映画評「ジュリエットからの手紙」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年アメリカ映画 監督ゲイリー・ウィニック
ネタバレあり
ここ一カ月でアマンダ・セイフライド主演の映画が三本目。偶然集中したのだろうが、売れっ子ですなあ。
「ニューヨーカー」誌で事実確認係という妙な仕事をしているアマンダ嬢が、イタリアン・レストラン開店を控えている婚約者ガエル・ガルシア・ベルナルと婚前旅行へ出発、目的地は南イタリアのヴェローナだがベルナル君は材料の仕入先となる業者との面会に夢中で旅気分などない為、彼女は自由に「ロミオとジュリエット」のジュリエットの生家と言われる場所を訪れる。いつの間にか世界中の女性たちが家の壁に思いの丈を綴った手紙を張り付け、“ジュリエットの秘書”と称する女性たちが返事をするという習慣が出来ていることを知った彼女は壁の中から偶然発見した50年前の手紙の主に自発的に返事を書くことを申し出る。
かくして今や老婦人となったヴァネッサ・レッドグレーヴがロンドンからスノッブな印象を与える孫クリストファー・イーガンと共に現れ、真実の恋をネタに記者に出世したいと願っているアマンダを引き連れて初恋の人探しの行脚に繰り出すことになる。
という前半から中盤が非常にヨロシイ。若者から中年くらいまでの恋愛の紆余曲折を描いた作品は無数にあるから、ジュリエットに手紙を託すという習慣があることの紹介だけでも大変興味深く、老婦人と孫と婚約者と別行動で過ごす記者志願の娘という組合せによるロード・ムービー風構成が妙な刺激がなく実にのんびりと気分良く見ることが出来るのである。
「ジュリエットへの手紙」という原題に対し、邦題は「ジュリエットからの手紙」。僕が思ったのは原題を考えた人は手紙を書いた時点がお話の始まりと考え、邦題を案出した人はヒロインが返事を書いた時点を物語の始まりと考えたのではないかということだ。実際には原題の手紙は複数であるから漠然たる習慣を示し、邦題は恐らく単数と思われ、あくまでアマンダ嬢個人の恋愛修行の始まりという意味と理解できる。どちらが良いか別にしてこの辺りの差異にもお国柄が感じられる。
本作は布石がきっちり置かれている。記事のテーマが「真実の恋」であり、旅の直前に彼女は「彼の気持ちを自分に向けさせるように」とアドバイスされる。これが布石である。しかし、布石をきっちり置き過ぎた為に却って、ヴァネッサが50年前に思った人フランコ・ネロと再会した後は【推して知るべし】の展開となってさほど面白くない。
それはそうであろう、「真実の恋」と「気持ちを自分に向けさせる」を掛ければ自ずとベルナル君は恋の圏外に去り、一見(いちげん)での印象と違って徐々に好青年の様相を示すイーガン君に彼女の心が移って行くのは目に見えている。昔のロマンスはその辺りの創意工夫に優れて定石を上手く利用した作品が多く、解りきったことを実に楽しく見せてくれたが、昨今定石を上手く使える脚本家が本当にいなくなった。
という次第で、前半☆☆☆★、後半☆☆★くらい。中間を取って☆☆☆としましょう。観光気分も満喫でき、ストーリーが近年の作品では珍しいくらい清潔な感じがするのが嬉しい。
ヴァネッサとネロが夫婦揃って共演(「怪奇な恋の物語」以来?)と解った瞬間オールド・ファンは泣けましたよ。
2010年アメリカ映画 監督ゲイリー・ウィニック
ネタバレあり
ここ一カ月でアマンダ・セイフライド主演の映画が三本目。偶然集中したのだろうが、売れっ子ですなあ。
「ニューヨーカー」誌で事実確認係という妙な仕事をしているアマンダ嬢が、イタリアン・レストラン開店を控えている婚約者ガエル・ガルシア・ベルナルと婚前旅行へ出発、目的地は南イタリアのヴェローナだがベルナル君は材料の仕入先となる業者との面会に夢中で旅気分などない為、彼女は自由に「ロミオとジュリエット」のジュリエットの生家と言われる場所を訪れる。いつの間にか世界中の女性たちが家の壁に思いの丈を綴った手紙を張り付け、“ジュリエットの秘書”と称する女性たちが返事をするという習慣が出来ていることを知った彼女は壁の中から偶然発見した50年前の手紙の主に自発的に返事を書くことを申し出る。
かくして今や老婦人となったヴァネッサ・レッドグレーヴがロンドンからスノッブな印象を与える孫クリストファー・イーガンと共に現れ、真実の恋をネタに記者に出世したいと願っているアマンダを引き連れて初恋の人探しの行脚に繰り出すことになる。
という前半から中盤が非常にヨロシイ。若者から中年くらいまでの恋愛の紆余曲折を描いた作品は無数にあるから、ジュリエットに手紙を託すという習慣があることの紹介だけでも大変興味深く、老婦人と孫と婚約者と別行動で過ごす記者志願の娘という組合せによるロード・ムービー風構成が妙な刺激がなく実にのんびりと気分良く見ることが出来るのである。
「ジュリエットへの手紙」という原題に対し、邦題は「ジュリエットからの手紙」。僕が思ったのは原題を考えた人は手紙を書いた時点がお話の始まりと考え、邦題を案出した人はヒロインが返事を書いた時点を物語の始まりと考えたのではないかということだ。実際には原題の手紙は複数であるから漠然たる習慣を示し、邦題は恐らく単数と思われ、あくまでアマンダ嬢個人の恋愛修行の始まりという意味と理解できる。どちらが良いか別にしてこの辺りの差異にもお国柄が感じられる。
本作は布石がきっちり置かれている。記事のテーマが「真実の恋」であり、旅の直前に彼女は「彼の気持ちを自分に向けさせるように」とアドバイスされる。これが布石である。しかし、布石をきっちり置き過ぎた為に却って、ヴァネッサが50年前に思った人フランコ・ネロと再会した後は【推して知るべし】の展開となってさほど面白くない。
それはそうであろう、「真実の恋」と「気持ちを自分に向けさせる」を掛ければ自ずとベルナル君は恋の圏外に去り、一見(いちげん)での印象と違って徐々に好青年の様相を示すイーガン君に彼女の心が移って行くのは目に見えている。昔のロマンスはその辺りの創意工夫に優れて定石を上手く利用した作品が多く、解りきったことを実に楽しく見せてくれたが、昨今定石を上手く使える脚本家が本当にいなくなった。
という次第で、前半☆☆☆★、後半☆☆★くらい。中間を取って☆☆☆としましょう。観光気分も満喫でき、ストーリーが近年の作品では珍しいくらい清潔な感じがするのが嬉しい。
ヴァネッサとネロが夫婦揃って共演(「怪奇な恋の物語」以来?)と解った瞬間オールド・ファンは泣けましたよ。
この記事へのコメント
なかなか粋なことをすると思いましたよ。
脚本と言えば、先日見た映画のあと、原作をもう一度読み返してみて、脚本家がどこを省略してどこをつけたしたのかわかって面白かったですね。
上下二巻の本を2時間以内の映画にする脚本家や編集の苦労がすこしわかった気分になりました。
恐らく、その面白い風俗(?)を紹介した記事でも読んで、脚本家が閃いたのかもしれませんね。1960年代半ばまであれほど映画における言葉遣いに厳しかったことが嘘のように下品な言葉や描写に満ちた作品が多い最近のアメリカ映画では珍しいほど品のある作品でした。
>脚本と原作
脚本家の諸氏は、そう言われると嬉しいでしょうねえ。
アウトサイダーの僕も嬉しかったです^^
ヒッチコックが「レベッカ」を映画化する際にプロデューサーのセルズニックから「原作のファンは少しでも変えると怒るものだから」とくぎを刺されたというエピソードが有名ですが、僕は「模倣犯」のバッシング以来「原作ファンは映画を観るなら差異を以って文句を言うな」と色々なところで申してきました。原作を語るところならまあ構わないですけどね。
文庫本300ページの小説を2時間以内にまとめるのは実際大変でしょうね。うまくまとめる為に改変すると文句を言う阿呆もいますし。何のために改変したか、改変によりどんな影響が出たか研究するのは意義のあることですが。
僕も何年か前異色作「パフューム」を観た直後に原作「香水」を読んでみて差異が非常に興味深かったです。主題が変わっているようにも感じましたなあ。
映画鑑賞と読書の両方を趣味にしている方は、映画を先に観た方が良い場合が多いと思います。過去の名作は仕方ありません。
ジュリエットからの手紙レンタルDVDでみました。
50年かあ~ それって 「奇跡体験アンビリーバボー」になるような再会ですよ~?
>ヴァネッサとネロが夫婦揃って共演
トニーリチャードソンとはXXXして ナターシャとジョエリー 二人の娘を授かったものの トニーはジャンヌ・モローに恋に落ちて離婚
ネロとは 結婚はしなくともXXXをして 息子カルロ・ガブリエルが誕生して正式にフランコと結婚したのが 2006年
けど、娘ナターシャがスキーの事故で亡くなったりといろいろありましたからね。
そういえば トニーリチャードソンを魅了したジャンヌ・モローと ヴァネッサを魅了したフランコ・ネロ 確か「ケレル」という作品で共演してたみたいですが フランコとジャンヌ・・・たぶん いっしょになっても性格は合わない気がします。
お久しぶりでした。
>娘ナターシャがスキーの事故で亡くなったりといろいろありましたからね
女優として期待していたので、個人的にも非常に残念な出来事でした。
>確か「ケレル」という作品で共演してたみたいですが
>フランコとジャンヌ・・・
>たぶん いっしょになっても性格は合わない気がします。
ジャンヌ・モローが実際にどういう女性だったか知りませんけれど、映画のイメージ通りなら、そうでしょうねえ。
しかし、「ケレル」は同性愛者の映画だと思うので、映画の中でそういう関わり合いはなかったのではないでしょうか。何でも観る僕には、珍しく未見なのですが。
ジャンヌ 淫〇宿の女将・・・まるでジャ〇ーズのあの〇リー喜多〇さんみてえ(笑)
おっしゃるとおり ジャンヌとフランコは関わってませんでした。
たぶん映画通りのイメージなので 私生活で一緒になっても合わなさそう(笑)
アマンダ 30代になった今も 小悪魔的ですね。あんまり老けこんでいませんでした。顔つきが元々いいんでしょうねえ。
50年は長いよ~ ホント 奇跡体験アンビリーバボーの感動的な再会のように 可能性が極めて低い確率なんですから。
>アマンダ 30代になった今も 小悪魔的ですね。
この作品出演時は25歳でした。
しかし、日本でも名字表記が色々あって困りますね。色々うるさい僕にも、彼女の名字には確かなことは言えないのです。
>50年は長いよ~ ホント 奇跡体験アンビリーバボーの感動的な再会
確かにアンビリバボーな展開でしたね。
50年も過ぎて観れば速いもので、ついこの間のことのように思い出しますよ。