映画評「リンカーン/秘密の書」
☆☆★(5点/10点満点中)
2012年アメリカ映画 監督ティムール・ベクマンベトフ
ネタバレあり
近年リンカーン大統領関係の映画が多い。2011年はリンカーンが大統領に就任してから150年でありますが、どういう現象でありましょうか。
少年時代に吸血鬼に襲われて母親を失ったエイブラハム・リンカーン(ベンジャミン・ウォーカー)が町へ出て弁護士になると同時に、復讐の為に吸血鬼退治の権威ヘンリー(ドミニク・クーパー)に支持して吸血鬼ハンターになる。その頃知り合ったメアリー・トッド(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と結婚、政治家になって暫く吸血鬼狩りから離れるが、彼の奴隷解放政策により始まった南北戦争で南軍が奴隷制度に立脚する吸血鬼の親玉アダム(ルーファス・シーウェル)と結託して戦力補強した為リンカーンは銀をかき集め弾丸とナイフを作り、前線に送り届ける旅に出る。
リンカーンが大統領にして吸血鬼ハンターであるという設定より、その設定に基づく南北戦争が吸血鬼退治戦争であったというとんでもない発想が面白い。いずれにしても、最近流行りの一種のハイブリッド映画としての楽しみを発揮しているとは言える。
しかし、3Dでの鑑賞を前提にしたアクションは(少なくとも2Dで観ると)頗るつまらない。最初の馬を使ったアクションも、貨物列車でのアクションも靄(もや)がかっている為に具体的に何をやっているか解らない箇所が目立ち、かつ、馬も列車も重量感に欠けて迫力がない。
吸血鬼の設定にも疑問多し。
本作に限らないものの、人が吸血鬼に噛まれて死ぬケースと吸血鬼になるケースの区別が曖昧。台詞に一応のヒントがあり、純粋な魂は死んでしまうらしいのだが、実は吸血鬼であったヘンリーは意志によって吸血鬼でありながらハンターをしている。意志が吸血行為を止めさせることができるのだ。にも拘らず、他の感染者が全くそうした傾向を示さないのは実に中途半端だ。
吸血鬼同士は殺し合いができないという設定は良い。しかし、ヘンリーの同類がいないから余り生かされない。また、通常の設定と違い、吸血鬼が(通常は狼男に効く)銀に弱く日光に弱くないのは吸血鬼を南軍の兵士に仕立てるお話に合わせた安易な設定変更と見なされても仕方がない。
といった次第で、リンカーン・南北戦争と吸血鬼を結び付けた着想は認めるに値しても、ストーリーの紆余曲折がそれほど面白いわけでないので、総合的には残念な出来と言うべし。
本作で紹介される、ピラミッドが奴隷によって作られたというヘロドトスの説は現在ほぼ否定されている。
右を観ればゾンビ、左を観れば吸血鬼てな感じ。少々うんざりですな。
2012年アメリカ映画 監督ティムール・ベクマンベトフ
ネタバレあり
近年リンカーン大統領関係の映画が多い。2011年はリンカーンが大統領に就任してから150年でありますが、どういう現象でありましょうか。
少年時代に吸血鬼に襲われて母親を失ったエイブラハム・リンカーン(ベンジャミン・ウォーカー)が町へ出て弁護士になると同時に、復讐の為に吸血鬼退治の権威ヘンリー(ドミニク・クーパー)に支持して吸血鬼ハンターになる。その頃知り合ったメアリー・トッド(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と結婚、政治家になって暫く吸血鬼狩りから離れるが、彼の奴隷解放政策により始まった南北戦争で南軍が奴隷制度に立脚する吸血鬼の親玉アダム(ルーファス・シーウェル)と結託して戦力補強した為リンカーンは銀をかき集め弾丸とナイフを作り、前線に送り届ける旅に出る。
リンカーンが大統領にして吸血鬼ハンターであるという設定より、その設定に基づく南北戦争が吸血鬼退治戦争であったというとんでもない発想が面白い。いずれにしても、最近流行りの一種のハイブリッド映画としての楽しみを発揮しているとは言える。
しかし、3Dでの鑑賞を前提にしたアクションは(少なくとも2Dで観ると)頗るつまらない。最初の馬を使ったアクションも、貨物列車でのアクションも靄(もや)がかっている為に具体的に何をやっているか解らない箇所が目立ち、かつ、馬も列車も重量感に欠けて迫力がない。
吸血鬼の設定にも疑問多し。
本作に限らないものの、人が吸血鬼に噛まれて死ぬケースと吸血鬼になるケースの区別が曖昧。台詞に一応のヒントがあり、純粋な魂は死んでしまうらしいのだが、実は吸血鬼であったヘンリーは意志によって吸血鬼でありながらハンターをしている。意志が吸血行為を止めさせることができるのだ。にも拘らず、他の感染者が全くそうした傾向を示さないのは実に中途半端だ。
吸血鬼同士は殺し合いができないという設定は良い。しかし、ヘンリーの同類がいないから余り生かされない。また、通常の設定と違い、吸血鬼が(通常は狼男に効く)銀に弱く日光に弱くないのは吸血鬼を南軍の兵士に仕立てるお話に合わせた安易な設定変更と見なされても仕方がない。
といった次第で、リンカーン・南北戦争と吸血鬼を結び付けた着想は認めるに値しても、ストーリーの紆余曲折がそれほど面白いわけでないので、総合的には残念な出来と言うべし。
本作で紹介される、ピラミッドが奴隷によって作られたというヘロドトスの説は現在ほぼ否定されている。
右を観ればゾンビ、左を観れば吸血鬼てな感じ。少々うんざりですな。
この記事へのコメント
リンカーンが吸血鬼ハンターで、南北戦争が吸血鬼戦争だったという発想は面白いですけどね。
無理がありますね。
ところで『キャリー』がリメイクされるようで・・・・・期待すべきか、やめろ!というべきか・・・
面白いと言えば面白いですが、これなら元祖ハイブリッド映画「ドラゴンVS七人の吸血鬼」のほうが好きだなあ。カンフー映画のショウ・ブラザーズとホラー映画のハマー・プロが共同製作した本当のハイブリッド作品でした。
>『キャリー』
「キャリー2」が相当つまらなかったので、VFX時代のリメイクは期待しない方が良いですね。毀誉褒貶色々ありますが、デ・パルマはやはり才人ですよ。