映画評「デザート・フラワー」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年イギリス=ドイツ=オーストリア映画 監督シェリー・ホーマン
ネタバレあり
未だにBSジャパン(テレビ東京のBS)で続いている「ファッション通信」を目の保養の為に見ているが、最近のモデルの名前は全く知らない。1990年代にはナオミ・キャンベル、リンダ・エヴァンジェリスタ、クラウディア・シファーといったスーパーモデルがいて、本作の主人公ワリス・ディリーは彼女たちよりちょっと前そして恐らく同時期にも一緒にキャットウォークしていた大物モデルらしいのだが、僕は知らなかった。
そんな彼女の自伝小説の映画化で、ソマリアの砂漠地帯の遊牧民出身で13歳で老人の4番目の妻になるのを嫌がってやっと得たパスポートでソマリア大使をしている親戚を頼ってロンドンに出るものの、祖国の軍事クーデターによりホームレスになったところをダンサー志願の店員マリリン(サリー・ホーキンズ)に何とか助けて貰い、彼女を介してファッション写真家(ティモシー・スポール)に発見されて、期限切れのパスポートなどで色々問題にぶつかりながらも遂に市民権を得た後は一流雑誌の表紙を飾って世界を股にする有名モデルになる。
というサクセス・ストーリーが軸になっているが、本作を映像化したシェリー・ホーマンはその成功の影に隠されていた女子割礼の問題を訴えたかったにちがいない。
英国の女性たちが割礼をしていないことを知った彼女は男性に積極的にアプローチできない、男性からのアプローチも受けられない。偽装結婚で彼女を救うことになる男性の要求に全く応えようとしないのは単に好きではないからというだけでなくその心理的作用がある気がする故に、腑に落ちないのは以前名刺を貰って恋心を抱いたらしいニューヨークの黒人男性に揚々と会いに行き彼に恋人がいると知って失望する件(くだり)である。
その辺りを単なるエピソードではなく、心理的に掘り下げて描けば、文字通りサクセス・ストーリーの柱とした社会派作品としてニュアンスに富む優れた映画になったと思われるだけに残念。
しかし、成功した彼女が訴えたことにより世界的な女子割礼が大きな問題となって一定の改善が為された事実を娯楽映画的な見地から紹介しただけでも価値があるし、回想を色々と交えながらも下手に匠気を出さず理解し易く作ろうというこの女性監督の態度は大いに誉めてしかるべし。
特にアフリカにおけるイスラム教の問題みたいだねえ。
2009年イギリス=ドイツ=オーストリア映画 監督シェリー・ホーマン
ネタバレあり
未だにBSジャパン(テレビ東京のBS)で続いている「ファッション通信」を目の保養の為に見ているが、最近のモデルの名前は全く知らない。1990年代にはナオミ・キャンベル、リンダ・エヴァンジェリスタ、クラウディア・シファーといったスーパーモデルがいて、本作の主人公ワリス・ディリーは彼女たちよりちょっと前そして恐らく同時期にも一緒にキャットウォークしていた大物モデルらしいのだが、僕は知らなかった。
そんな彼女の自伝小説の映画化で、ソマリアの砂漠地帯の遊牧民出身で13歳で老人の4番目の妻になるのを嫌がってやっと得たパスポートでソマリア大使をしている親戚を頼ってロンドンに出るものの、祖国の軍事クーデターによりホームレスになったところをダンサー志願の店員マリリン(サリー・ホーキンズ)に何とか助けて貰い、彼女を介してファッション写真家(ティモシー・スポール)に発見されて、期限切れのパスポートなどで色々問題にぶつかりながらも遂に市民権を得た後は一流雑誌の表紙を飾って世界を股にする有名モデルになる。
というサクセス・ストーリーが軸になっているが、本作を映像化したシェリー・ホーマンはその成功の影に隠されていた女子割礼の問題を訴えたかったにちがいない。
英国の女性たちが割礼をしていないことを知った彼女は男性に積極的にアプローチできない、男性からのアプローチも受けられない。偽装結婚で彼女を救うことになる男性の要求に全く応えようとしないのは単に好きではないからというだけでなくその心理的作用がある気がする故に、腑に落ちないのは以前名刺を貰って恋心を抱いたらしいニューヨークの黒人男性に揚々と会いに行き彼に恋人がいると知って失望する件(くだり)である。
その辺りを単なるエピソードではなく、心理的に掘り下げて描けば、文字通りサクセス・ストーリーの柱とした社会派作品としてニュアンスに富む優れた映画になったと思われるだけに残念。
しかし、成功した彼女が訴えたことにより世界的な女子割礼が大きな問題となって一定の改善が為された事実を娯楽映画的な見地から紹介しただけでも価値があるし、回想を色々と交えながらも下手に匠気を出さず理解し易く作ろうというこの女性監督の態度は大いに誉めてしかるべし。
特にアフリカにおけるイスラム教の問題みたいだねえ。
この記事へのコメント
まさに目の保養であります。
この映画は、公開当時、割礼問題で大きな話題となりました。
割礼はユダヤ教でも行われてますが、宗教がらみでなくなることはないようで・・・
特に、アフリカの場合は、割礼に使う刃物が問題で、割った瓶の欠片などで行うために感染症にかかり亡くなる子供が多いようです。
>ユダヤ教
男子のそれはナチス絡み映画でもよく話題に出るので昔から知っていますが、イスラム教の男子はしていましたっけ?
少なくとも、本作ではイスラム教の教えに女史の割礼はないと明言されていました。
恐らくアフリカ独自の風習と結びついたものなのでしょう。
悪習にも必要なものもあるかもしれませんが、これは必要ないものの代表ですね。
ただし、それほどの効果はないそうで、迷信に近いようです。
女性の場合は、アフリカに多いようですが、男女とも、大人への通過儀式といわれてますが、人間の支配欲が生み出した因習のようです。
>割礼
歴史的に紐解けば、ユダヤ教からキリスト教、イスラム教と分岐したわけで、旧約聖書にそれらしき文言が出てきますから、キリスト教にあっても当然でしょうね。
しかし、映画などでナチスがユダヤ人がどうか確認する際に割礼をしているかどうか調べるところをみると、今はともかくキリスト教徒ではそれほど多くなかったのでしょう。
確か「アレクサンドリア」でも言及されていたように、布教の際に割礼を強制しないことを条件としたからだと思われます。
女性については僕はよく解りませんが、ほぼアフリカ独自なんでしょうかねえ。どちらにしても悪習ですよね。