映画評「オレンジと太陽」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2010年イギリス映画 監督ジム・ローチ
ネタバレあり

ケン・ローチの息子ジム・ローチの長編映画デビュー作はかなりの出来栄えである。“事実は小説よりも奇なり”を地で行く実話もの。

1986年、英国の社会福祉士マーガレット・ハンフリーズ(エミリー・ワトスン)が、オーストラリアから遥々訪れてきた女性の一言が気にかかる。数十年前に彼女は子供たちだけで英国からオーストラリアへ送られたというのである。やがて彼女が世話してきた孤児女性ニッキー(ロレイン・アッシュボーン)からオーストラリアに兄ジャック(ヒューゴー・ウィーヴィング)がいたことを聞かされ、この二件が線となって彼女は突き止めるのである、数十年間に渡り、英豪政府が施設に引き取られた最下層階級の子供たちを親にも内緒に豪州に移住させ、教会が庇護の名目の下に子供たちを虐待していたことを。
 夫(リチャード・ディレイン)と二人の子供を英国に置いてオーストラリアに児童移民トラストの事務所を構えて彼らの対応をすることにした彼女は様々な嫌がらせを被り、かつての子供たちの生活を想像する余りPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹患して挫折しかかる。が、その一人レン(デーヴィッド・ウェナム)に半ば強引に教会に連れて行かれ、そこで加害者側も旧悪を暴かれる恐怖に怯えているのを見ることで、精神を復活させていく。

後に英豪両政府はこの件に関し謝罪したそうであるが、どんな民主国家にも恥ずべき過去はある。だが、世界は旧態依然のイスラム圏すら巻き込んで、益々自由主義的に、個人主義的になっていくことは間違いない。国家や権力によるこうした旧悪は暴かれ、修正されていくだろう。

しかし、本作の真の狙いは、原作者であるヒロインが目指したのと同様に(政府からの謝罪や賠償を得ることではなく)、被害者のアイデンティティーを探る過程を描くことにありそうだ。本作からは、告発の重み以上に、被害者に寄り添う誠実さを感じるのである。

ローチ・ジュニアのタッチは父親ほど強いリアリズム調ではなく、かと言って、感情的にもならず、本当に好もしい。良い映画作家になりそうだ。

一昨年以来、映画で人が傷付けられる瞬間に自分が実際に怪我をした時の感覚が蘇り、不快になる。この春に心療内科は卒業したが、これだけはなかなか治らない。一種のPTSDかな。

この記事へのコメント

vivajiji
2013年08月30日 18:25
重く悲惨な題材にもかかわらず
じっくりと落ち着いた語り口で
好感大の良作でございました。

>被害者のアイデンティティーを

核はそれでございますね~^^

ローチ父子、
お父さんの作風のほうが
エキセントリック。(^ ^)
息子さんの次作、大いに楽しみ。

PTSD、
一日も早く快方に向かうこと願って
札幌の空より念飛ばしておりますよ~
オカピー
2013年08月30日 21:17
vivajijiさん、こんにちは。

仰るように、好感を覚える作品でした。
最初に浮かんで言葉を使えば、【誠実】でした。

テーマ的には親子似ている方向性になりそうですが、本作で判断する限り、
ジュニアのほうが穏便というか、ソフトというか、
付き合いやすい(笑)感じですね。

>PTSD
有難うございます<(_ _)>
大分前に録った「ソウ:ザ・ファイナル」(タイトルうろ憶え)が未だに観られないんですよ。
今まで全部観てきたので、最後まで付き合う気でいるのですが、
痛そうな場面が多く、あんなの観たら心臓が縮みあがってしまいます。
早くすっきり観られるようになりたいものです。

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