映画評「運命の子」

☆☆★(5点/10点満点中)
2010年中国映画 監督チェン・カイコー(陳凱歌)
ネタバレあり

3年ほど前一念発起して膨大な「史記」を和訳で読んでみた。その中の言わば小国・家系別に記した【世家】の中の挿話からベテラン陳凱歌(チェン・カイコー)がお話に仕立てたとのことだが、全く記憶にない。

紀元前7世紀春秋時代の中国、晋国で将軍屠岸賈(ワン・シュエチー)が謀略を計り、王暗殺を計ったかどで国の要職を占める趙氏を全滅させようとするが、王の妹・荘姫(ファン・ビンビン)から遺児を託された名医・程嬰(グォ・ヨウ)は自らの子を遺児として差し出す。かくして政敵を倒して実権を握った屠に対し、程は気の長い復讐計画を立てる。引き取った遺児を屠に義父として可愛がり鍛えて貰った末に真相を告白して、遺児(チャオ・ウェンハオ)に屠将軍を倒させるという計画である。

戦国時代と違って春秋時代は乱立していた小国内でのかような実権争いが激しかったらしく、前半の陰謀術数はそこそこ面白く見られるが、後半復讐譚に至るとまだるっこい上に些か無理が目立つ。いくら実父(趙朔)・養父(程嬰)の仇とは言え、遺児がそう簡単に可愛がってもらった屠将軍に刃を向けるとは思えないのである。
 実際映画の中でも多少ゴタゴタする。しかるに、結局大した葛藤もなくあっさり対決と相成る。この辺りは復讐譚らしくもう少し粘っこく描写して貰いたかったところで、肩すかしを食らう人も多かろう。

ずっと地道だったアクションも二人の対決ではかなり華美なものになり却ってがっかりさせられる。こういうクラシックな時代劇ではオーソドックスな殺陣がやはりふさわしいのではないか。

前作「花の生涯~~梅蘭芳~」(2008年)でやや調子を戻したと思った陳監督だが、今回はその前の神話ファンタジー「PROMISE」(2005年)よりややマシな程度で残念な出来と言うべし。

「史記」の無数と言えるくらいある挿話を全部記憶するのは無理でござるよ(言い訳)。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2012年12月16日 05:58
晋というのは、当時の中国を実効支配していた国ですね。周という国が、中国を統一していて、日本の天皇のような立場で、晋は幕府の立場・・・・その晋の家来であった趙、韓、魏が力を増して、晋という国は、やがて、三晋と呼ばれたこの三氏の国に分かれて消えてしまいます。

この映画は、その少し前の話ですね。親の仇である男に黙って耐えていたということでしょうけど・・・ちょっと下手でありますね。

宮城谷昌光さんの小説『孟夏の太陽』は、この超氏の何代にもわたる話で、こちらのほうがわかりやすいですな。
オカピー
2012年12月16日 21:53
ねこのひげさん、こんにちは。

周は所謂東周ですね。
なるほどそういう表現は解りやすい。
趙はこの作品の赤ん坊が殺されていたらできなかった国ということになりますね。
自分の氏を国名にした珍しい例かと思います。

>『孟夏の太陽』
そうですか。
僕は「史記」とかどうも難しいのから入っていくからいけないんだな(笑)。

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