映画評「わが生涯のかがやける日」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1948年日本映画 監督・吉村公三郎
ネタバレあり

前年「安城家の舞踏会」という日本映画最高の一本と言いたくなる傑作を発表した吉村公三郎(監督・原案)と新藤兼人(脚本)のコンビが翌年発表した風俗ドラマで、妙に洋画っぽい雰囲気を感じさせるのは「安城家」同様でちょっとニヤニヤさせるものの、出来映えは大分及ばない。
 しかし、イデオロギー映画や変てこな風俗映画が多かったらしい民主主義到来万歳時代(笑)の邦画の中では相当面白い部類である。

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1945年8月14日正に終戦の前夜、青年将校・森雅之が平和主義者の要人・井上正夫を射殺、娘の山口淑子に腕を刺されて逃走する。
 3年後、インチキ臭い新聞の経営と並行して、ホールと称し裏で女性に春をひさがせている悪党・滝沢修の第一の子分に落ちぶれヒロポン中毒に苦しめられている森は、ホールに新しく雇われ、元鬼検事の義兄・清水将夫を雇う交換条件に滝沢の情婦になろうとしている淑子嬢があの時の娘であると気付いて動揺するが、当の彼女は一向に気付かない。さもあろう事件は暗闇の中で行なわれたのである。
 それにしては森の動揺は異常で、観ている我々が少々首を傾げたくなるくらいだが、いずれにしても二人は互いに憎からず思う間柄になる。

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かくして映画は二人のロマンスを軸に葛藤を交えて進んでいくかと思いきや、滝沢親分は彼女を奪おうとしている森を別の子分に殺させようとしたり、戦中清水に転向を要求され足を悪くした新聞記者・宇野重吉を決闘させようとする親分の思惑に彼が巻き込まれていく様子が重点的に描かれ、その挙句に全ての悪計を企んだ憎き親分を殺した森が淑子嬢との愛情を確認して8月14日の罪を含めて自首する。

自首するラスト・シーンをもっと効果的にする為にも僕がお話半ばで期待したようにもう少し二人の恋愛感情に重きを置いて描写する必要があったと思われ、狙いと作劇の間に計算違いがあるという当方の印象はあながち見当違いではあるまい。彼女が事情を知った後森が自分が父親を殺した犯人と打ち明ける場面も間が抜けた感じが否めず、どうもこの二人が絡む場面はぎこちない箇所が目立つ。
 他方、滝沢親分が出てくる場面はそのメイクのせいもあってまるでサイレント時代の映画のようなムードが濃厚に漂い、そこまでは行かずとも森雅之と山口淑子の場面も同時代の欧州映画を観ている錯覚に陥りそうな瞬間があり、全面的に評価できなくてもこれらが生み出す独自の面白さは捨てがたい。

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女性の勝利」の鬼検事は戦後も堂々たるものだったが、こちらの鬼検事は被告たちの復讐を恐れる小心者に変身している。本作の中で最も異彩を放つ登場人物が、実は、このだらしない元鬼検事である。

タイトルは本作の三か月前に公開された米映画「我等の生涯の最良の年」の影響大ですな。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年05月03日 05:50
このあたりの邦画は、ねこのひげが中高生のころ、昼間にテレビでよくやってました。
音羽信子さんが、パンパンをやった映画などもあってビックリしたのを覚えてます。
宇野重吉さんも出ていたな・・・・・
穴埋め的だったんでしょうね。

ここのところ、また地上波のほうのテレビで映画が増えてきた気がしますけど・・・・
ゴールデンウィークだから?それとも手抜き?(^_^.)
オカピー
2012年05月03日 10:45
ねこのひげさん、こんにちは。

本作は、今も現役新藤兼人氏初期の脚本代表作と見なされているようです。傑作「安城家の舞踏会」には大分遠いですが。

彼の事実上の妻である乙羽さんは、初期の頃こそお姫様役が多かったですが、旦那さんが監督を務めるようになってからは殆ど全ての作品に出演、農家のお母さんや売春婦、鬼婆役まで幅広い演技で便利に使われた女優になりましたね。

宇野重吉との共演も多いですが、その中でパンパン役と言えば「縮図」かな。「縮図」は徳田秋成の原作もので置屋が舞台だったと思います。置屋に住むのはパンパンではなく公娼ですからちょっと違うか。
僕は未見ですが「どぶ」というのも売春絡みみたいですから、寧ろこちらですかね。

>テレビで映画
深夜を別にすると、似たような作品しか観られず、カットやCM中断の問題に関係なく、とても観る気が起こりませんねえ。
まあWOWOWとNHK-BSで僕はとりあえず間に合っていますが、TV局絡みの映画でWOWOWに出る前に放映される作品のうちカットの少ないものはたまに見ます。しかし、TV局絡みの映画はほぼ全て意味もなく120分を超える“大作”ばかりなので、通常大幅なカットが余儀なくされます。
自分の局で作ったくらいきちんと放映すれば良いのに、そうするとTVで観る人が増えるから敢えてそうしないのかな(笑)。
ねこのひげ
2012年05月04日 06:03
たぶん、内容から思うに『どぶ』だと思います。
貧民窟に生きる人々を描いた作品で、乙羽信子さんが頭の弱いパンパンをしている女性で、宇野重吉さんがヒモで、学校の授業料が払えないからなどとと騙しては、金を貰っていて、最後には、脳梅になり、警官の拳銃を奪って・・・死ぬときに、箱を開けると学生服が出てくる。
どぶのなかに1輪の花が・・・・
中学ぐらいで、一度見ただけなのに、なぜか鮮明に覚えているんです。
衝撃だったんでしょうね。

最近の映画は長いですね。
先日見た映画も、長いな~と思ったら、180分とかパンフに書いてありました。
時間の長さを忘れるぐらいおもしろいといいんですけどね。
いちおうカットされていても、どんな作品かみるようにしてます。
借りたり買ったりBSで観るときの参考のために(^^ゞ
オカピー
2012年05月04日 16:11
ねこのひげさん、こんにちは。

>『どぶ』
映画史的に傑作といったものではなくても、ずっと記憶し続けている映画とか場面がありますね。
しかし、詳細に憶えていますねえ。
僕も中学くらいに観た作品で「奇襲部隊」というレジスタンス映画が記憶に残っていますが、そこまで詳細は憶えていません。
他の印象深い作品は大概再鑑賞しているので、それほどないですね。

>最近の映画は長い
特に邦画が長いです。
僕の資料によると、アメリカ映画は長い映画と短い映画の住み分けが始まっているようで、B級的内容を目指すものなどに100分を割る映画が増えてきました。
TV局が絡んだ邦画は内容を考えると長すぎます。青春ロマンスなのに2時間を軽く超えるなんて、僕らの若い頃は考えられなかったですよね。
恐らくはTV視聴者層に合せて、何でもかんでも説明するか、若しくはくどくど描写する作品が増えているんですね。

>いちおうカットされていても
良い心がけですね^^/
僕も昔はそんなことをしていましたが、ブログにアップする時に挨拶に困るのでカットが多いのは避けています。
今日の「K-20 怪人二十面相・伝」も三分の一がカットなので「観るの止めよう」と思ったところですが、一応録画だけしておくかな^^

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