映画評「ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~」

☆☆★(5点/10点満点中)
2010年ドイツ映画 監督フィリップ・シュテルツェル
ネタバレあり

中学一年の時に「若きウェルテルの悩み」を読んで陶酔した。当時はこの手の報われない恋といったテーマの小説に感激することが多かったが、中でも「ウェルテル」に強く惹かれた。古典文学にある程度通じている方なら「ウェルテル」が若きゲーテの経験が元になっていることはご存知であろう。その意味でこの邦題は的を外していない一方、日本の映画業界に蔓延している“君・僕”病に感染しているのが大いに気に入らない。ゲーテを全く安物扱いしている。
 しかるに、映画の方もある程度(40%くらい)史実に基づいているとは言え、都合良く改変された通俗的な作り方で高級品とは言いかね、邦題と良い勝負かもしれない。

処女作が出版社から断られた失意のゲーテ23歳(アレクサンダー・フェーリング)が父親の勧めに従ってヴェッツラーの裁判所で働くことになり、舞踏会で知り合ったシャルロッテ・ブッフ(ミリアム・シュタイン)と恋に落ちるが、彼女が家の事情で彼の上司である参事官ケストナー(モーリッツ・ブライブトライ)と婚約したことを知って絶望する。参事官と法律で禁止されている決闘事件を起した彼は拘留中に彼女との出来事を書き記し、最後に主人公が自殺する小説「若きウェルテルの悩み」(自殺するのは友人の自殺がヒント)を完成させ、彼女に送る。彼女がこれを出版社に持ち込んで出版すると好評を博し、彼は時代の寵児となる。

実際と大きく異なるのは彼女の婚約者ヨハン・ケストナーは彼の友人で、彼女と知り合った時は既に婚約中であり、ゲーテは決闘などなしに比較的淡々と同地を去っている(ケストナーの名前もヨハンから小説に合わせてアルベルトに変えられている)こと。この事実は自叙伝「詩と真実」に書いてある。従って、彼女が原稿を受け取って出版社に持って行くなどという展開は劇的だが些か安っぽい事実改変と言わざるを得ない。地元ドイツ人ならこの辺りはもっと知っていそうなもので、まるで日本の恋愛映画ファン用にお話をこしらえたような感さえある。

二人の恋模様は良い部分もあるものの案外淡泊な描写に推移、全体としてはうまくまとまっているが、「ウェルテル」に陶酔したゲーテ愛読者としてはがっかりさせられる。

比較的うまく再構築された三文小説ってなところで、ゲーテは草葉の蔭で泣いているじゃろ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年12月14日 06:13
『若きウェルテルの悩み』の純粋さと崇高さを理解できる人間は、昨今は少ないということで、一般人に合わせて俗っぽくなったということでありましょうかな(笑)
ゲーテの時代もかも・・・・・で、『ファウスト』を書いたのかな?
オカピー
2012年12月14日 21:11
ねこのひげさん、こんにちは。

若き僕とて「ウェルテル」の感傷的な部分に惹かれただけで、決して高いレベルで理解したわけではないと思いますが、もう何とか香り高くできんかったかなあ、と。
ゲーテ自身も「詩と真実」によれば、自殺ブームが起きたことなど感情的な部分で騒がれたことに当惑したようです。

偶然ですが、今日UPした「悪魔の美しさ」はファウストものです。有名な伝説なので、ゲーテのそれが原作とは言えませんが。

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