映画評「悪魔の美しさ」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1949年フランス映画 監督ルネ・クレール
ネタバレあり
ジェラール・フィリップの出演作品は殆ど観ている。鑑賞済みの映画もたまには観たいので、WOWOWによるフィリップ特集5本のうち一番の出来と思われる本作を選んでみた。
素材はゲーテなど色々な作家が取り上げているファウスト伝説に基づくものだが、共同脚本と監督を担当したルネ・クレールらしく明解なように見え、実は両義的に解釈ができる作品である。いずれにしても、第二次大戦を経た世界を踏まえて作った印象が強く感じられる。
半世紀に渡って学芸に専念してきたファウスト博士(ミシェル・シモン)が悪魔メフィストフェレスに無条件で若さを吹き込まれて青春を謳歌、ジプシー娘(ニコール・ベナール)と昵懇になるが、行方をくらました博士殺しの汚名を着せられる窮地を老ファウスト姿のメフィストが救ってくれる。
フィリップ扮する若きファウストは錬金術を完成させて金も名誉も手に入れて行く為悪魔はこれではいかんと欲望を膨らませて魂を売る契約を交わすが、ファウストは鏡に見る自分の将来に嫌気がさして翻意する。老ファウスト姿の悪魔はジプシー娘を魔女に仕立てファウストの契約をちらつかせるが、どこまでもドジな悪魔氏は契約書を落とし、今や元凶が老ファウストと気付いた民衆に追い込まれて塔から飛び降りる。若き二人は仲良く旅立って行く。
ファウスト伝説と違って悲劇的なのは悪魔氏のほうで、ここに人間のしたたかさや怖さが表現されていると見ることができる一方で、愛に邁進する青春こそ悪魔を打破する素晴らしきものと解釈したり、或いは幸福を追求する人間の営みを揶揄した人間喜劇と受け取ることもできる。
一方、鏡が見せる未来には化学兵器・細菌兵器やヒトラーを想起させる映像や台詞があり、クレールらしい風刺が明確に現われている。
かと言って狙いがはっきりしない作品ではなく、最終的には人間が複雑な生き物であることを示した人間考察の一篇と言って良いと思う。
シモンはいつも通りのとぼけた演技で絶品だが、若きフィリップもそれに十分伍する好演。特に老人から若くなった瞬間の演技など見事なものである。
こちらの改変には、草葉の陰のゲーテも拍手を送っているじゃろ。
1949年フランス映画 監督ルネ・クレール
ネタバレあり
ジェラール・フィリップの出演作品は殆ど観ている。鑑賞済みの映画もたまには観たいので、WOWOWによるフィリップ特集5本のうち一番の出来と思われる本作を選んでみた。
素材はゲーテなど色々な作家が取り上げているファウスト伝説に基づくものだが、共同脚本と監督を担当したルネ・クレールらしく明解なように見え、実は両義的に解釈ができる作品である。いずれにしても、第二次大戦を経た世界を踏まえて作った印象が強く感じられる。
半世紀に渡って学芸に専念してきたファウスト博士(ミシェル・シモン)が悪魔メフィストフェレスに無条件で若さを吹き込まれて青春を謳歌、ジプシー娘(ニコール・ベナール)と昵懇になるが、行方をくらました博士殺しの汚名を着せられる窮地を老ファウスト姿のメフィストが救ってくれる。
フィリップ扮する若きファウストは錬金術を完成させて金も名誉も手に入れて行く為悪魔はこれではいかんと欲望を膨らませて魂を売る契約を交わすが、ファウストは鏡に見る自分の将来に嫌気がさして翻意する。老ファウスト姿の悪魔はジプシー娘を魔女に仕立てファウストの契約をちらつかせるが、どこまでもドジな悪魔氏は契約書を落とし、今や元凶が老ファウストと気付いた民衆に追い込まれて塔から飛び降りる。若き二人は仲良く旅立って行く。
ファウスト伝説と違って悲劇的なのは悪魔氏のほうで、ここに人間のしたたかさや怖さが表現されていると見ることができる一方で、愛に邁進する青春こそ悪魔を打破する素晴らしきものと解釈したり、或いは幸福を追求する人間の営みを揶揄した人間喜劇と受け取ることもできる。
一方、鏡が見せる未来には化学兵器・細菌兵器やヒトラーを想起させる映像や台詞があり、クレールらしい風刺が明確に現われている。
かと言って狙いがはっきりしない作品ではなく、最終的には人間が複雑な生き物であることを示した人間考察の一篇と言って良いと思う。
シモンはいつも通りのとぼけた演技で絶品だが、若きフィリップもそれに十分伍する好演。特に老人から若くなった瞬間の演技など見事なものである。
こちらの改変には、草葉の陰のゲーテも拍手を送っているじゃろ。
この記事へのコメント
映画だけでなく、漫画や小説でも。
人間は、悪というのにも魅力を感じるようで。
これは、はるか昔・・・・モノクロ映画祭かなにかで観ましたな~
さいきんは、ああいったもようしは、少なくなりましたね。
ジェラール・フィリップの映画は割合よくTVに出たので殆ど見ていましたが、本作は20年ほど前なかなか出て来ないのに業を煮やして、高い金を出してLDを買いました。当時は高画質が売りでしたが、今見るとひどいもので・・・。
で、今回はハイビジョン放映だったので早速鑑賞し、ブルーレイに保存しました^^
フィリップは元来好きな俳優で、クレールも好きな監督ですが、やはり面白かったなあ。
>モノクロ映画祭
ふーむ、フィルムセンターにでも期待するしかなさそうですね。
古いフランス映画は著作権・版権の関係かフィルムセンターは大量に持っております。