映画評「Tommy トミー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1975年イギリス映画 監督ケン・ラッセル
ネタバレあり

レッド・ツェッペリン結成前1960年代半ば一番賑やかな音楽を演奏していたグループはザ・フーであろう(かのポール・マッカートニーがヘヴィメタルの元祖と一部で言われている「ヘルター・スケルター」を書いた理由を“フーのようににぎやかな楽曲を作りたかったから”と言っているくらい)が、そのフーが1969年に発表したロック・オペラ・アルバム「トミー」を6年後にケン・ラッセルが映画化した。

この映画を初めて観たティーンエイジャーの僕はまだアルバム「トミー」を聴いていなかった為純粋に音楽映画として楽しんだ記憶がある。

第2次大戦直後、幼い息子を抱えたノラ(アン=マーグレット)がフランク(オリヴァー・リード)と結ばれるが、死んだと思っていた前夫がある日突然復員したのに仰天したリードが彼を殺してしまい、二人から“見ざる・言わざる・聞かざるに徹しろ”と言われた息子トミーは精神的理由で盲目にして聾唖になる。
 心配した母親がマリリン・モンローを祀る新興宗教(教祖エリック・クラプトン)や、拷問器具を扱うアシッド・クイーン(ティナ・ターナー)の許に連れて行っても治らない。青年になったトミー(ロジャー・ダルトリー)がゴミ捨て場で遭遇したピンボールに天才的才能を発揮して評判になり、それがきっかけで三重苦を克服、継父は彼を教祖に奉る新興宗教を始めるが、やがてその偽善に気付いた人々に倒される。孤独と同時に自由を知ったトミーは新たな人生の旅に出る。

本作が放つメッセージは「ヒッチコックの言う“マクガフィン”みたいなもの」というallcinemaにおける某氏の指摘はさすがに行き過ぎではないかと思うが、一部が言うほど高級なものでもあるまい。
 30年前ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」を映像化した同名映画が発表された時、「ザ・ウォール」自体が「トミー」ほど上等なものではないとした、音楽にも詳しい映画批評家・川原晶子女史の発言には相当反発を覚えた。「ザ・ウォール」における育児と教育への批判に深みがあるかどうかはともかく、かの二枚組が奏でるメロディーの美しさに比肩するLPはロック史上殆ど見当たらず、二枚組では「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」の次によく聴いていたからである。

とにかく、今回もメッセージより、新興宗教を含んだその他の治療場面がケン・ラッセルらしい様式や色彩感覚で表現されていて大変興味深いし、大物ミュージシャンの登場も洋楽ファンの僕には相当嬉しいサーヴィスとなる。
 ハイライトは「トミー」で一番有名な「ピンボールの魔術師」を披露するエルトン・ジョンで、殆ど地のままでこなせるところがこの人らしい。この十数年後に再ブレークするティナ・ターナーもいかにも彼女らしい。逆にエリック・クラプトンの伝道師は余り精彩がなかった。

音楽関係者以外では、ジャック・ニコルスンの精神科医も面白く、後に「カッコーの巣の上で」に出演することを考えるとニヤニヤしたくなる。

アン=マーグレットとラッセルのお気に入りリードの二人は実力相応だが、アン=マーグレットは転落事故の後で実年齢34歳より容貌的に老けている感じがある。

ザ・フーのファンにおかれては、ロジャー・ダルトリーの歌声が暫く聴けないのでイライラするだろう。

今のところ、フーで一番好きなアルバムは「フーズ・ネクスト」。LPが聴けなくなったので昨年CDを買った。

この記事へのコメント

2012年12月27日 13:53
これ観に行ったのは映画といっしょにロックにも興味を持ち始めた頃だったので、ロックスターが観られるだけでうれしかったのを思い出します。ただし、オペラ仕立てになっていたせいか、ロックってクラシックに比べると音が薄いなと思ったりもして。ロックは、バンドがフツーに演奏してるだけのほうがかっこよく聞こえるんでしょうね。
映画の中では、アン・マーグレットがいちばん輝いていたような気がします。ティナ・ターナーもよかった。
オカピー
2012年12月27日 22:05
nesskoさん、こんにちは。

>バンドがフツーに演奏
そう思いますね。オペラはクラシックに任せれば宜し、でしょう(笑)。
この後作られた「サージェント・ペッパー」も豪華メンバーながら川原女史にさんざんけなされていた記憶があります。

>アン=マーグレット
とても良かったんですが、二十代の頃に比べてお顔が一気に老けた感じがしました。自己のせいと僕は当時から思っているんですが。

>ティナ・ターナー
僕は、アイク&ティナ・ターナーの頃の彼女が好きです。
ねこのひげ
2012年12月28日 06:23
ロックが大好きな仲間がいて観に行きましたよ。
エリック・クラプトン、ティナ・ターナー・・・よかったです。
サイケとかいう言葉はこのころからかな?
レコードは、擦り切れたり、傷がはいたりするのが心配なので、オープンリールを買って、聞いてました。

ビートルズが紙幣の顔になるという話があるそうですよ。
そこまで来たか~!?でありますな。
オカピー
2012年12月28日 21:31
ねこのひげさん、こんにちは。

>サイケ
日本にこの言葉が定着したのがいつかははっきりしませんが、レコードジャケットがサイケになったのはビートルズの「リボルバー」(1966年12月発売)辺りで、翌年のジミ・ヘンドリックスの「ボールド・アズ・ラブ」やクリームのアルバムもサイケですよね。
アルバム「トミー」発売の頃はまだ流行っていたと思いますが、もう後期というか晩年(笑)ですね。
寧ろ6年後に作られたこの映画の方がサイケでした。

>ビートルズ紙幣
イギリス文化と貿易における貢献度は無視できないから、ありえない話でもないですね。
是非実現してほしい^^

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