映画評「ヒミズ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・園子温
ネタバレあり

詩人でもあった映画監督と言えばピエル・パオロ・パゾリーニが有名だが、園子温はパゾリーニにも負けない個性派監督である。4時間近い長さで話題になった「愛のむきだし」すら観ていない不勉強の僕には本作が「紀子の食卓」と「エクステ」に続くやっと三本目の園作品の鑑賞に当たる。

正確な情報を映画が告知していないので良く解らないが、舞台となる場所は3・11被災地に程近いどこかなのであろう。
 ボート小屋を残して母親に出て行かれた中学生の染谷将太君は、600万円の借金を背負い久しぶりに現われた父親・光石研に「死んだくれたほうが有難い」と言われ憎しみを込められた暴力を受ける。普段から変わった言動の多い彼には二階堂ふみという強烈なファンがいる。彼の家の近くに立てたテントに仮住まいしている5人の被災者たちが風変わりの彼にも素直に接して親しくしてくれる。
 貸主のヤクザが現われて染谷君に父親の借金について告げるが、絶望地獄にいる彼はヤクザにも怖がらず立ち向かっていく。被災者の元社長・渡辺哲がチンピラ窪塚洋介を手伝って600万円を手に入れ借金を返済してくれるも、絶望の最中にいる少年にはその優しさがどこか鬱陶しい。母親が残した貸しボート屋を手伝ってくれるふみ嬢も誠に鬱陶しい。
 が、遂に父親を殺してしまい埋めた後死んでも良い体を世直しに生かそうと町を彷徨する。やがて、少年の心理をずばり読んでいた少女の語る夢に少年の絶望が融解、自首する決意をする。

最初教師が「死んで良い命はない。皆特別な花なのだ」と希望を説くが、映画は正に180度逆のことを延々と描く。二人の両親、チンピラ、ヤクザは死んでも良い人間のように描かれる。「普通万歳!」と叫ぶ少年の周りにはもはや普通の日常はない。教師の言う“特別”とは真逆の意味で少年たちは普通ではなくなっている。
 しかるに、絶望に次ぐ絶望というトンネルをくぐり抜ける(途中描写される幾つかの事件は少年の幻想だろう)うちに彼は他人(ひと)の優しさが受け入れられるようになり、遂に希望を見出す。

その希望への入り口が自首というのが誠に強烈であるが、とにかく自首する為に走り続ける二人を戦前の清水宏監督もびっくりのトラックバックで延々と捉える。そこには二人の若い俳優の演技を越えた本当の希望への叫びがあり、知らず感動を呼び起こされる。全体の4分の3くらいあるであろう暴力による作品への嫌悪感が見事に吹き飛ぶ幕切れである。

この終盤から幕切れを見るうち、恐らく原案(古谷実による原作コミックあり)では絶望に終わるものが――3・11を受けて世間に安易に迎合しようとしたわけでもないのだろうが――希望に向かう幕切れに変えられたのではないかという勘が働いた。よそ様のブログなどを当たると正にその通りらしい(えっへん)。その為に園監督はドラマツルギー的には必要のない被災地のドキュメント部分をかなりの分量で上映時間に割り当て随時挿入したのである。

アクの強さから言って現在韓国ノワールに太刀打ちできる日本の映画作家は園監督くらいだろうか?

10年前に僕は日本人のうち3000万人くらいは(他人に迷惑をかける為)死んでもよいと言って、対話相手の女性から過激と言われましたっけ。

この記事へのコメント

2013年02月04日 19:44
原作のマンガは未読ですが、オカピーさんの推察どおり、この映画とは結末がちがっているそうですね。映画はあの大震災の後ということもありますが、15歳の少年少女のおはなしとしては、この映画の、希望を感じさせる終わり方のほうがよかったのではないかと私も思いました。もっとも、ほんとうに屈折した中学生だったりしたら、とことん絶望的なほうが逆になぐさめられたかもしれない。
この監督さんの映画ですが、私個人の印象としてですが、一見クセが強い割にはしつこくないので、見た後いやな後味が尾を引かないところがあって、なんでなんだろうとちょっと不思議ですね。
オカピー
2013年02月04日 21:52
nesskoさん、こんにちは。

僕(ら)は能天気な中学生でしたから、絶望なんて縁がありませんでしたが、現在の中学生は社会も変わって概してもっと複雑なんでしょうねえ。

>いやな後味を引かない
三本しか観ていないので正確には解りませんが、園監督のタッチが妥協していないからでしょう。暴力描写には甘さがない。最後の走る場面は演技を超えた描写をしているように見える。最初に出てくる教師のような「一人一人違う花」などといった、自己満足的な偽善的な表現をしていないからではないでしょうか?
ねこのひげ
2013年02月05日 06:20
殴っているところなど、本当に殴っているんではないかと思わせて、日本の映画にしては迫力ありました。
絶望で終わらせるか?希望をもたせるか?は結論の出ないところでしょうね。
「一人ひとり違う花」・・・・・スマップの『世界に一つだけの花』みたいで、なにを言ってんだ!でありました。
『夢は必ず叶う』という言葉もありますが、実際はほとんどの人が叶わないわけで、そういう人間を見ると『綺麗ごとを言うな!』といつも思ってしまいます。

どんな漫画かと思って検索してみましたが、この絵柄はねこのひげはダメですね。
読む気しないです。
オカピー
2013年02月05日 22:10
ねこのひげさん、こんにちは。

世の中が悪い時は、下手くそな手法で希望を表現されても逆効果ですし、かと言って絶望をあおり続けるのも問題です。
いずれにしても、中途半端は作品価値を下げるでしょうね。

>どんな漫画か
個性も大事ですが、昔のコミックの絵柄の方が僕は好みです。コミックはもう何年も読んでいないので余り関係ないですが^^;
逆張り王子
2013年02月23日 22:35
いやこれはいい映画です
「ハッピーバースデー生命かがやく瞬間」の数千倍生きることの意味を教えてくれます。
オカピー
2013年02月24日 20:08
逆張り王子さん、初めまして。

コメント有難うございました。
絶望から希望を浮き彫りにする手法を効いていましたね。

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