映画評「レイ・ハリーハウゼン 特殊効果の巨人」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年フランス映画 監督ジル・パンソ
ネタバレあり

SF/ファンタジー映画ファンでも若い世代ではレイ・ハリーハウゼンの名前を知らない人が多いかもしれない。映画製作にコンピューターが導入される前SFX時代の特殊効果の先人である。本年五月に92歳で亡くなった。

僕が御大の名前を知ったのは70年代初頭「アルゴ探検隊の大冒険」(1963年)によってであったが、旧作と並行して「シンドバッド黄金の航海」(1973年)「シンドバッド虎の目作戦」(1977年)「タイタンの戦い」(1981年)という新作を実際に目にすることができた。その直後にCGが台頭した為彼は映画製作の現場から去ることになる。

彼に影響を受けた人物として画面に登場して語る監督は、ピーター・ジャクスン、スティーヴン・スピルバーグ、ジョン・ランディス、ジェームズ・キャメロン、ティム・バートン、ギエルモ・デル・トロ、ジョー・ダンテ、ヴィンチェンゾ・ナタリ、テリー・ギリアム、錚々たる顔ぶれだ。

ハリーハウゼンが活躍した1940年代から1970年代はCG隆盛の現在と違って表現に限界があった為本格的なSF/ファンタジーはたまにしか作られなかった。それが良かった。
 こうしたジャンルの映画は大量に作られると有難味がなく、かなりの出来映えでも保存したいと思わせない。翻ってハリーハウゼンが関与した作品の大半はトータルとして大した水準になくても保存したいと思わせる。珍しいということもあるが、彼に影響を受けた監督たちも言うように彼が作り出した怪物・怪獣の類は作り手の感情が籠っている為生きている。
 これでは少し曖昧すぎるので、言い換えると、CG映画の観客はCGだから何でもできると思いつつ観るから、これはどう撮ったのかなという疑問がない。疑問がないから感動がないのである。

スピルバーグは「どこまでCGが許されるか?」という命題を打ち出し、それは観客次第であると言う。僕が思うに、現実にないもの・できないことはCGで構わず、そうでないことは極力実写によるべきである。SFXに特に拘らないが、カー・アクションなどCGではやはりつまらない。

今の映画には作者が折角実写で撮ってもCGであると思われ、実写なら感動する画面もそれほどの感動を与えない不幸がある。絶景を見ても実景なのかどうか疑う癖がついてしまっている。
 監督のどなたかがCGが観客の想像力を奪ったと言う。同感だ。結局ハリーハウゼンの手法では描き切れないところがあるため観客は補完して観る。想像力を働かせると感動が増幅される。映画や文学で省略が推奨されたり誉められるのはそれ故である筈である。

僕は「CGありきでお話がでっち上げられるから最近の(SF/ファンタジー)映画にはつまらない作品が多い」とずっと言って来ているが、それに関してはハリーハウゼンの携わった映画も五十歩百歩らしい。彼の作ったクリーチャーに基づいて脚本が書かれることが多いと語られているのである。彼が実質的に製作者であり、監督であった。
 前述したように、実際、上出来の作品はそれほど多くない。「アルゴ探検隊の大冒険」はギリシャ神話を基にしているだけあってお話もしっかりしていたし、骸骨兵士の闘いなど楽しめる場面が多くこの種のジャンルとしてトップクラスの出来映えだが、大半がまあまあで、映画として拙い作品もある。

キャメロンが「今、現役なら彼もCGを使うだろう」と言うのに対し、ご本人は「いや、使わない」と答える。恐らく独りでコツコツやるのが好きな彼には、大勢が分担して作り上げるVFXでの作り方が根本的に好きでないのだろう。

本作の中で紹介されたハリーハウゼン映画はほぼ全て観ているが、家にライブラリーとしてあるのは「世紀の謎・空飛ぶ円盤地球を襲撃す」だけ・・・と甚だ残念な状態。そう言えば、僕はバートンの「マーズ・アタック」はこの映画の影響を多大に受けていると思っていたのだが、どうもその通りらしい。

ドキュメンタリーの構成としては「コーマン帝国」とそっくり。ちと苦笑が洩れる。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2013年11月26日 17:08
ハリー・ハウゼンの作品のDVDを全部持っております。
何度観てもいいですな~
擦り切れたら、再販された安いのを買おうかと思っております。
たまりませんな。

CGで作ったさくひんでもそれを考えさせない作品であればよいのですがね。
今朝、早朝、やっておりました『グリーンランタン』・・・・言わずもがなの作品で見直しましたが、やっぱり駄目ですな。
せっかくの技術が泣きますな。
オカピー
2013年11月26日 21:29
ねこのひげさん、こんにちは。

>DVD
それは凄い!
全部とは言わず、「アルゴ探検隊」だけは欲しいですなあ。

一般ドラマの補完的なCGは良いのですが、「ドリヴン」などで観られた部品が飛んでくるのをCGで描くといった演出は大嫌いです。

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