996年の事件は大きく取り上げられよく憶えている。本作はその事件のあった年に当時高校生だった若手監督トム・リンが青春時代の経験をベースにお話を作り、台湾の時代ムードを再現したドラマで、内容としては特に新味のあるものではないが、自分の青春時代に思いを馳せたくなるようなストレートな青春映画が少ない(多分少ないと思う)時代にあって却って強い印象を残す。なかなかの佳作と言うべし。

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ただ、主人公の野球への思い入れがよく解らず、当時主人公の住む町で英雄的に人気のあったとされるリャオ・ミンシュンという選手の影響力というものが日本にいる僕らにピンと来ないので、幕切れに感激するというところまでは行かない。

僕くらいの年になると、十代を思い出すと涙が知らず出ることもあるです。タイトルも良いです。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2011年10月09日 04:47
たしかによいタイトルですね。

きのうTBSで役所広司さんと中越典子さんが主演の『初秋』というのをやってました。
中越典子さんが好きなので観たのですが、どうもセリフがいけませんでした。
陳腐で饒舌すぎて・・・小津安二郎の世界を彷彿とさせるという宣伝文句につられたのですがね。
背景の京都はよかったですけどね。
まだまだよいところが残っていて、むかし歩いたことを思い出しましたよ♪
オカピー
2011年10月09日 10:53
ねこのひげさん、こんにちは。

>タイトル
“吹く風”でもなく“降る雨”でもないところが非常にリリカルで良いです。

>『初秋』
テレビ欄を観ても「ないぞ~」と思ったら昼間だったんですね。
なるほどタイトルは小津っぽいです^^
今の作家に、ましてTVで小津の行間を読ませる作風、余韻を湛える構成はなかなかできませんよ。
いずれにしても、TVの視聴者は全て説明してくれる世界に慣れ過ぎています。想像することで作品を完成させることを知らんのですよね。

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  • 九月に降る風/リディアン・ヴォーン

    Excerpt: ついに一般公開を迎えましたね。2008年の東京国際映画祭の上映作品でしたがあの時は観ることが出来なくて、公開されるのがとても待ち遠しかったです。1996年の台湾を舞台に高校生た ... Weblog: カノンな日々 racked: 2011-10-08 17:27
  • 君がいた永遠~『九月に降る風』

    Excerpt:  九降風  WINDS OF SEPTEMBER  1996年、台湾の地方都市、新竹。竹東高校3年のイェン(リディアン・ヴォーン) は、親友のタン(チャン・チエ)や後輩たちとクループでつる.. Weblog: 真紅のthinkingdays racked: 2011-10-08 20:12