映画評「ハラがコレなんで」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・石井裕也
ネタバレあり
「川の底からこんにちは」で俄然注目される存在になった石井裕也監督が「あぜ道のダンディ」に続いて発表した作品。やはり、閉塞感に苦しむ日本人を解放するとまでは行かないまでも元気づけようという意図が感じられる。
日本にいたアフリカ系アメリカ人の子を宿して渡米したもののすぐに捨てられてこっそり帰国した仲里依紗が独り住むアパートを出て、15年前に両親と夜逃げして入り込んだ長屋に戻ると、その持前のポジティブ・シンキングで当時結婚の約束をした幼馴染・中村蒼が叔父・石橋凌とやっている和食店(ラーメン屋?)を盛り返し、石橋が愛の告白をできずにいる喫茶店のママ斉藤慶子が病弱な母の面倒を見る為に福島へ帰るのを知ると、関係者一同を引き連れて臨月なのに自ら運転するトラックで福島へ直行、全てを丸く収め、子供を産む。
粋か野暮かで全てを判断し、漂う雲のように気ままに時に能動的に行動し、15年前少女時代の彼女にそういう精神を吹き込んだのに今はすっかり意気消沈している大家の老女まで元気づけてしまうヒロイン像がとにかく前代未聞のユニークさと言って良いと思うが、まず難点を挙げれば同じ言葉を繰り返す耳触りの悪さ。「川の底」ではその大声に、今度はその執拗さに辟易寸前にまで達する。
終盤の大トタバタを除くと全体的に先般観た荻上直子の「レンタネコ」に近いムードを感じるが、構成的にはこちらのほうが上手い。
特に、序盤に勝手に他人の家に入れない都会の典型的生活を描いておいて、その後に勝手に他人の家(部屋)に入っても文句を言われない長屋の生活を紹介する辺りは誠に鮮やかである。この映画の精神は全てこの“勝手に他人の家に上がれる”ということにほぼ集約される。家は人の精神のメタファーでもある。つまり、他人に対し信頼感を持ち、持たせること。
次に、事が起こる前には何にも考えず、起きてから考え行動を起こす。不安を感じる時代にあって不安対処法を観客に提示している。問題が起きた時は一旦立ち止まる。彼女流に従えば、どこにいようがひとまず寝る。
大地震だけでなく原発の問題を抱えた福島が舞台の一部になるのは、恐らく、今以上に不安に苛まれていた2011年の日本人を元気づける意図の表れと判断して間違いないだろう。
アクが強いので好悪が分れるタイプではあるものの、不安を強く感じる人間にとってある程度(一時的に)薬になる作品とは言える。
子供の頃我が家には当然の如く錠がなかった。家に入ると近所のお婆さんが坐っているのを発見することもよくあった。
2011年日本映画 監督・石井裕也
ネタバレあり
「川の底からこんにちは」で俄然注目される存在になった石井裕也監督が「あぜ道のダンディ」に続いて発表した作品。やはり、閉塞感に苦しむ日本人を解放するとまでは行かないまでも元気づけようという意図が感じられる。
日本にいたアフリカ系アメリカ人の子を宿して渡米したもののすぐに捨てられてこっそり帰国した仲里依紗が独り住むアパートを出て、15年前に両親と夜逃げして入り込んだ長屋に戻ると、その持前のポジティブ・シンキングで当時結婚の約束をした幼馴染・中村蒼が叔父・石橋凌とやっている和食店(ラーメン屋?)を盛り返し、石橋が愛の告白をできずにいる喫茶店のママ斉藤慶子が病弱な母の面倒を見る為に福島へ帰るのを知ると、関係者一同を引き連れて臨月なのに自ら運転するトラックで福島へ直行、全てを丸く収め、子供を産む。
粋か野暮かで全てを判断し、漂う雲のように気ままに時に能動的に行動し、15年前少女時代の彼女にそういう精神を吹き込んだのに今はすっかり意気消沈している大家の老女まで元気づけてしまうヒロイン像がとにかく前代未聞のユニークさと言って良いと思うが、まず難点を挙げれば同じ言葉を繰り返す耳触りの悪さ。「川の底」ではその大声に、今度はその執拗さに辟易寸前にまで達する。
終盤の大トタバタを除くと全体的に先般観た荻上直子の「レンタネコ」に近いムードを感じるが、構成的にはこちらのほうが上手い。
特に、序盤に勝手に他人の家に入れない都会の典型的生活を描いておいて、その後に勝手に他人の家(部屋)に入っても文句を言われない長屋の生活を紹介する辺りは誠に鮮やかである。この映画の精神は全てこの“勝手に他人の家に上がれる”ということにほぼ集約される。家は人の精神のメタファーでもある。つまり、他人に対し信頼感を持ち、持たせること。
次に、事が起こる前には何にも考えず、起きてから考え行動を起こす。不安を感じる時代にあって不安対処法を観客に提示している。問題が起きた時は一旦立ち止まる。彼女流に従えば、どこにいようがひとまず寝る。
大地震だけでなく原発の問題を抱えた福島が舞台の一部になるのは、恐らく、今以上に不安に苛まれていた2011年の日本人を元気づける意図の表れと判断して間違いないだろう。
アクが強いので好悪が分れるタイプではあるものの、不安を強く感じる人間にとってある程度(一時的に)薬になる作品とは言える。
子供の頃我が家には当然の如く錠がなかった。家に入ると近所のお婆さんが坐っているのを発見することもよくあった。
この記事へのコメント
豪快な肝っ玉姉さんという感じで。
この映画ではそれがよく生きている感じがしました。
とりあえずは生きてやる!というところでありましょうか。
>仲里依紗嬢
初めて見た時の印象とそれ以外の作品が結構違うんですが、最近はそういうイメージが出来ていますね。
最初は、仲里 依紗かと思っておりました^^;
かつての森崎東監督に合いそう。