映画評「ヤバい経済学」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年アメリカ映画 監督セス・ゴードン、モーガン・スパーロック、アレックス・ギブニー、ユージン・ジャレッキー、ハイディ・ユーイング、レイチェル・グラディ
ネタバレあり

経済学者スティーヴン・D・レヴィットとスティーヴン・J・ダブナーが共著した同名著書から幾つかの話題をピックアップして作ったオムニバス・ドキュメンタリーで、通奏低音と言うべきはインセンティヴ即ちご褒美である。
 製作総指揮・監督に先日観た劇映画「モンスター上司」のセス・ゴードンが絡んでいたので観ることにしたのだが、深刻な問題を指摘する経済ドキュメンタリーが多い中、心理学的な側面を重視して様々な角度から経済を分析しようとしたところに面白さがある。

最初は、親が付けた名前が子供の人生を左右するか、ということがテーマの「ロシャンダが別名なら」。結論は余りに黒人的な名前は就職活動に於いて不利になる可能性があるが、それほど決定的ではない、ということらしい。
 そもそも白人と黒人に明確に名前の差があると思っていなかったが、それは僕が1960年代末以降に生まれた比較的若い黒人の名前をそれほど知らないからである。1960年代後半ブラック・パワーの運動があった時にイスラム教の思想と結び付いて、アラブ人若しくはイスラム教徒でもないのにアラブっぽい名前が増えたらしい。

その次は「純粋さの崩壊」で、大相撲の八百長問題に触れている。本論前の相撲の儀式の由来が興味深いが、千秋楽前に勝ち越しが決定している八勝の力士と七勝の力士とが対戦した時圧倒的に七勝の力士が勝っていることで数字的に八百長があることを指摘している。これは僕も新聞か何かで読んだことがある為驚きはしなかった。いずれにしても、インセンティヴが深くかかわっている端的な例である。

続いては、「『素晴らしき哉、人生!』とは限らない」。因果(原因と結果)という意味では本作が一番興味深い話題を提供している。
 即ち、1990年代にアメリカの犯罪件数が劇的に減ったのは幾つかの要因があるが、一番貢献したのは1970年代に中絶法が通ったことであるというのだ。これは色々な数字が裏付けていて説得力があり、一部のキリスト教徒にはけしからんということになるだろうが、中絶を認めた方が自分が助かる確率が増えるのは確か。その反面教師が60年代ルーマニア(のチャウシェスク議長)が行なった人工中絶禁止だったというのも面白い。

最後は「高校一年生を買収して成功に導けるか」で、これぞインセンティヴの最たる話。
 シカゴ大学が、一月(ひとつき)ごとにDとE(日本流に言えば、2と1)ばかりの一年生(九年生)に全科目C以上になったら50ドルを贈呈し、かつ500ドルが当たる抽選権とリムジンに乗れる権利を与えるとどうなるかという調査を行なうが、そういう取引をしなかった子供に比べて成績が上がった生徒は僅かに多い程度であり、最初から成績が多少良かった生徒(元々Dが幾つかあった生徒)の方が効果があったという結果が出てくる。
 つまり本当の劣等生は何をやっても無駄ということ。僕の持論は「興味のあることは誰でも憶え、できる」である。興味に敵うものなし。勉強ができる輩は大概興味のある対象と学問が一致しているのだ。

インセンティヴが全ての項目で重要な扱いをされているわけではなく一貫性に乏しく、明確な結論もないまま終わっている感じがするが、経済書でも映画(映像)になるという実例になったのは良いことである。少なくとも文字なら読まないが、映画なら見るという人もいる。僕の兄が、料理番組は大嫌いと言いながらコミック「美味しんぼ」を買って読み、アニメも見ていたように。

そこで一句。大嫌い 苦手な素材も メディア次第(押韻しているのに注意!)。

原題はFreakonomicsというfreak(変人、酔狂)+economics(経済学)の造語。他に良いアイデアがあるわけではないが、そう上手い訳とも思えない。“変てこ経済学”といったところかな。

我が母校(高校)は、1が1、2と3が2、3と4が3、5と6と7が4、8と9と10が5に相当、三学期の成績は通年評価とする独自の評価付けを行なっていた。それも絶対評価なので、クラスで一番でも大概8どまりだった。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年10月06日 08:35
これは観てないはずなのに見た記憶があるな~(笑)
と思ったら、高校1年生に、成績をあげたら金をやるから勉強しろという部分だけをテレビの番組で取り上げて見せてましたね。

医学と違って、経済学というのは、もっとも博士号の取りにくい学問だそうです。博士号を貰うには、新しい経済理論を考え出さなければいかんからと大学の時、教授が言っておりましたな~
オカピー
2012年10月06日 19:44
ねこのひげさん、こんにちは。

>テレビの番組
それは良かった(笑)。

>経済学
一番予想ができない分野でもありますしね。
マルクスも共産主義がああいう形になって終焉するとは夢にだに思わなかったでしょう。
今本来の意味での共産主義に一番近い政治をやっている国はキューバかな。
残りはインチキ。インチキよりまだトンチキのほうがいいや(笑)。

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