映画評「ハンナ」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年アメリカ=イギリス=ドイツ合作映画 監督ジョー・ライト
ネタバレあり
「プライドと偏見」で好調な長編デビューを果たし「つぐない」で僕をうならさせたジョー・ライトの日本公開第4作はアクション映画(もどき)だった。
“だった”と今回過去形にしたのは僕は事前に何も知らずに見る習慣があるからで、確実に得たい情報は監督は誰かということのみで、俳優も余り眼中にない。とみに21世紀に入ってから諸事情(恐らくコスト関係)により新人・若手監督ばかりで監督で映画を選び見ることができず全くつまらない時代になったと嘆いている僕が注目する監督の数少ない一人がこのライトである。
観終わった後少々映画サイトと僕がご贔屓にしているブログを幾つか拝見させて頂きましたらどうも評判が芳しくないが、確かに今までのライト氏の仕事の中では一番良くないと思うものの、“映画的に”つまらなかったかと言えばそうでもない。少なくともスーパーヒロイン女優による固定観念的に作られたアクション映画群よりずっと楽しく観られた。
フィンランドの森で元CIAエージェントたる父(エリック・バナ)の二人でほぼ非近代文明的生活を続け戦闘術を鍛えて来た少女ハンナ(シアーシャ・ローナン)が、父とベルリンのグリムの家での再会を約し、母親を殺したCIA女性諜報員マリッサ(ケイト・ブランシェット)を暗殺する為に森を出て捕えられ、目的を果たしCIA職員をして不能と言わしめる基地から外に出ると、そこはモロッコの砂漠地帯。たまたま通りがかった英国旅行者の車にこっそり乗り込んで渡欧、グリムの家に到着するとCIAの刺客だけでなく殺したはずのマリッサが登場、前回殺したのは影武者と知って今度は本当の対決と相なる。
というお話の骨格は単純で、CIAがこの父娘を抹殺しようとつけ狙う理由は結局は失敗に終ったDNA操作によるスパイ育成プロジェクトの生きる証人であるからで、SF趣向の似たようなお話は幾つかある為、それ自体は何ということはないものの、グリム童話の底に沈殿する毒を織り交ぜ、外の社会を何も知らない少女が魔女と戦う童話のようなお話に仕立てられているのがなかなか興味深い。「ロード・オブ・ザ・リング」以降こういう非人間の役が増えたケイト・ブランシェットを敵役に起用したのも頷ける。
旅の過程で真の文明と触れて驚き、父以外の人間と初めて知り合ってコミュニケーションを上手く取れない様子なども現代社会を風刺する童話・寓話的な要素に満ちている。
長回しが好きなライトが細切れカットが常套手段となっているアクション映画をどう撮るかという点で、モロッコの地下施設において試みられた、ライトの明滅でまるで細切れカットのような効果を出している部分が非常に興味深い。
僕の勝手な憶測にすぎないが、彼が長回し(と言うか一般的な長さのカット割り)を崩さず、つまり自分本来の手法を遵守しながらそう見せかけたところに反骨精神と流行への皮肉を感じるわけである。もっと具体的に言えば、CIA、超人育成、モロッコという共通点を考え合せると、細切れ大好きポール・グリーングラス監督の「ボーン・アルティメイタム」(2007年)に対する皮肉を込めた返歌のような印象を覚えるのである。
かくして、ライトの代表作には決してならないであろうが、作られた価値は十分あると思う。
♪Hanna, you come and ask me (girl) to set you free (girl)...
2011年アメリカ=イギリス=ドイツ合作映画 監督ジョー・ライト
ネタバレあり
「プライドと偏見」で好調な長編デビューを果たし「つぐない」で僕をうならさせたジョー・ライトの日本公開第4作はアクション映画(もどき)だった。
“だった”と今回過去形にしたのは僕は事前に何も知らずに見る習慣があるからで、確実に得たい情報は監督は誰かということのみで、俳優も余り眼中にない。とみに21世紀に入ってから諸事情(恐らくコスト関係)により新人・若手監督ばかりで監督で映画を選び見ることができず全くつまらない時代になったと嘆いている僕が注目する監督の数少ない一人がこのライトである。
観終わった後少々映画サイトと僕がご贔屓にしているブログを幾つか拝見させて頂きましたらどうも評判が芳しくないが、確かに今までのライト氏の仕事の中では一番良くないと思うものの、“映画的に”つまらなかったかと言えばそうでもない。少なくともスーパーヒロイン女優による固定観念的に作られたアクション映画群よりずっと楽しく観られた。
フィンランドの森で元CIAエージェントたる父(エリック・バナ)の二人でほぼ非近代文明的生活を続け戦闘術を鍛えて来た少女ハンナ(シアーシャ・ローナン)が、父とベルリンのグリムの家での再会を約し、母親を殺したCIA女性諜報員マリッサ(ケイト・ブランシェット)を暗殺する為に森を出て捕えられ、目的を果たしCIA職員をして不能と言わしめる基地から外に出ると、そこはモロッコの砂漠地帯。たまたま通りがかった英国旅行者の車にこっそり乗り込んで渡欧、グリムの家に到着するとCIAの刺客だけでなく殺したはずのマリッサが登場、前回殺したのは影武者と知って今度は本当の対決と相なる。
というお話の骨格は単純で、CIAがこの父娘を抹殺しようとつけ狙う理由は結局は失敗に終ったDNA操作によるスパイ育成プロジェクトの生きる証人であるからで、SF趣向の似たようなお話は幾つかある為、それ自体は何ということはないものの、グリム童話の底に沈殿する毒を織り交ぜ、外の社会を何も知らない少女が魔女と戦う童話のようなお話に仕立てられているのがなかなか興味深い。「ロード・オブ・ザ・リング」以降こういう非人間の役が増えたケイト・ブランシェットを敵役に起用したのも頷ける。
旅の過程で真の文明と触れて驚き、父以外の人間と初めて知り合ってコミュニケーションを上手く取れない様子なども現代社会を風刺する童話・寓話的な要素に満ちている。
長回しが好きなライトが細切れカットが常套手段となっているアクション映画をどう撮るかという点で、モロッコの地下施設において試みられた、ライトの明滅でまるで細切れカットのような効果を出している部分が非常に興味深い。
僕の勝手な憶測にすぎないが、彼が長回し(と言うか一般的な長さのカット割り)を崩さず、つまり自分本来の手法を遵守しながらそう見せかけたところに反骨精神と流行への皮肉を感じるわけである。もっと具体的に言えば、CIA、超人育成、モロッコという共通点を考え合せると、細切れ大好きポール・グリーングラス監督の「ボーン・アルティメイタム」(2007年)に対する皮肉を込めた返歌のような印象を覚えるのである。
かくして、ライトの代表作には決してならないであろうが、作られた価値は十分あると思う。
♪Hanna, you come and ask me (girl) to set you free (girl)...
この記事へのコメント
たしかに『つぐない』とかに比べれば・・・・t違和感がありましたけどね~
フィンランドの森とかモロッコの砂漠とか冒険小説の要素がふんだんで面白かったです。
「バイオハザード」はゲームの映画化で僕が「ちょっといけるな」と思った唯一の作品であるわけですが、シリーズ化されて(特に第三作以降)つまらなくなってしまった。
僕は、何故か、引退したエージェントが危険に遭遇するブルース・ウィリスの「レッド」を思い出しましたなあ。
低評価の基準としてそもそもアンジェリーナ・ジョリーなどと比べるのが筋違いで、これは寓話ですよ。尤もアンジェリーナ・ジョリーのアクション映画で面白いと思ったのは一本もないので、どうでも良いんですが(笑)
それより、お話は全然違うけれども、「レオン」のナタリー・ポートマンを思い出す方が健全でしょうか(笑)。