映画評「恋のページェント」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1934年アメリカ映画 監督ジョゼフ・フォン・スタンバーグ
ネタバレあり

ジョゼフ・フォン・スタンバーグとマレーネ・ディートリッヒのコンビ第6作。

さて、高校の世界史ではロシアは中世のキエフ公国が少し扱われた後、近世のピョートル大帝とエカチェリーナ2世までまず登場しない。本作はその2世が皇帝になるまでのお話である。

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プロイセンの小国領主の娘であるゾフィー(マレーネ・ディートリッヒ)がロシア女帝エリザヴェータ(ルイーズ・ドレッサー)の肝入りで次の皇帝たる息子ピョートル(サム・ジャフェ)に嫁ぐことに決まるが、遣いの伯爵アレクセイ(ジョン・ロッジ)が長い旅の間にすっかり彼女に参ってしまう。
 とにかく、エカチェリーナに改名して頭の弱いピョートルとの長い結婚の儀式を経て夫婦になったもののピョートルに問題があって女帝待望の子供(勿論男児)ができない。やがて生まれる男児の父親については、前後の描写から判断して、ピョートルではなく近衛兵サルトゥイコフであるという説を取っているようである。
 女帝が崩御してピョートル(三世)が皇帝に就くものの、事前に多数の軍人を味方に引き入れていたエカチェリーナはピョートル側の軍人も簡単になびかせクーデターを成功させる。

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ほぼ史実若しくは有力な説に忠実に作られているが、それだけでスタンバーグが脚本を書いてメガフォンを取る気になるはずがない。彼はこの映画で何を描きたかったのであろうか?
 ヒントはエリザヴェータの部屋にアレクセイが入って行くシーンの撮り方にある。監督は、ヒロインが女帝に言われるように次々と蝋燭の火を消し、階下で待っている男と出くわさないように階段を下り、彼の後姿だけを見るシーンを実に丁寧に、幽玄に撮っている。このシーンが前段となり、ヒロインは後にアレクセイに全く同じことをさせる。即ちテーマは復讐である。
 しかし、その対象はアレクセイではなく、彼を奪い変てこな息子を押し付けたエリザヴェータその人である。二人の関係を知って絶望した彼女は偶々出会った近衛兵サルトゥイコフに体を許す(勿論ごく暗示のみ)。

最後にアレクセイも一部の説通りにピョートルを暗殺し、彼女の復讐を完成させる。伯爵が本当に愛していたのはエカチェリーナということになる。

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結婚式までは冗長な場面が多くて眠気を誘われるが、中盤のアレクセイの付文事件以降は虚実織り交ぜてかなり興味深く作られている。シークエンス的には前述の蝋燭と階段をうまく使った箇所に尽きる。光と影を強調した撮影も秀逸。

マレーネは前半のかまとと部分が面白い。

因みに、戦前公開された時は皇室スキャンダルを描いた部分が検閲でカットされた為に何が何だか解らなかったようで、日本人が本作の真価を理解できたのは近年ビデオ発売されてかららしい。

よその国のことでも、検閲官にとって皇室は皇室だったわけね。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年11月23日 06:16
いま、やっている大河ドラマ『平清盛』なんて、絶対禁止されて作った連中は牢獄行ですよね。

朝早くコメントしているのは、猫に起こされるからであります。
ご飯をくれ~と鳴かれると起きないわけにはいきませんです。
猫は、食べたあとは、また寝てるんですけどね(^_-)
オカピー
2012年11月23日 21:42
ねこのひげさん、こんにちは。

日本は今でも明治以降の天皇を扱うのは事実上ご法度(自主規制か)ですね。「明治天皇と日露大戦争」が大々的に扱った唯一の作品(実は続編もあります)で、「日本のいちばん長い日」に昭和天皇が少々出てくるくらいですか。
その点、英国は皇室をかなり赤裸々に描いていますね。日本に比べると、度量があります。但し、結論的に悪く描いているものはありませんが。

>猫
それはそれはご苦労様です^^
主人は痩せる思いをしているのに、猫は王様ですなあ。

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