映画評「スーパー・チューズデー 正義を売った日」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督ジョージ・クルーニー
ネタバレあり

僕が日本の民主党に期待したのは長く二大政党体制が続けば多少は我が国の官僚に為されるがままの情けない政治家が少しマシになるのではないかということだったのだが、民主党の余りにだらしない政治運営のせいで国民の期待は泡と消えた。我が国に二大政党体制はどうも定着しそうにない。

その点アメリカでは二大政党体制が安定的に長く続き、日本に比べると比較的バランスが取れて政治が行なわれて来たと傍目には思われる。
 アメリカで大統領になるには、まず本戦のある年の前半に行なわれる共和党、民主党それぞれの大統領候補を決める予備選を勝ち抜く必要がある。スーパー・チューズデーとは、大統領予備選で一番重要な日と言われている三月の火曜日に行なわれる選挙のことで、国民全体が一斉に投票する代わりに彼らに託された代議員が投票して勝敗を決める。

そうした大統領制下の仕組みが議院内閣制の国に生まれ育った日本人には解りにくい為アメリカの政治映画は長らく日本に輸入されることはなかったが、昨今はアメリカ政治のマスメディアによる紹介が多くなったからか、有名監督が作るか若しくは有名出演者が出ていれば劇場公開されるようになってきた。

さて、本作では、民主党候補の一人ペンシルヴェニア州知事ジョージ・クルーニーが、長く信頼を置いてきた参謀フィリップ・シーモア・ホフマンと若い広報官ライアン・ゴスリングに支えられて奮闘中だが、ゴスリングが彼を引き抜きたいライバル陣営のポール・ジアマッティと接触を持ったこと、並行して民主党大物議員の娘でインターンのエヴァン・レイチェル・ウッドと懇ろになったこと、この二つが絡み合ったことでクルーニー陣営の体制がガタガタになる。
 ゴスリングの若さが出て候補ではなく参謀に引き抜き面会の件を漏らしたことが破綻の始まりで、彼は参謀により首になり、敵陣営も寝返りをする男は信用できないから雇えないと断る。したたかなジアマッティにしてみれば、若き才能がとにかく相手陣営からいなくなることが肝要だったのである。
 ところが、彼がエヴァンと同衾している最中に彼女が候補と関係を持ち堕胎の為の費用が必要であると知り、これを利用して候補にこの話を持って行き、逆に参謀を追い出す。結局候補も断固拒否していた議員ジェフリー・ライトの重職(最終的に副大統領)起用を承知せざるを得なくなる。その代わり予備選の勝利を大きく近づける。

悲劇的なのは弱冠二十歳のエヴァン嬢である。相談相手だったゴスリングが干された為に挽回策としてスキャンダルを持ち出すのが見えて絶望的になった彼女は死を即決してしまうのだ。候補の発作的欲望が彼の政治における清廉さを奪い、若い女性の命を奪う。彼自身は自業自得とは言え、それを媒介するのが選挙のパワー・ゲームである。最終的にはこういう交渉は必要悪なのであろうが、とは言え、国民の多数意見が反映されにくい日本の小選挙区制同様、純粋に政策等により勝敗が決まらない選挙システムに疑問を覚える次第。

狙いは風刺より政治パワー・ゲームのサスペンスで、アメリカの選挙の仕組みを知っていた方が楽しめるにちがいないが、本作を通して選挙の仕組みが見えてくるように思うので、知らなくても全く問題なく楽しめる。コンパクトに作られているので構図が解りやすいのだ。

大統領選関係者だったボー・ウィリモンの戯曲をクルーニーが自ら映像化して、なかなか快調。

本年最初の鑑賞作品。昨年前半に観なかったので、証文の出し遅れになってしまった。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年01月09日 04:51
ジョージ・クルニーは監督としても、なかなかのものでありますな~

コーエン兄弟の『オーッ・ブラザー!』も気に入っております。

しかし、1年前に劇場で観た映画をテレビで・・・というのは複雑な心境で、ありがたいような損したような・・・・?
観れなかった作品をやってくれるときは、ありがたいと感謝。身勝手なんですけどね。
オカピー
2013年01月09日 22:14
ねこのひげさん、こんにちは。

>監督としても
今までの作品は皆好きです。
イーストウッド、レッドフォード、メル・ギブスンに続く才能になりそうですね。

>1年前に
すみません。僕はほぼそちらに頼っているもので・・・^^;
一応お金も払っているので、映画会社としてはお金が入ればどちらでも良いんでしょうね。
ビデオが普及し始めた時、映画会社はパニックになったのですが、映画によってはこちらのほうが儲かるということが解り、積極的に進める方向に転換したなんてことがありました。

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