映画評「ダークナイト ライジング」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督クリストファー・ノーラン
ネタバレあり
クリストファー・ノーランによる「バットマン」シリーズの最終作とされている第三作。
僕の甥はシリーズの中で本作が一番お気に入りらしいが、僕はやはり第二作「ダークナイト」が完成度でぐっと優ると思う。
飛行機内で繰り広げられる格闘により本作の悪役たるベイン(トム・ハーディ)が紹介されるプロローグの後、前作最後でデント検事(アーロン・エッカート)殺しの汚名を着せられ文字通り満身創痍で引きこもっているバットマンことブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)が女泥棒セリーナ・カイル(アン・ハサウェイ)に宝石を盗まれてしまうエピソードから本編突入。
8年間も引きこもっているとは言え、彼女の目的が自分の指紋採取であることにすぐに気付いたウェインは、執事アルフレッド(マイケル・ケイン)などに背を押される形で遂にゴッサム・シティに舞い戻る決心をするが、セリーナと繋がっているベインは指紋を使ってウェインを破産させ、ウェイン社の新幹部を脅迫して秘密の核融合設備を奪取、核兵器に改造した上で、アメフト会場でテロを起して核兵器をネタに、また、ゴードン市警本部長(ゲイリー・オールドマン)の検事殺しの真相告白を使って人心を掌握、ここに革命が成立する。
「ダークナイト」で僕は作者がバットマンに世界の警察を自認しながら他国からもう一つ評判の良くないアメリカを投影させたように感じたものだから、今度はアメリカが大嫌いな共産主義の、それもテロ革命を持ち出して来たのかと一瞬勘繰り、いかに何でもそれは今更だろうと思った通り、共産主義的思想が犯人側のからくりであることは最初から確認されている。
ただ、ロシア革命ではないとしても、フランス革命の空気を感じさせる描写が多く、何だか最終的にバットマンがフランス革命の恐怖政治から貴族を救う「紅はこべ」の主人公のように思えてしまったのは事実である。底流のどこかにやはり個人主義集団アメリカ人の共産主義への嫌悪があるのかもしれない。
かくして繰り広げられるスペクタクルとしてのスケールが前作より大きくなった反面、ベインと彼を操っている黒幕の目的が単なる復讐である為犯人のスケールは寧ろ小さくなっていることは否めない。その黒幕の正体にしても不意打ちにすぎる印象があるが、作者を擁護する立場では、その人物の仮面舞踏会での言動に密かに布石が忍ばせられているようにも思われる。少なくとも、その行動には不審な雰囲気が常に背後で揺曳している。その関連で言えば、ウェインがベインに倒され送りこまれた“穴”から脱出した唯一の人物に関する観客の思い込みを大いに利用した作劇が上手く、この辺り大いに楽しませて貰った。
核兵器に関する理解が甘いのではないかというご意見については、事前に直接被害は10km云々と言ってるからとりあえず良しとしましょう。
この後初回鑑賞時些か問題を感じた第一作を見ると、きっと初回時より面白く感じられるだろう。いずれにしてもこのシリーズは、バットマンの登場時間が異様に短く群像劇構造になっているのがアメコミ・ヒーローものの中で異色として後世まで記憶される筈である。
今回で完結ということながら、原作やTVシリーズ等の主要登場人物がやっと出揃ったというのも、一方で、事実なのである。よって、第4作が作られるか、若しくは新シリーズとして再開する可能性も否定できない。
本当は「ダークな意図 芽生える」なのよ。
2012年アメリカ映画 監督クリストファー・ノーラン
ネタバレあり
クリストファー・ノーランによる「バットマン」シリーズの最終作とされている第三作。
僕の甥はシリーズの中で本作が一番お気に入りらしいが、僕はやはり第二作「ダークナイト」が完成度でぐっと優ると思う。
飛行機内で繰り広げられる格闘により本作の悪役たるベイン(トム・ハーディ)が紹介されるプロローグの後、前作最後でデント検事(アーロン・エッカート)殺しの汚名を着せられ文字通り満身創痍で引きこもっているバットマンことブルース・ウェイン(クリスチャン・ベイル)が女泥棒セリーナ・カイル(アン・ハサウェイ)に宝石を盗まれてしまうエピソードから本編突入。
8年間も引きこもっているとは言え、彼女の目的が自分の指紋採取であることにすぐに気付いたウェインは、執事アルフレッド(マイケル・ケイン)などに背を押される形で遂にゴッサム・シティに舞い戻る決心をするが、セリーナと繋がっているベインは指紋を使ってウェインを破産させ、ウェイン社の新幹部を脅迫して秘密の核融合設備を奪取、核兵器に改造した上で、アメフト会場でテロを起して核兵器をネタに、また、ゴードン市警本部長(ゲイリー・オールドマン)の検事殺しの真相告白を使って人心を掌握、ここに革命が成立する。
「ダークナイト」で僕は作者がバットマンに世界の警察を自認しながら他国からもう一つ評判の良くないアメリカを投影させたように感じたものだから、今度はアメリカが大嫌いな共産主義の、それもテロ革命を持ち出して来たのかと一瞬勘繰り、いかに何でもそれは今更だろうと思った通り、共産主義的思想が犯人側のからくりであることは最初から確認されている。
ただ、ロシア革命ではないとしても、フランス革命の空気を感じさせる描写が多く、何だか最終的にバットマンがフランス革命の恐怖政治から貴族を救う「紅はこべ」の主人公のように思えてしまったのは事実である。底流のどこかにやはり個人主義集団アメリカ人の共産主義への嫌悪があるのかもしれない。
かくして繰り広げられるスペクタクルとしてのスケールが前作より大きくなった反面、ベインと彼を操っている黒幕の目的が単なる復讐である為犯人のスケールは寧ろ小さくなっていることは否めない。その黒幕の正体にしても不意打ちにすぎる印象があるが、作者を擁護する立場では、その人物の仮面舞踏会での言動に密かに布石が忍ばせられているようにも思われる。少なくとも、その行動には不審な雰囲気が常に背後で揺曳している。その関連で言えば、ウェインがベインに倒され送りこまれた“穴”から脱出した唯一の人物に関する観客の思い込みを大いに利用した作劇が上手く、この辺り大いに楽しませて貰った。
核兵器に関する理解が甘いのではないかというご意見については、事前に直接被害は10km云々と言ってるからとりあえず良しとしましょう。
この後初回鑑賞時些か問題を感じた第一作を見ると、きっと初回時より面白く感じられるだろう。いずれにしてもこのシリーズは、バットマンの登場時間が異様に短く群像劇構造になっているのがアメコミ・ヒーローものの中で異色として後世まで記憶される筈である。
今回で完結ということながら、原作やTVシリーズ等の主要登場人物がやっと出揃ったというのも、一方で、事実なのである。よって、第4作が作られるか、若しくは新シリーズとして再開する可能性も否定できない。
本当は「ダークな意図 芽生える」なのよ。
この記事へのコメント
ここのところ、悪党もスケールが小さいですしね。
なんだかな~と首をかしげております(^^ゞ
>悩めるヒーロー
「スパイダーマン」がジャンル映画と悩める青春映画とのはざまで性格がはっきりしないのと違って、この「バットマン」シリーズはジャンル映画を超えた境地にあったと僕は思っています。
そうした面倒臭い傾向はジャンル映画では「いかん」と普段言っているのに反して、このシリーズだけは認める気分になったのは確かです。
ただ、一般論としてはジャンル映画を難しくしている傾向はやはりダメですなあ。
VIVAJIJIさんのところでいつもお見かけして、楽しみにしています。
ぼくも、群馬県在住です!
横レスですが、nesskoさんの言われる少年マガジン的云々には、ぼくも同意を覚えました。
70年代、少年マガジンには、ジョージ秋山、池上彰などに代表されるなどの屈折した正義感と、ヒューマニズムあふれる魅力に満ちた作品が有りました。
ティム・バートン版のバットマンが、本国アメリカでは大ヒットも日本では不人気で、ノーラン版の3部作が日本でヒットした理由も、「バットマンの登場時間が異様に短く群像劇構造になっている」というプロフェッサーさんのご指摘されたことがひとつのポインですね。
日本のヒーロー漫画はアトム以来、群像劇構成が多いのでは?ウルトラマンに至っては3分間ですからね(笑)
この三部作におけるバットマンという異質なヒーロー像も、その頃の日本の漫画に影響を受けている、というのは穿った見方でしょうね・・。
ノーラン版「バットマン」は、展開のリアリズムではなく描写のリアリズムが基調で、ゴッサム・シティはニューヨークそのものであり、気取っていると言えば気取っている作りで、確かにnesskoさんの仰るシニシズムに裏打ちされた陽気なデガダンスはないですね。
それを求めるならティム・バートン版のほうがふさわしいと思いますが、僕はバートンの色使いやその他が割合苦手でして、余り買っていないんです。
そこへ突然変異のように現れた本シリーズが、ジャンル映画に本作のように必要以上の性格描写を持ちこむのに頑なに否定的だった僕をして認めさせたのは大したものだと思います(笑)。第一作「バットマン・ビギンズ」は悪くないといった程度でしたが、「ダークナイト」でぐっと見直しました。
少年コミック雑誌を読んでいた時期が限られているので、雑誌の傾向までは掴んでいませんが、そういうご指摘ができるのは羨ましいです。
コメント有難うございました。
vivajijiさんのところからおいででしたか。
色々お世話になってきて、もう7年以上の付き合いになります・・・時が経つのは速いものです。
自分のことを映画評で語ることが多くなったのは、姐さんの影響なんです。ブログを始めた頃はそういうのは殆どなかったと思います。
ティム・バートンは「バットマン」に限らず個人的に苦手ですが、日本での観客動員数と当方の述べたことがもし本当に関連があるなら、嬉しいですね。
>その頃の日本の漫画に影響を受けている
いや、日本人が考えている以上に、日本のコミックやアニメが海外映画人に影響を与えているようなので、あながち見当違いでもないかもしれませんよ。