映画評「ニッポン無責任時代」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1962年日本映画 監督・古沢憲吾
ネタバレあり

僕は純然たるお笑いはどうも苦手で欧米に好きな人は少ないし、日本人ながら日本のお笑いにも肌に合うものが少ない。小学生5年生くらいまでは笑えたドリフターズも小学校を卒業する頃には笑えなくなったし、コント55号特に欽ちゃんはどこが可笑しいのか未だに全く解らない。それ以上にクレイジーキャッツは苦手で、山田洋次が監督をしたハナ肇主演の松竹喜劇以外は今まで観たことがなく、今回のこの作品が映画鑑賞歴四十余年にして初めてまともに観るクレイジーキャッツ主演の東宝コメディーである。

確かに依然苦手な感覚も残るが、食わず嫌いはいけません、という印象を受けたことは間違いない。

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会社を首になったばかりの植木等(役名が“平均”と書いて“たいらひとし”と読ませる。正にサラリーマンを風刺したちょっとした傑作と言うべし)が、バーで偶然ビール会社の古参・太平洋酒乗っ取りが密かに進んでいることを耳に挟み、社長・ハナ肇の亡くなった恩師の片腕のふりをして接近して見事に社の総務部員になったものの、約束を取り付けたはずの株保有No.2の大物が寝返った為に首になる。
 が、これも逆手にとって乗っ取り屋の新社長・田崎潤の側近として復帰する一方前社長の息のかかった連中を味方につけてホップ会社社長・由利徹を抱き込む。同時に新社長のフィクサー的存在たるライバル会社社長・清水元の娘・藤山洋子がハナの息子・峰健二(後の峰岸徹)と仲が良いのを利用してハナを復帰させようとするが先手を打たれて当てが外れ、見事に会社から追い出される。
 しかし、転んでもただでは起きない彼は、一年後以前味方に付けたホップ会社の新社長として、二人の結婚式に現れて周囲を唖然とさせる。

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恐らくこれ以前のサラリーマン喜劇は社員のうだつの上がらない悲哀がベースにあったのではないかと思われるが、本作の一番良いところは主人公がどんな災難に遭っても前向きに考える、邦画の特徴と言っても過言ではないメソメソ型とは正反対の性格であり、しかも女性に対して全くストイックなところである。
 社長秘書の重山規子、前社長の愛人たる芸者・団令子、スナック経営を夢見る素っ頓狂な声を出す女給・中島そのみの三人に囲まれながら全く意に介せず、為に映画的に鈍重にならず、人物の出入りの多さの割に86分という短尺で終わって誠に快調に進行、主人公も狡猾無比ならその相手となる企業家連中もタヌキ親爺で気が抜けない連中ばかりだから面白く観られる。
 主人公が楽観的だから喜劇になるが、これが悲観的若しくは無感情の人間に変えちょっとシリアスに作ればたちまち企業サスペンスに早変わりするようななかなか手の込んだお話なのである。

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かかるアナーキーさは高度経済成長期だから生まれたという印象が強い一方、実質的にマイナス成長期の現在あの時代のサラリーマンとは違う意味で庶民が元気を貰える内容と言えるかもしれない。

クレイジーキャッツが元来バンドであるという背景もあってちょっとしたセミ・ミュージカル的な作りで、後世に名を残す有名曲が幾つもあるが、ムード歌謡からツイストに転調する「ハイそれまでヨ」が秀逸。

サザン・オールスターズも初期に使った“C調”なる言葉は本作が流行らせた音楽業界用語らしい。

猫一匹とタヌキ数匹の騙し合いてなところ。

この記事へのコメント

2012年06月26日 22:28
1962年というと小学校の低学年なので、リアルタイムでは観てないことになるんですが、クレージーの、特に植木等主演のものは好んで観ていたので、なんだかこれもリバイバルで観たような気もします。
植木さんが亡くなった頃でしょうか、無責任シリーズが何作かTV放送されたので録画しましたね。意外にテンポが良かったのは覚えていますが、流石にDVDに落とす気分にはなりませなんだ。
確か、この「ニッポン無責任時代」はシリーズの中では1、2を争う出来だったように記憶してます。甘くして6点くらいでOKです
ねこのひげ
2012年06月27日 05:36
ねこのひげも純然たる喜劇は好きではありません。とくに、最近のお笑いは好きになれませんな。親や兄弟、身内の失敗や行動をネタにしているのは好きになれません。
そんなのシロウトでもできるワイ!!
植木等さんのは、豪快で爽快感があって好きです。

『淀川長治 映画の世界』というのがでます。
全40巻80作を収録だそうで、ほとんど持っているけどちょっと欲しくなりますね。
オカピー
2012年06月27日 21:32
十瑠さん、こんにちは。

僕は幼稚園へ行く直前くらい。小中学生時代にシリーズがよくTV放映されていた記憶がありますが、無視しました^^
1973~74年頃まで邦画は観なかったですし。寅さんも高校に入ってからだなあ。

>テンポが良かった
この第一作の展開の早さは相当なもので、結構複雑なお話なのに86分で収めているのは誉めたいです。元来モタモタ作品が多かった邦画では圧倒的だったでしょうね。

この第一作は皆様の評判が宜しく、他の作品を観ていないので比較はできませんが、純粋に面白いと思いましたし、これを超えるのは簡単なことではないと想像されまする。
6点の価値はあるでしょう^^
オカピー
2012年06月27日 21:49
ねこのひげさん、こんにちは。

>最近のお笑い
ねこのひげさんが仰っているであろうTVに出ているお笑い連中は本当に笑えませんなあ。爆笑問題がまあ面白いかな。

日本の喜劇映画は殆ど全滅状態でしょう。アメリカ映画は品がなさすぎますしねえ。

>『淀川長治 映画の世界』
映画評論家で全集など出して貰えるのは日本では淀川さんくらいだろうなあ。
東京の大学時代には先生の主宰していた「(東京)映画友の会」にも出席していましたが、結構頑固で邦画嫌いの先生は我々の推薦邦画を一切ご覧になってくださいませんでした。僕が通っていた頃は黒沢明監督と山田洋次監督の作品くらいしか観なかった筈です。
全40巻かあ。財産が減りつつある現在は厳しい・・・。

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