映画評「ブレードランナー ファイナル・カット」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1982/2007年アメリカ映画 監督リドリー・スコット
ネタバレあり

公開当時暗い内容の為に人気が上がらず、かく言う僕も余り気に入った方ではなかったが、その後物凄く評価が上がったものだから、30年ぶりくらいに“ファイナル・カット”版とやらで観ることにした。

原作「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」を書いたフィリップ・K・ディックはSF小説のファンの間でつとに有名だったが、確か本作の公開直前に亡くなった。しかし、この作品の高名化とともにその後「トータル・リコール」「マイノリティ・リポート」等続々映画化が行なわれ、今や映画ファンの間でもかなり有名になっている。そして、本作が「エイリアン」と並ぶリドリー・スコットの代表作であることは言うまでもない。

2019年、荒廃した地球から離れた植民惑星で奴隷として暮らす高級アンドロイド(本作ではレプリカントと呼ばれている)が4名脱出して地球に潜伏、危険なので見分けて抹殺せよという命令がレプリカント分析官にして捕獲人即ちブレードランナーであるハリスン・フォードに下される。彼は一人一人追い詰めて抹殺、その間に美人ショーン・ヤングとの間に恋を芽生えさせながら遂にリーダーのルトガー・ハウアーと対決することになる。

普通のSFアクション的に観て行くと余り面白くないお話だが、SF版ハードボイルド映画という理解で観ると俄然興味深い映画となる。日本や中国、現在と未来が混然一体とした感じの町の描写には、ウェストコーストを舞台にした昔のハードボイルド映画のムードがかなりあるのである。映像もCGを使っていないからこその美しさがあり断然秀逸。

ただ、レプリカントも死の恐怖を持つといったSF的哲学が基調にあって、そういう文学・哲学的観想がお好きな方には見事に感激を与えるのではないかと思える一方、僕みたいな単細胞には本来人間ではない者を通してまで人生哲学を語ってもらうとどうも面倒臭い感じがしてくるので、傑作と誉めたい気にはならない。

この記事へのコメント

2011年11月22日 12:16
>SF版ハードボイルド映画

ほんとにその通りでしたね。同じフリップ・K・ディックの原作を使ったスピルバーグの「マイノリティ・リポート」も、未来世界を舞台にしたミステリ、巻き込まれ型の犯罪ものだった。
「ブレードランナー」は公開時に映画館で観て、何かすごいなとずいぶん感動したんですが、あの感動はたぶん、ほとんど映像、というより絵から受けたものでした。リドリー・スコットはいつも絵がきれいだなとは思うんですけれども、それだけなかんじがする。妙な気取りも感じるし。
スピルバーグのほうが、全身に活動写真屋魂がみなぎってるようで、映画はずっとおもしろいですね。
シュエット
2011年11月22日 13:57
何度か見ているけれどブログにアップしてないナァ。
面白いと思うけど、内容よりも↑上の方も書かれてるけど、絵が面白いから、たまに見ると結構はまってみてしまうけど、胸に響くというものではないので、それもあるのかな記事にするまで至っていない。ブログ開設前に観すぎたからかしら(笑)。巷ではカルト作品みたいにブレードランナーを解析したり分析したりポストモダニズムだとか、やたら講釈してるけど、よく分からない。
この辺りからですかネェ、映画が映像の絵そのものに懲りまくりだしたのは。意味がありそうであるのかないのか…
レプリカンとのリーダーのルトガー・ハウアーさん。ドイツ映画「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」で中年になって渋味のある彼を観ました。オルミ監督の「聖なる酔っ払いの伝説」では酔っ払いの役でしたよね。この作品は好きだナァ。
オカピー
2011年11月22日 21:33
nesskoさん、こんばんは。

仰る通り、スコットは映像の作家でしょう。

僕もスピルバーグはショットやシーンの繋ぎが上手く、結果的に物語も非常に面白いものになっていると思います。
最近色々言われることが多いスピルバーグですが、彼が作ったものは大体感心しています。
オカピー
2011年11月22日 21:49
シュエットさん、こんにちは。

はっきり言って物語として引き込まれるものは余りないですなあ。
映像には工夫があって面白く、カメラも高性能化して、今見ると、現在のCG映画より余程繊細で素晴らしいと思いましたねえ。

>ルトガー・ハウアー
この辺りから映画がグローバルになってきたんでしょう。オランダ人ながらハリウッドやその他の国の映画にたくさん出ていましたね。
2011年12月01日 23:15
オカピーさん、これ、最近DVD購入したんですが、
これって、当時だからセンセーショナルだったんじゃないかな?と思っています。
>レプリカントも死の恐怖を持つといったSF的哲学が基調・・・
こんなテーマも今では珍しくないですし、まだ、IT、バイオが一般化する前の作品であることから考えると、わたしは贔屓目な見方をしてしまいます。
逆に、すでにキューブリック初め70年代にテクノロジー万能の楽天的未来観を虚無的に表現した時代の後の作品であることを考えると、SFとしての評価は若干落ちるかもしれませんよね。
>SF版ハードボイルド映画
ですよね。
わたしは若い頃に観たとき、ラスト・シークエンスで、ハリソン・フォードを殺さなかったレプリカントに感動していた記憶があります。
では、また。
オカピー
2011年12月02日 20:24
トムさん、こんにちは。

「スター・ウォーズ」の3作目が公開された後くらいの作品ですからミーハーには受けず、ハードSFファンには受けたでしょうね。
僕はこういう映画に関する限りかなりミーハー的に見ますので、ハードボイルド・ムードは面白いとは思ったものの、SFアクションとしてはまあまあかなと。
しかし、マイケル・ベイがクローン人間をテーマに作ったインチキSF哲学映画「アイランド」に比べればお話にならないくらい素晴らしい。「アイランド」は☆☆★こそ付けましたが、おためごかしで人間が見るべき映画ではないですから。

>ハリソン・フォード
もレプリカントだったという噂もありますね。

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