映画評「裏切りのサーカス」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年イギリス=フランス=ドイツ合作映画 監督トーマス・アルフレッドソン
ネタバレあり
映画「寒い国から帰ったスパイ」(1965年)以降日本でもよく知られるようになったスパイ小説作家ジョン・ル・カレは近年に至って益々人気者になり、コンスタントに映画化されている。
などと言って未だに一作も読んでいない無精者でありますが、本作は1974年に発表された「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」を「ぼくのエリ 200歳の少女」で一躍有名になったトーマス・アルフレッドソンが映画化したスパイ映画である。
鑑賞した時のコンディションが悪かった。どうも温度差アレルギーによる鼻炎で集中し切れず、そうでもなくても回想が随時挿入され、色々な人物が入れ替わり立ち替わり登場する複雑な構成なので、時々解らなくなったが、理解でき思い出せる範囲でアウトラインを書いておく。
MI6に“サーカス”というグループがあり、“コントロール”と呼ばれるジョン・ハートが部下のマーク・ストロングを使って亡命を希望するハンガリーの将軍に援助の手をさしのべようとして失敗、瀕死の重傷を負ったストロングはソ連に捕えられて拷問に遭う。
この事件により“サーカス”内部にソ連と内通している二重スパイがいることが明確になって来て全員が疑心暗鬼になるが、次官によって既に引退させられていたゲイリー・オールドマンが関係者に当たり、今は亡き“コントロール”の言う“もぐら”即ち二重スパイを突き止め、処理をする。
固有名詞特に女性名がよく解らなくて理解に難儀した。例えば、女性名“カーラ”は個人名ではなくKGBそのものを指すのではないか、個人名であっても女性とは限らないという気がしているのだが、どちらにしても自信がない、といった具合。どうももやもやするので、本作は時間が出来たら近いうちにも再鑑賞予定ということを予告しておいて、閑話休題。
半ば良い意味で不親切な映画である。昨今の日本映画みたいにくどく映像で描写した上でなおかつ台詞で説明するなんて、解る人にとってはまだるっこくて有難迷惑な作りとは全く正反対だが、多分冴えた頭で見れば恐らくちゃんと解るように作られている筈である。
お話の図式やテーマはグレアム・グリーンのスパイ小説を映画化したオットー・プレミンジャーの遺作「ヒューマン・ファクター」(1979年)と似ていて、複雑な展開のうちに冷戦末期のスパイの悲哀が浮かび上がって来る。
撮影監督は「エリ」のホイテ・ヴァン・ホイテマ(日本なら吉田吉男みたいな名前ですかな)で、構図と空気感醸成を強く意識したカメラワークを披露、厳しいムードでの展開を目指したと推測されるアルフレッドソン監督と良いコンビネーションを見せている。
演技陣は現状ではベストに近い布陣で、特にオールドマンが冷静な、言わば無表情の表情というものを作り出して近年にない好演。
といった次第で、採点は暫定ながら、多分再鑑賞しても変わらないでしょう。
久しぶりに映画のタイトルらしい邦題にゴキゲン。
2011年イギリス=フランス=ドイツ合作映画 監督トーマス・アルフレッドソン
ネタバレあり
映画「寒い国から帰ったスパイ」(1965年)以降日本でもよく知られるようになったスパイ小説作家ジョン・ル・カレは近年に至って益々人気者になり、コンスタントに映画化されている。
などと言って未だに一作も読んでいない無精者でありますが、本作は1974年に発表された「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」を「ぼくのエリ 200歳の少女」で一躍有名になったトーマス・アルフレッドソンが映画化したスパイ映画である。
鑑賞した時のコンディションが悪かった。どうも温度差アレルギーによる鼻炎で集中し切れず、そうでもなくても回想が随時挿入され、色々な人物が入れ替わり立ち替わり登場する複雑な構成なので、時々解らなくなったが、理解でき思い出せる範囲でアウトラインを書いておく。
MI6に“サーカス”というグループがあり、“コントロール”と呼ばれるジョン・ハートが部下のマーク・ストロングを使って亡命を希望するハンガリーの将軍に援助の手をさしのべようとして失敗、瀕死の重傷を負ったストロングはソ連に捕えられて拷問に遭う。
この事件により“サーカス”内部にソ連と内通している二重スパイがいることが明確になって来て全員が疑心暗鬼になるが、次官によって既に引退させられていたゲイリー・オールドマンが関係者に当たり、今は亡き“コントロール”の言う“もぐら”即ち二重スパイを突き止め、処理をする。
固有名詞特に女性名がよく解らなくて理解に難儀した。例えば、女性名“カーラ”は個人名ではなくKGBそのものを指すのではないか、個人名であっても女性とは限らないという気がしているのだが、どちらにしても自信がない、といった具合。どうももやもやするので、本作は時間が出来たら近いうちにも再鑑賞予定ということを予告しておいて、閑話休題。
半ば良い意味で不親切な映画である。昨今の日本映画みたいにくどく映像で描写した上でなおかつ台詞で説明するなんて、解る人にとってはまだるっこくて有難迷惑な作りとは全く正反対だが、多分冴えた頭で見れば恐らくちゃんと解るように作られている筈である。
お話の図式やテーマはグレアム・グリーンのスパイ小説を映画化したオットー・プレミンジャーの遺作「ヒューマン・ファクター」(1979年)と似ていて、複雑な展開のうちに冷戦末期のスパイの悲哀が浮かび上がって来る。
撮影監督は「エリ」のホイテ・ヴァン・ホイテマ(日本なら吉田吉男みたいな名前ですかな)で、構図と空気感醸成を強く意識したカメラワークを披露、厳しいムードでの展開を目指したと推測されるアルフレッドソン監督と良いコンビネーションを見せている。
演技陣は現状ではベストに近い布陣で、特にオールドマンが冷静な、言わば無表情の表情というものを作り出して近年にない好演。
といった次第で、採点は暫定ながら、多分再鑑賞しても変わらないでしょう。
久しぶりに映画のタイトルらしい邦題にゴキゲン。
この記事へのコメント
はい、
コンディションおよろしくない時の鑑賞には
最不適格な映画ではございますね~^^;
ル・カレのこの原作と「寒い国~スパイ」は
kindle化されておりましたので早速購入。
紙本でも読みましたが、今度は電子本にて
じっくり楽しませていただくこのシアワセ。
改めて当方との兼ね合いから申しますれば
完全にあっち向いてる(笑)真逆の感想もあれば、
こと今回のように観点指摘点ことごとく嬉しき一致に
先ほどから狂喜乱舞の体で猫も膝から飛び逃げる按配。^^
ほんとうに久々の「快作」でございました。
アウトラインは大体解ったつもりですがねえ。
将軍亡命援助自体が既に二重スパイ捜査の一環だったのかもしれないなあと思ったりもして、いずれにしても二重スパイの存在が失敗により確認されたのは確かかと。
原作を読むとわかりますか?(笑)
昨年暮れに山の図書館に見切りをつけ、町の図書館に通うようになり古いものだけでも後10年くらいは十分読めそうな蔵書に感激したわけですが、そこでも読めないのはさらに遠い県立図書館まで行けば何とかなると、先週カードを作ってきました。
これで買わずともル・カレが何冊も読めるようになりましたので、年内に一冊くらいは読んでみましょう(笑)。
もう少し内容について掘り下げて書こうと重いましたが、鑑賞時のコンディションがそれを許さず、どちらかと言えばムードと俳優とを楽しむ映画だったと思います。
音楽の使い方も面白かったですが、数分おきに起きる鼻水だらりとくしゃみでそこまで楽しむ余裕はなかったです。
いずれにしても、vivajijiさんと同じく(但し録画で)もう一回見てみますね。余程の発見でもない限り、改めて文章は起こさないと思いますが・・・。
最近、人気が出て毒気の抜けた役が多かったんですが、これはよろしかったです。
何度も観て、じっくり観察しないとよくわからん映画というのもひさしぶりですね。
僕は基本的に一回鑑賞派で、近い期間で二回観ることは特に近年は少なくなっていたのですが、これは理解が不十分であることだけでなく、映画的ムードをもう一度楽しんでみたいという気にさせる一編でした。
わざと難しく作って悦に入っているという一部の評価もありますが、そんなことはないでしょう。まあ簡単ではないですけどね。
>オールドマン
若い時からオールドマンと言われる俳優もいれば、ベテランになってもニューマンと言われる俳優もいらっしゃいますが、実は、眼鏡の為に最初のうちはオールドマンと解っていなかったのですわ(笑)。
お恥ずかしい次第。
スパイって、いろんなところからスカウトしてきてやらせてるみたいですね。映画や小説からだけの印象ですけども。
ロシア側の拷問が「小柄な男」が登場してからが本番になった、とか、おもしろいというかうまく興味を引く作り方してるのかな。
>ハリウッド映画とはひとあじちがうスパイ映画を満喫しました。
ややこしいですが、ややこしい映画なりの面白さがあったでしょう!
「ミッション・インポッシブル」や英国製でも「007」は華美の極致で、一種のスーパーヒーロー映画ですから、こちらのスパイが本当の味ということですね。スパイの格言(?)にあるように、スパイは出来るだけ普通の人でなければならない。
華美な作品で現実を忘れるのも結構ですが、そういうのばかり見ていても飽きるので、この手のスパイ映画もたまには見せて貰わないと。
>スパイって、いろんなところからスカウトしてきてやらせてるみたいですね。
この間観た、ダイアン・クルーガー主演の日本未公開映画「ザ・オペラティブ」でも、ヒロインはモサドにリクルートされていました。