映画評「現金に体を張れ」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1956年アメリカ映画 監督スタンリー・キューブリック
ネタバレあり

クエンティン・タランティーノの出世作「レザボアドッグス」(1991年)を観た時本作から拝借したなと思い、「パルプ・フィクション」(1994年)を観た時そこに「羅生門」(1950年)のアイデアを加えたなとニヤッとした。
 そこまでは良かったのだが、「パルプ・フィクション」が世紀の傑作扱いされ始めたのは気に入らなかった。他人のアイデアを寄せ集めてオリジナリティーを生み出すのは全ての芸術・文化に当てはまるからそれ自体は一向に構わないのであるが、「パルプ」は本当にそこまでの傑作だろうか? とりあえず同作に関しては後日(いつになるかな・・・笑)再鑑賞した時に分析してみましょう。そもそも本作を久しぶりに再鑑賞したのも“いつか読書する日“、もとい、いつか「パルプ」を再批評する日の為の準備なのでござる。現時点では、タイトな「レザボア」の方を買っている。

前置きが長くなりましたが・・・。

出所したばかりのスターリング・ヘイドンが、競馬場の関係者や警察官などを仲間に引き込んで、競馬場のお金を頂戴してしまおうと計画する。

というライオネル・ホワイトの犯罪小説をストレートに扱わず、捻りを加えて展開させたのがスタンリー・キューブリックのお手柄。即ち、時系列を操作したこと、中でも競馬のスタートを目安にして同じ時間帯の行動を担当者別に分けて描写するという、当時としては画期的にして驚異的と言って良いアイデアがそれである。
 「パルプ」以降このアイデアは種々に応用されて色々なヴァリエーションが派生していくことになるが、オリジナリティーから言えば、当然キューブリックの方にタランティーノより分がある。ただ、その部分の描写は完全には整理されていない為少々解りにくいところが出て、長蛇を逸した感がなきにしもあらず。

描写自体は、それ以上に終盤計画を知った若者二人が横取りしようと襲撃するシークエンスや、犯罪映画によくある努力水泡型の幕切れにおける断裁的な処理が鮮やかで圧巻。「地下室のメロディー」(1963年)の幕切れも案外本作の影響下にあるかもしれない。

ドル箱スターは一人も出ていないが、競馬場関係者の小男イライシャ・クック・ジュニアとその婀娜っぽい女房メアリー・ウィンザーが出色で、その他の顔触れも捨てがたい配役。

現金は“げんなま”と読むんでっせ。本作邦題に影響を与えたであろう「現金に手を出すな」も名作でしたな。

この記事へのコメント

十瑠
2013年03月10日 15:38
6年前にコメントをいただいていた作品ですね。
今だに「パルプ・・」は再見してないですが、タランティーノの最新作は割りと評判いいですね。少しは成長したのかな?

ドル箱スターはいないですが、5年後にスターになる人が悪役でいましたね。TV界のスターですが。
オカピー
2013年03月10日 21:37
十瑠さん、こんにちは。

いやあ、すっかり忘れておりましたが、述べていることはこの本文と殆ど同じですね。6年くらいではやはりそうそう変わらないようです。

>5年後にスター
ヴィンセント・エドワーズ!
「ベン・ケーシー」以外では戦争映画の出演が目立った方ですね。
ねこのひげ
2013年03月11日 04:45
タランティーノは映画オタクで、彼の映画は過去の映画のオマージュで出来上がっていると言っても過言ではありませんな~

『現金に手を出すな』と『現金に体を張れ』をよく間違えるのが困ったもんです。
オカピー
2013年03月11日 21:03
ねこのひげさん、こんにちは。

>映画オタク
間違いなくそうで、初期では気付く人は気付くといった程度だったのが、「キル・ビル」など昨今は遠慮なく拝借を見せていますね。

題名を混同する映画がありますね。
同じ題名で、全く別素材の映画にも困ってしまいますTT
一時クイズにしようと思ったくらい、これが結構あるんですよ。

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