映画評「ガルシアの首」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1974年アメリカ映画 監督サム・ペキンパー
ネタバレあり

サム・ペキンパーの作品の中では初見印象が良かった作品である。

娘が孕んだことを知って怒り狂ったメキシコの大地主エミリオ・フェルナンデスが孕ませた男を、生死問わず、連れて来た者に100万ドルを出すと宣告する。下請けで引き受けることになった場末酒場のピアノ弾きウォーレン・オーツは、腐れ縁の愛人イセラ・ベガによりガルシアという名前のその男が交通事故死したことを知らされ、二人で彼の墓のある村まで車で繰り出す。が、こっそり掘ろうとした矢先に何者かに強打されて昏倒、ガルシアの首を奪われただけでなくイセラを殺されてしまう。

という前半は二人のピクニック気分の道中をのんびりと展開しているだけなので、人によっては特にアンチ・ペキンパーの人は全く退屈させられてしまうにちがいない。しかるに、お話の始まりから判断して男女の愛情が通奏低音であると感じて呑気を決め込めば、それなりに楽しめる。

さて後半、愛する人を失ったオーツはお金目的から復讐へと思いが変り、首を奪い返すと、その為に十数名の命を犠牲にする馬鹿げた指図を出した地主の屋敷へ乗り込む。

のんびりした前半とは対照的に後半はペキンパー節が炸裂する。と言っても「ワイルド・バンチ」(1969年)のような大爆発ではなく、小爆発が断続的に繰り返され、最後に中爆発するといった感じ。それぞれ短いリアル・スピードのショットとスローモーション(ハイスピード撮影)のショットをサンドウィッチするのはペキンパー独自の手法で、同じことの繰り返しと言えばそれまでだが、尺稼ぎや誤魔化しの為スローを使う輩とは一線を画す魅力の所以となっている。スローが嫌いな僕でもこの点は素直に認めるしかないのだ。

最初観た時大学生だった僕は腐り始めて蝿がたかってくる首を抱えて右往左往するオーツの様子が可笑しかったが、今観ると本作の姉妹編のような感じがしないでもないコーエン兄弟の「ノーカントリー」などに比べると、意外と直情的で辛気臭い。
 それでも、昔僕が受けた好印象は必ずしも間違っていなかったようで、ペキンパー作品の中でも人気が高いらしい。

オーツに魅力を感じないと得点が増えない、つまり、オーツの首にかかっている作品でもあります。

この記事へのコメント

2013年02月21日 17:11
私もペキンパーの作品ではこれが一番好きかもしれない。
70年代頃ですが、ちょうど自分が洋画に興味を持って洋画雑誌を読んでテレビの放映を必死で見ていた頃ですが、ペキンパーは非常に人気が高かったですね。わりとマニアックなオジサン評論家が好きだ好きだと言っていた。だから、ああこれがあのペキンパーの映画か、みたいなかんじで見ていました。その中では「ガルシアの首」が、題名と、主演のウォーレン・オーツと、メキシコの田舎の風景とで、すっと物語そのものを楽しめた記憶があります。たぶん、このくらいの規模の映画がしっくりくる監督なのだろうと自分では思っています。
一時期はちょっとほめられすぎていたのではないでしょうか? 独特の暴力描写が魅力になるのはわかるのですけれどもね。
オカピー
2013年02月21日 21:57
nesskoさん、こんにちは。

ペキンパーはそんなに好きではなかったので、映画館ではそれほど観ていません。
確かに“ほめられすぎていた”感があり、僕がこの作品辺りで早くも限界を感じたように、案の定最後の方は凡打の山でした。
本作はペキンパーが自分で脚本(共同)で書いていますし、多分納得しつつ作ったと思います。ペキンパーのピークはこの頃までしょう。
2013年02月21日 23:09
>確かに“ほめられすぎていた”感があり、

オカピーさんにそう言ってもらえると安心してしまいますね。
あの暴力描写もリアリズムというより、演歌っぽい情緒的な表現に見えるし、でもだから一部の男の人にはいい気持ちで酔えるのかあ、などと思って見てました。
モンティパイソンがあのスローモーションをパロディにして遊んでいましたけれど、逆に言えばそれくらい流行ったんですよね、ペキンパーって。
ねこのひげ
2013年02月22日 03:23
『ガルシアの首』もいいですが、ねこのひげは『砂漠の流れ者』が好きでしたね。
スローモーションの美では『ワイルド・パンチ』でしょうけど・・・

ペキンパーそのものが、かなり暴力的な人だったみたいで、よく癇癪を起してはトラぶっていたみたいです。

ペキンパー、まさにこのころまでですね。
後の作品は、つまらなくなります。
『キラーエリート』なんてガッカリでしたが、リメイクされるみたいです。
オカピー
2013年02月22日 17:56
nesskoさん、こんにちは。

>演歌っぽい情緒的
正にそんな感じ。
演歌ではないけれど、「酒と涙と男と女」って感じですかね^^
オカピー
2013年02月22日 18:05
ねこのひげさん、こんにちは。

>『砂漠の流れ者』
これ、僕みたいにペキンパーがそれほど好きではない人にも結構受けた作品ですね。
ご贔屓のジェースン・ロバーズが主演で、また、良い味を出している。
この作品の題名から、配給会社のケーブルホーグは採られたんですよね。

マックィーン主演の「ジュニア・ボナー」は、マニアより、古い西部劇ファンに受けた作品。先年のマックィーン特集でも洩れたからどこかでやってくれないかな。

>『キラーエリート』
ガッカリの極みですが、これをリメイクするようでは、世も末(笑)。

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