映画評「八日目の蝉」(地上波大幅カット版)
現状では採点不可・・・
2011年日本映画 監督・成島出
ネタバレあり
角田光代の同名小説を「孤高のメス」がなかなか良かった成島出が奥寺佐渡子の脚本を経て映画化したドラマで、147分の長尺。地上波で観るのは些か辛い長さながら、日本アカデミー賞で主要部門を総なめした話題作につき不本意と思いつつ観てみた。
CMを全てカットすると108分の放映、39分のカットである。アウトラインはほぼ解る一方、ある程度優れた作品であろうことが辛うじて伺われる程度の放映状態で、大まかな感想は書けても厳密な評価までは行けない。いつもは“地上波放映版”と但し書きを加えて☆★を出しているが、それは全体の出来栄えが十分想像できるものに限っている。ドラマ系で39分のカットは描写のバランスが大いに崩れてきつい。まして本作のように内容の重い作品ではその長さが重さや余韻等作品価値に色々と絡んでくるから問題が多いのである。
さらに40分延長して3時間の放映枠にすれば95%程度放映できたと思うが、日本の民放が映画放映に3時間枠を取ることなど現在あり得ない。翌日には内容の殆どを忘れてしまうバラエティには3時間枠はあるのにねえ。
未鑑賞の方に不適当な予断を引き起させることは避けたい為、将来WOWOWに出るのを待つか、レンタルでブルーレイ(もうDVDには戻れない)を借りるか、☆★はその時までお預けとしたい。
永作博美が妻のある田中哲司の子を妊娠、堕胎して子の産めない体になった後彼の妻・森口瑤子が出産する。別れる決意を強くする為に(?)夫婦不在の隙をついて赤ん坊を観ているうちに出来ごころを起して誘拐、宗教がかった場所で作業しながら共同で子育てを始めるが、取材が入りそうであるという情報が入った為に知り合いの実家のある小豆島に逃げ、幸いそこで仕事も得るが、二人でいるところを撮られた写真が新聞で賞を獲った為に遂に警察に御用となる。
誘拐からおよそ4年後実の父母の許に戻った少女は、情緒不安定になった母と不倫相手に子供を誘拐された男として仕事も碌にできず逃避的になった父の下で本来の家庭の幸福を知らずに成人して井上真央になり、4歳まで愛情いっぱいに育ててくれた優しき犯人と同じく不倫相手の子を身ごもり、フリー記者実は施設で一緒に過ごした小池栄子と旅に出、行きついた小豆島で過去と対峙することになる。
夫婦が家に赤子を置いたまま錠も下ろさずに留守にするのは、留守の時間がどの程度だったかよく解らないが、ちょっと腑に落ちない。翻せば、実母が母親としてかなり粗忽であったことが示されていることになる。
それはともかく犯人の罪は大きい。少女に大きな愛情を注ぎ過ぎた罪である。彼女の実母は告白通り本来の母親の幸福を奪われたが、三つ子の魂百まで、恐らく少女は過去を封印しながらも憎むべき犯人を愛し続け、精神の崩れてしまった実母に寧ろ憎悪に近い感情を覚えている様子。これが恐らく他の子供とは違う“八日目の蝉”たる彼女しか知らない彼女の不幸であるが、しかし、最後小豆島で誘拐犯と撮った写真を観て至った彼女の境地は恐らくは両親を許すことである。写真が“八日目の蝉”しか観られない風景の役目を果たす。一言で言えば母性の芽生えなのだろうが、もっと複雑な心理の渦巻くものであるにちがいない。残念ながら、僕にはそれが何であるか解らない。
配役陣では、何と言っても永作博美が断トツの好演。
昭和40年代前半まで僕の田舎では錠のおろせる家は殆どなかったし、僕と同年代の某女優によりますと東京下町でも鍵をする習慣は余りなかったらしい。
2011年日本映画 監督・成島出
ネタバレあり
角田光代の同名小説を「孤高のメス」がなかなか良かった成島出が奥寺佐渡子の脚本を経て映画化したドラマで、147分の長尺。地上波で観るのは些か辛い長さながら、日本アカデミー賞で主要部門を総なめした話題作につき不本意と思いつつ観てみた。
CMを全てカットすると108分の放映、39分のカットである。アウトラインはほぼ解る一方、ある程度優れた作品であろうことが辛うじて伺われる程度の放映状態で、大まかな感想は書けても厳密な評価までは行けない。いつもは“地上波放映版”と但し書きを加えて☆★を出しているが、それは全体の出来栄えが十分想像できるものに限っている。ドラマ系で39分のカットは描写のバランスが大いに崩れてきつい。まして本作のように内容の重い作品ではその長さが重さや余韻等作品価値に色々と絡んでくるから問題が多いのである。
さらに40分延長して3時間の放映枠にすれば95%程度放映できたと思うが、日本の民放が映画放映に3時間枠を取ることなど現在あり得ない。翌日には内容の殆どを忘れてしまうバラエティには3時間枠はあるのにねえ。
未鑑賞の方に不適当な予断を引き起させることは避けたい為、将来WOWOWに出るのを待つか、レンタルでブルーレイ(もうDVDには戻れない)を借りるか、☆★はその時までお預けとしたい。
永作博美が妻のある田中哲司の子を妊娠、堕胎して子の産めない体になった後彼の妻・森口瑤子が出産する。別れる決意を強くする為に(?)夫婦不在の隙をついて赤ん坊を観ているうちに出来ごころを起して誘拐、宗教がかった場所で作業しながら共同で子育てを始めるが、取材が入りそうであるという情報が入った為に知り合いの実家のある小豆島に逃げ、幸いそこで仕事も得るが、二人でいるところを撮られた写真が新聞で賞を獲った為に遂に警察に御用となる。
誘拐からおよそ4年後実の父母の許に戻った少女は、情緒不安定になった母と不倫相手に子供を誘拐された男として仕事も碌にできず逃避的になった父の下で本来の家庭の幸福を知らずに成人して井上真央になり、4歳まで愛情いっぱいに育ててくれた優しき犯人と同じく不倫相手の子を身ごもり、フリー記者実は施設で一緒に過ごした小池栄子と旅に出、行きついた小豆島で過去と対峙することになる。
夫婦が家に赤子を置いたまま錠も下ろさずに留守にするのは、留守の時間がどの程度だったかよく解らないが、ちょっと腑に落ちない。翻せば、実母が母親としてかなり粗忽であったことが示されていることになる。
それはともかく犯人の罪は大きい。少女に大きな愛情を注ぎ過ぎた罪である。彼女の実母は告白通り本来の母親の幸福を奪われたが、三つ子の魂百まで、恐らく少女は過去を封印しながらも憎むべき犯人を愛し続け、精神の崩れてしまった実母に寧ろ憎悪に近い感情を覚えている様子。これが恐らく他の子供とは違う“八日目の蝉”たる彼女しか知らない彼女の不幸であるが、しかし、最後小豆島で誘拐犯と撮った写真を観て至った彼女の境地は恐らくは両親を許すことである。写真が“八日目の蝉”しか観られない風景の役目を果たす。一言で言えば母性の芽生えなのだろうが、もっと複雑な心理の渦巻くものであるにちがいない。残念ながら、僕にはそれが何であるか解らない。
配役陣では、何と言っても永作博美が断トツの好演。
昭和40年代前半まで僕の田舎では錠のおろせる家は殆どなかったし、僕と同年代の某女優によりますと東京下町でも鍵をする習慣は余りなかったらしい。
この記事へのコメント
映画の放映で、これだけぶつぎりにCM入るのは日本ぐらいだという話も聞いたことがあります。
韓国なんかは、間にCM入ったら、すぐ抗議らしい(未確認だけど)
過去と現在をカットバックしながら緻密に構築された物語は、TV版の39分ものカットでバランスが総崩れ、全く映画として台無しになっていますことをお知らせいたしヤス。
>恐らくは両親を許すこと
レンタルの完全版を観た印象では、そこまでは行ってなく、少女が封印していた自らの過去を解き放つことが出来たのだと思いました。
日本アカデミー賞受賞が納得できる映画でした。
20年くらい前にWOWOWに加入してから地上波は殆ど観ません(年数本程度)が、どうしても話題作がWOWOWに先行してしまうと、観てしまいますね。一応映画サイトで上映時間を調べ、10分以内ならまず観ます。
>CM
本編自体に鋏を入れるのも嫌ですが、“完全版”でもCMによる中断は作品本来の呼吸を狂わすので本当は嫌ですね。監督若しくはコンマ何秒で映画を編集しているわけですから。
だからNHK-BSがWOWOWに先行して映画放送を始めた時は嬉しかったなあ。
>★★★★程度
おおっ、なかなかの高評価ですね!
当方に換算すると、当方の☆☆☆☆くらいですかね。白と黒が代わっただけのように見えますが、違うんですよね、十瑠さん(笑)。
>バランスが総崩れ
そうでしょ。
そんなことだと思いましたよ。
思い切って2回に分けても良かったのではないですかなあ、日本アカデミー賞は日本テレビが放映権を持っているわけですし。
>両親
ふーむ、僕の願望もあったのでした^^
過去を解放できたことは間違いないですね。
日曜日の早朝、テレビ東京で『ディープエンド・オブ・オーシャン』という誘拐された子供の親の苦悩と誘拐された子供との出会いを描いた映画をやってました。
こちらは、あまりカットしてなかったです。
『餓鬼草紙』の高橋陽一さんが亡くなりました。
次々と・・・・・・・・・時代を感じます。
>アクション物なら
近年僕が知っている限り一番カットされた映画は上映時間146分の「バッドボーイズ2バッド」で、2時間枠で放映された為恐らく50分強カットされていると思いますが、全編刑事二人の駄弁が続く作品なので、オリジナルより楽しめたのではないかと想像しています。僕は完全版を観て、駄弁のオンパレードで退屈で仕方がありませんでした。
>『ディープエンド・オブ・オーシャン』
ああ、これも似たテーマの作品でしたっけ。
タイトルとミシェル・ファイファーが出ていたのは憶えていますが、やはり40以降に観た作品の記憶は薄くなりがちです・・・とほほ。
>高橋陽一
一瞬「キャプテン翼」かと思いましたが、高林陽一さんですね。
彼の作品で一番印象に残っているのは「本陣殺人事件」かなあ。先月父の亡くなる前に久しぶりに横溝正史の原作を読んだばかり。
父親とほぼ同じ世代で、平均寿命といったところですが、昭和一桁世代も、特に男性は次々と亡くなる時代となったということですね。
ただ、物語のはじまりの、窓の鍵開けたまま赤ちゃんだけ置いて親二人が出かけるの、まあ現実にはああいうこともあるわなあなんでしょうけど、ちょっと「?」でしたね。でも、赤ちゃんが永作博美見てにこっというか、かわいい表情のままで、それで永作博美がつい抱き上げて、そしてそのまま、というのはリアリティを感じましたので、あとは物語の流れに乗っていきました。
人というのは、共通に行動するところがあると思えば、他人の想像できない行動するところがありますよね。だから、こんなに数多くの映画が作られ、小説が書かれる。そうしたことを考えてみるのも面白い作品かもしれません。