映画評「ミステリーズ 運命のリスボン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2010年ポルトガル=フランス合作映画 監督ラウル・ルイス
ネタバレあり

正味上映時間267分なり。日本では公開作品が少なく、僕も二本しか見ていないラウル・ルイス監督渾身の大作である。先年5時間を越えるイングマル・ベルイマンの「ファニーとアレクサンデル」を再鑑賞したが、新作としては4時間を越える映画を見るのはいつ以来だろうか。実は278分の邦画「ヘヴンズ ストーリー」を3年前に観ている。そう言えば「輝ける青春」(2003年)という6時間を超えるイタリア映画があった。本ブログの記事としては2006年11月になっている。

19世紀前半、ポルトガルの修道院に暮らす少年ジョアン(ジュアン・アハイス)が、実は伯爵令嬢である母親(マリア・ジュアン・バストス)と次男であるため結婚を許されなかった貴族青年との間に生れたペドロ・ダ・シルヴァという名の庶子であることを判明することから始まり、彼の世話をしている神父(アドリアーヌ・ルース)の波乱万丈の人生を挟み、成人したペドロ(アフォンス・ビメンテウ)が神父とゆかりのあるフランス貴族令嬢エリーズ(クロチルド・エム)の為にひと肌ぬごうとする。

と書くと簡単なようだが、語り手がジョアンから神父、神父からエリーズへと次々と代わり、舞台もポルトガル、フランスに加えてイタリアや植民地ブラジルも絡む、入れ子構造であるが故に終盤相当こんがらがった。

しかも、あるいは夢落ちではないかという疑問も持たれる作り方であるから、哲学的で難解というのではなく、形式や構成故に難解と思われる作品は実に久しぶり。半年くらい前に見た黒沢清の「ニンゲン合格」をもう少しややこしくしたと思えば近い気がする。

解りにくいと言っても次々と代わる主人公=語り手が語るエピソード群は単独では寧ろ単純なくらい。しかし、それが入れ子構造となり、かなりの人数が出て来る上に突然繋がりがなさそうな(が、後段で繋がりが判明する)人物も現れ、夢落ちと考えられなくもない形で終わるから、真面目に観れば観るほどドツボに嵌る感じになるのである。

そう言えば伝記映画「クリムト」も臨終におけるクリムトの幻想が殆どを占める構成だったので、ルイス監督は幻想と現実を混沌させるのがお好きなのだろう。しかし、同じ趣向であっても「クリムト」は説明不足で面白くなかったのに対し、本作は長さに退屈するより圧倒される感が強く☆★を大奮発してしまった。ただインターミッションを挟んだ第二部の後半くらいから混乱して解らなくなってしまう部分も少なくない。長すぎてなかなかその気になれそうもないが、もう一回観ねばなるまい。

今年最後の記事です。本年も一年間ご愛読戴き有難うございました。良いお年を!

この記事へのコメント

ドラゴン
2013年12月31日 23:52
こんばんは。

この作品、映画館で鑑賞しました。
急遽観ることになったので、あんまり期待はしていませんでしたが、飽きずに最後まで楽しめました。

さて、
本年も、オカピーさんの映画評には大変お世話になりました。
来年も、よろしくお願い致します。
ねこのひげ
2014年01月01日 08:38
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

この映画は観てないですが・・・・入れ子形式でなく普通に描かれていたらどうだったんでしょうね~(^^ゞ
オカピー
2014年01月01日 10:45
ドラゴンさん

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。

個人的に色々な事情を抱え、手抜きも甚だしく余り良いものが書けていないのですが、今年はもう少し良いものになるように努力したいと思います。
他方、新作に余り良い作品がなく、読書の方が楽しいなあと思うのですよ。実に困ったことです。

>映画館
ご覧になった方は少ないようですが、映画館に行かれましたか。
淀川さん風に言えば、映画館で“格闘”されたんですね。

そう、長いですが、飽きないんですよね。ベルトリッチの「1900年」を思い出す部分もありました。あちらは五時間を超えていたのですが、やはり面白かったなあ。
オカピー
2014年01月01日 10:52
ねこのひげさん

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。

未来の予測とでも言うべき一種の夢落ちと理解できる内容で、しかし、我々にとっては過去のお話というところを興趣としている作り。
20世紀末から流行している単純なお話をわざわざ複雑にしているという形ではなく、入れ子構造は必然だったのだろうなあと理解しているわけですが、僕のように頭の悪い人間には終盤こんがらがってしまうんです。
長いから「是非ご覧ください」とは申せませんが、分割して何日かに分けて観るのも良いかもしれません。

この記事へのトラックバック