映画評「ミッション:8ミニッツ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督ダンカン・ジョーンズ
ネタバレあり

デビュー作「月に囚われた男」で注目されたダンカン・ジョーンズの第2作もSF映画であるが、見た目は(アメリカ映画だけに)アメリカナイズされて十分な派手さがあるので、一般的にはこちらのほうが受けるかもしれない。

考えてみればタイム・トリップも物理学の範疇なのであるが、通常の映画ファンはH・G・ウェルズの解りやすいそれをベースに見て、単純なタイム・パラドックスがどうのこうの茶々を入れたりするに留まる。しかるに、本作は物理学に精通していないと本作が明らかに抱えているパラドックスを正確に指摘することはできまいと思う。
 と書いてきたものの、本作はタイム・トリップそのものではなく、それに類する作品である。

ある列車の中で目を覚ました大尉ジェイク・ギレンホールが、見知らぬ女性ミシェル・モナハンから親しく声を掛けられた直後列車は爆破する。
 その後彼は全く別の暗黒の世界で蘇り、モニターを通して女性大尉ヴェラ・ファーミガと科学者ジェフリー・ライトから彼の立場を説明される。主人公が列車の中で目覚める人物はミシェルの知り合いである教師で、人間が死んだ後その8分前まで記憶が暫く保たれる脳の特性を生かして、既に死んだこの教師の脳に入ってその人物として行動、次にシカゴで起こすと犯人から予告されている大爆破を阻止すべく8分の間に列車爆破と同一の犯人を突き止める作戦を強要される。
 大尉自身も植物状態(「ジョニーは戦場へ行った」(1971年)の主人公に近い状態)いうことがやがて判明、彼の脳がコンピューターを介してこの実験施設や、列車の世界と繋がっているわけで、何度も列車へ飛ばされる度に情報を蓄積、遂には犯人を突き止める。

過去を何度も変える度に別の不幸が起こる「バタフライ・エフェクト」(2004年)のヴァリエーションと言えないことはないものの、本作は観客の疑問に予め答えるかのように、主人公は死人の脳へ這入っているのであってタイム・トリップをしているわけではないこと、変えるのは過去ではなく未来であること、と量子力学の観点から説明している。いずれにしても、完全文系の僕にはチンプンカンプンである。

見た目はタイム・トリップものや仮想現実ものの合体のような感じではあるし、前半は少しだけ違って実質的に同じことを何度も繰り返すのが面白くもありつまらなくもあるのだが、興味をそそるには十分な着想ではある。爆破で死んだ人間の脳は木端微塵になっていくら何でも機能しないだろうといった具合に疑問百出でありながら観ている間は上手く誤魔化され、楽しんでしまうに違いない。

終盤は正確には解らないのだが、どうもこの脳内プログラムはいつの間にかパラレル・ワールドに変化しているようで、最後はこの爆破事件さえ起きていない世界になっている。同時にこれは、未来が過去を変える可能性があるというそれまでの着想と逆の立場を取っていると理解できないこともない。ジョーンズさん、どうですか、その辺り?

久しぶりにデーヴィッド・ボウイーのCDでも買おうかなあ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年01月08日 06:33
子供が、芸能界の別の分野で活躍するという好例でありますね。
日本でも、俳優やお笑い芸人の子供が音楽部門で活躍したりしてますからね。
同じ土俵ではやりにくいというのもあるのでしょうが・・・・

この映画は、ひさしぶりにDVDで買ってなんども見たくなりました。
1本目の『月に囚われた男』もDVDを買いました。
次を期待させる監督でありますね。
オカピー
2013年01月08日 17:43
ねこのひげさん、こんにちは。

ジョン・レノンの息子ジュリアンもデビュー作はもの凄く話題になり、実際音楽的にも晩年の父親に似てなかなか優れたものでしたが、結局後が続きませんでした。
小野洋子との息子ショーンは俳優でデビューした音楽を腰を据えてやっていますが、日本のCMに出ている程度で、かなり地味(笑)。様子は父親に似てきました。
ポール・マッカートニーの娘ステラは、父親に良く似ていますが、音楽とは無縁で、ファッション界でちょっとしたブランドになっています。

デーヴィッド・ボウイも余りにも巨星なので、音楽ではやりにくいでしょうね。

>DVD
色々とチェックのし甲斐がありそうな映画でしたね。
個人的には『月に囚われた男』のほうが本格SF的かつ英国的で、好みでしたが。
このままSFに拘っていくのでしょうか?

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