映画評「三等重役」
☆☆☆(6点/10点満点中)
1952年日本映画 監督・春原政久
ネタバレあり
少年時代、文庫本の最後に掲載されている既刊本のラインアップをよく見て作家の名前を覚えたのものである。当時多かったのは石坂洋次郎、石川達三といったところで、源氏鶏太の作品もずらりと並んでいた。名前だけはよく知っていたが、僕は推理小説を別にすると純文学志向だったからサラリーマン小説を書く源氏氏には振り向きもせず未だに一冊も読んでいない。
その源氏氏の同名小説を東映の春原(すのはら)政久が東宝に呼ばれて映画化したのが本作で、直接の続編の後社長シリーズとして40作を数えるシリーズになる。これを越えたのが「男はつらいよ」シリーズである。
1950年代初めGHQにより公職追放されていた先代社長の復帰が決まり、彼に代って社長を務めていた河村黎吉は慌てるが、結局先代が脳溢血で倒れた為に一安心。これがプロローグに相当する最初の一幕。
彼は、頭の上がらない細君・沢村貞子が社長の座にある間は作った高級着物を有効に使いたいと社員の結婚を奨励したり、旦那が賞与の一部をへそくりにするのを回避しようと徒党を組んだ細君側の提案通り、彼女たちに直接賞与を手渡すが、調子の良い人事課長・森繁久弥は予め給料の一部を残していることを社長に知らせる。これが言わば第二幕。1970年代辺りから給料は振り込み制になりこういうお話は成立しないので、若い人にはピンと来ないだろう。
第三幕は、東京出張所に行く彼の出張に同行する別会社の社長・進藤英太郎は、人事課長を連れて行くような野暮はせずに愛人の藤間紫を連れて来るが、用心深い細君の邪魔が入り、彼女を川村社長の後妻に仕立てて、全員が煩悶するというお笑い。
鍵を持っている所長・小野文春が常に遅刻する為社員たちがその間仕事ができないのを腹を立てた社長は、しかし、営業成績に満足、前妻に死別された彼に愛人・越路吹雪がいると知り、出張所を支店にして支店長に昇格させ再婚のお膳立てをしてあげるのが第四幕。
しかし、帰社後社長令嬢がさる令息と再婚することで社長の椅子が再び危なくなったと思ったところへ秘書の小林桂樹が仲人を頼みにやって来る。まだ少し社長として働けそうである。
というお話は、前中盤は一種ドタバタ調だが、終盤はヒューマン・コメディー風になってちょっと捨てがたい味が出てくる。源氏氏を読まなかったつけで知らなかった“三等重役”なる言葉や彼らの立場が知ることができたのは収穫であり、サラリーマンが現在のような環境に置かれる下地のできた時代の会社風景が面白く点出されていると思う。まだ高校一年生くらいの給仕がいるところは戦前と変わらないものの、経済成長と共に高校進学率が上がりこういう仕事もこの後すぐに消える筈である。
お話は連作短編集のようにテーマがシークエンスごとに変わっていくのだが、その間を上手く繋げるのが細君のアドバイスから始めた仲人をしたい願望という次第。
小心ながら善良な社長役を演じた河村黎吉と、要領の良い太鼓持ちを演じた森繁久弥が上手い。
作品の狙いは大分違うものの、小津安二郎監督の戦前の最高傑作「生まれてはみたけれど」(サイレント映画)を思い出している僕がいた。
僕が就職したのは高度経済成長が終った後で、やがて訪れるバブルの恩恵も才覚と人生経験の不足で享受できなかった。もう少し早く生まれていればなあ。
1952年日本映画 監督・春原政久
ネタバレあり
少年時代、文庫本の最後に掲載されている既刊本のラインアップをよく見て作家の名前を覚えたのものである。当時多かったのは石坂洋次郎、石川達三といったところで、源氏鶏太の作品もずらりと並んでいた。名前だけはよく知っていたが、僕は推理小説を別にすると純文学志向だったからサラリーマン小説を書く源氏氏には振り向きもせず未だに一冊も読んでいない。
その源氏氏の同名小説を東映の春原(すのはら)政久が東宝に呼ばれて映画化したのが本作で、直接の続編の後社長シリーズとして40作を数えるシリーズになる。これを越えたのが「男はつらいよ」シリーズである。
1950年代初めGHQにより公職追放されていた先代社長の復帰が決まり、彼に代って社長を務めていた河村黎吉は慌てるが、結局先代が脳溢血で倒れた為に一安心。これがプロローグに相当する最初の一幕。
彼は、頭の上がらない細君・沢村貞子が社長の座にある間は作った高級着物を有効に使いたいと社員の結婚を奨励したり、旦那が賞与の一部をへそくりにするのを回避しようと徒党を組んだ細君側の提案通り、彼女たちに直接賞与を手渡すが、調子の良い人事課長・森繁久弥は予め給料の一部を残していることを社長に知らせる。これが言わば第二幕。1970年代辺りから給料は振り込み制になりこういうお話は成立しないので、若い人にはピンと来ないだろう。
第三幕は、東京出張所に行く彼の出張に同行する別会社の社長・進藤英太郎は、人事課長を連れて行くような野暮はせずに愛人の藤間紫を連れて来るが、用心深い細君の邪魔が入り、彼女を川村社長の後妻に仕立てて、全員が煩悶するというお笑い。
鍵を持っている所長・小野文春が常に遅刻する為社員たちがその間仕事ができないのを腹を立てた社長は、しかし、営業成績に満足、前妻に死別された彼に愛人・越路吹雪がいると知り、出張所を支店にして支店長に昇格させ再婚のお膳立てをしてあげるのが第四幕。
しかし、帰社後社長令嬢がさる令息と再婚することで社長の椅子が再び危なくなったと思ったところへ秘書の小林桂樹が仲人を頼みにやって来る。まだ少し社長として働けそうである。
というお話は、前中盤は一種ドタバタ調だが、終盤はヒューマン・コメディー風になってちょっと捨てがたい味が出てくる。源氏氏を読まなかったつけで知らなかった“三等重役”なる言葉や彼らの立場が知ることができたのは収穫であり、サラリーマンが現在のような環境に置かれる下地のできた時代の会社風景が面白く点出されていると思う。まだ高校一年生くらいの給仕がいるところは戦前と変わらないものの、経済成長と共に高校進学率が上がりこういう仕事もこの後すぐに消える筈である。
お話は連作短編集のようにテーマがシークエンスごとに変わっていくのだが、その間を上手く繋げるのが細君のアドバイスから始めた仲人をしたい願望という次第。
小心ながら善良な社長役を演じた河村黎吉と、要領の良い太鼓持ちを演じた森繁久弥が上手い。
作品の狙いは大分違うものの、小津安二郎監督の戦前の最高傑作「生まれてはみたけれど」(サイレント映画)を思い出している僕がいた。
僕が就職したのは高度経済成長が終った後で、やがて訪れるバブルの恩恵も才覚と人生経験の不足で享受できなかった。もう少し早く生まれていればなあ。
この記事へのコメント
サラリーマンってこんなのか?と思ってましたが・・・現実は・・・
バブルの恩恵を受けたのは一部の人間で、被害を受けたのは大勢でありますな~
絶対に長く続くわけないと思っていたら案の定でありました。
>源氏鶏太
うちの新聞にもあったような気もしますが、はっきりとは記憶なしであります。
>バブル
当時は未来に不安がなく、定期預金・貯金すらしていませんでした。
しかし、平均株価が4万円近くなったことを考えると、寮時代に貯め込んだ金をつぎ込めば相当儲かったなあ、などと今となると思います。