映画評「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの“マネジメント”を読んだら」

☆☆(4点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・田中誠
ネタバレあり

中学時代所謂「マラー/サド」の正式題名(「マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院の患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーと迫害と暗殺」)をちゃんと言えた映画ファンは僕くらいだったが、本作もサブタイトルのない邦画の題名としては歴代有数の長い題名だろう。タイトルとしては巧妙で岩崎夏海の原作がベストセラーになったのは頷けるが、映画を観る限り内容は平凡なスポーツ青春映画の域を出ない。

入院中の程久保高校野球部のマネージャー川口春奈の代わりに少年野球で4番を打っていた前田敦子が、監督・大泉洋が選手を怖がって口を出さず、訳ありで選手の大半が碌に練習にも来ない現状を見て一念発起、マネージャーになり勘違いから買ったドラッカーの経営(マネッジメント)論の書籍からヒントを得て野球部を立て直す。

途中までは良い映画になる可能性があったのに後半尻すぼみ的につまらなくなる。
 まず良い点は投球や打球にCGを使っていないこと。尤も本作には豪速球投手もスラッガーも出て来ないので敢えてCGを使う必要がないのだが、それはそれとして感じが良い。

ダメな点は幾つもあるが、一番問題なのはドラッカーの本がそれ程生かされていると思われないことで、彼らが真面目に野球に取り組むのは大泉洋の監督が投手の心境を真剣に語ったことに始まる。勿論その前段として前田嬢が本質的に優秀な監督を揺り動かしたことがあり、そこに書籍が関連しているのは間違いないが、本がなくてもこの程度のことは起こりうると思わせてしまうところが弱い。

次に、“革新”から生まれた新作戦が実際的にどの程度有効か大いに疑問であること。これは僕が野球の試合を何千試合も見て来たから言えることかもしれないが、ノー・バントはともかく、ノー・ボールは実際的ではない。以下暫く専門的なので野球に詳しくない方は本段落の一番下の行まで飛ばして下さい。まず基本的にコントロールの良い投手でないとストライクを通すというのは案外難しいわけで、ストライクを通すなら守備位置を検討しないとヒットになる可能性が数倍に上がる。ボールは真ん中に近ければ近い程野手のいないところへ飛ぶことになっている。翻せば、野手は普段際どいコースに投げた時に球が飛ぶところにいると思えば良い。際どいコースに投げれば自ずとボールが増える。選手のレベルが上がれば上がるほどボールを使わないと勝てはしないのである。ドラマ上の“革新”の象徴とは言え野球ファンとしては首をかしげざるを得ない。

“ノー・バント”をほぼ実施しているチームはあるし、ここで言うバントは送りバントを指すのでありセーフティ・バントは当然外されるから決勝戦9回でのバント・ヒットは意外でもなんでもなく、野球映画として全く面白くない。また、最後の決勝打については伏線の置き方に問題ありでニヤッとできない。伏線をくどく置き過ぎて却って効果を失った典型例と言うべし。

ついでに、瀬戸康史君の投球フォームが極端な手投げでひどい。専門家がついて教えただろうにあのレベルでGOサインを出してはあかんでしょう。あの投げ方ではボールが離れる位置が安定せず碌にストライクが入りませんぜ。相手の投手の方が同じ手投げでもずっと良く、あの程度の手投げ投手は実際にもいる。

決勝の前日に春奈嬢を死なせ(例によって白血病ですか?)当日ドタバタさせるのが作劇的には一番まずい。普通の病気にしても十分成り立つお話なので、つまらんサスペンスを生む為の病死は全く余分。それに比べたら実際の野球論などどうでもヨロシイ。それさえなければもう★一つ分余計に出せましたがね。

監督(映画の方ね)の名前と同じくらい平凡な出来でした。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年06月22日 05:52
それはすごい!
ねこのひげは、短いタイトルでももいだせないことがあります(^^ゞ

むかしIT野球とかなんとかシフトというのがありましたね。
結局、長続きはしませんでしたね。野球の面白さは不確定要素が多いところで。
『巨人の星』では、星飛雄馬が壁の穴に投げたボールが外の木に当たって跳ね返り壁の穴を戻ってくるというシーンがあり、それほどのコントロールがあるなら、魔球なんていらないじゃん!とも思いましたけどね。

映画と言えど、観ているお客を納得させるフォームでなければいかんですな~
またか!も困ったもので・・・
オカピー
2012年06月22日 20:10
ねこのひげさん、こんにちは。

現在の日本では、かつての王選手ほど頑固な選手はいないので、極端なシフトを取ることが殆どなくなりましたが、投手が投げるコースによって多少左右に移動しますね。
アメリカは野村さんどころではない完全データ野球なのでかなり極端な守備体型をたまに見ます。
松井も多少やられていて、これはヒットかなと思ったのが取られて結構悔しい思いをしたことがありますが、渡米してからの松井はヒット狙いなので日本にいた時ほど打球のコースに偏りはないと思います。

>それほどのコントロール
その通りですね。
それと“消える魔球”もあのままなら実は意味がない。何となれば、打者は球が投手から離れて三分の一くらいのところで既に凡その判断を始めているので、三分の二の位置で確定しているので、本塁直前にましてその上で消えても全く関係ないわけです。

>フォーム
日本やアメリカは野球ファンが多いので、他のスポーツ以上にちゃんとしないとね。
映画で一番さまになっていたのはケヴィン・コスナー(コストナー)かな。彼は元来大リーガー志望だったようですし、野球映画に三本も出ています。

近年の野球映画(邦画)では「バッテリー」がなかなか上手く作られていましたよ。一部では評価が低いですが、感覚の良い作品と思いました。「ROOKIES-卒業-」は僕の感覚では全くダメでした。
日本やアメリカは野球ファンが多いので、ちゃんとしないとね。

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