映画評「Z」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1969年フランス=アルジェリア映画 監督コスタ=ガヴラス
ネタバレあり

「七人目に賭ける男」(1965年)以降日本で公開されたコスタ=ガヴラスの作品は全て観ている。本作の前の「奇襲戦隊」(1967年)も結構お気に入りだが、近年全く見られない貴重品になっているのが返す返すも残念。いずれにしてもコスタ=ガヴラスの名を世に知らしめたのは、アカデミー外国語映画賞を受賞している本作である。

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ギリシャを思わせる某国、次期大統領とも目される革新政党の政治家イヴ・モンタンが三輪車に乗るレナート・サルヴァトーリに棍棒で殴打されて脳死の末に死亡。警察は自動車事故による脳出血による死亡と発表する。事件の担当になった予審判事ジャン=ルイ・トランティニャンが調査を進めるうちにどうも憲兵隊のトップが絡んだ当局の陰謀による暗殺であることが判って来るが、最終的に事件の真相を知っている関係者は次々と不審な死を遂げ、判事も左遷され、官憲側は事件に絡んだ面々を更迭するだけで結局は何も変わらない。

1963年にギリシャで起きたランブスキ暗殺事件を題材にした同国の作家ヴァシリ・ヴァシリコスの小説を映画化した、誠に恐ろしい実話もので、フランス(=アルジェリア合作)での製作とは言え、「ここに出てくる登場人物の類似は意図的なものである」と当時まだ軍事政権だったギリシャ当局を挑発するメッセージが最初に現れ、コスタ=ガヴラスは何と骨のある作家かと感心するしかない。

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勿論、リアリズムを謳う最近の作品が揺れるカメラなど技法に頼って中味が余り伴っていないのに比べると、本作は確固たる物語の本当らしさを土台に、ラウール・クータールの迫力あるカメラがリアリティを鮮やかに醸成、観ているだけで肩が凝るような緊張感を観客に要求する。

昨年再鑑賞した「ミッシング」(1982年)には映画作家として一段の進境を見せた印象を覚えるわけだが、本作の方に寧ろ迫力があるように感じてしまうのは、回想場面の挿入など僅かに見える構成のぎこちなさが却って奏功しているのではあるまいか。

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そこで忘れていけないのが、パーカッションと弦楽器(主にマンドリン)を使って、プリミティブとも言える異様な迫力と地中海音楽らしい哀愁とを生み出したミキス・テオドラキスの主題曲だ。

Zは主人公の名前であると当時に、古代ギリシャ語で「彼は生きている」という意味であるそうな。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年04月29日 04:45
昨今のリアリズムはなんか勘違いしてますね。
この映画は、今回は観てませんが、昔見たとき、寒気がしましたよ。
怖い映画というか、政治の闇を観た感じでした。
鬼気迫るものがありましたね。
十瑠
2012年04月29日 10:53
コスタ=ガヴラスを最初に知った映画ですよね。
4年前の記事、TB致しました。
感想については、ほぼ同じですね。
オカピー
2012年04月29日 21:19
ねこのひげさん、こんにちは。

>リアリズム
カメラを揺らせばリアリズム、逆に固定して長回しすればリアリズムなんて、映画をどんどんつまらなくする手法ばかり目立ちますよ。
多少の嘘の中に人間や社会の真実が見えるのが僕の考えるリアリズムですよ。

本作にだって回想シーンなど嘘っぽいところがないわけではないけど、そんなものをものともしないリアリティを感じますよね。
身の毛のよだつ映画です。
オカピー
2012年04月29日 21:23
十瑠さん、TBとコメント有難うございます。

僕にとって「奇襲戦隊」が最初に観たコスタ=ガブラスですが、まだ子供だったので監督の名前は憶えていませんでしたね。
で、少しして「Z」や「戒厳令」でコスタ=ガブラスは凄いや、と思ってフィルモグラフィーを調べたら「奇襲戦隊」があったのでびっくり。結構良いメンバーが出ているし、もう一回観たいなあ。

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  • Excerpt: (1969/コンスタンタン・コスタ=ガヴラス監督・共同脚本/イヴ・モンタン、ジャン=ルイ・トランティニャン、ジャック・ペラン、フランソワ・ペリエ、イレーネ・パパス、レナート・サルヴァトーリ、マルセル・.. Weblog: テアトル十瑠 racked: 2012-04-29 10:49