映画評「苦役列車」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり
ニュースとスポーツ以外に観る地上波番組は「鉄腕DASH」と「Qさま」だけである。後者のおかげで流行を追わない僕も西村賢太と「苦役列車」の名称は知っていた。
本作の主人公(森山未來)の名が北町貫太というから、原作の内容を知らなくても、自伝的小説であることは容易に察せられる。案の定、Wikipediaによれば彼の発表するものは“強烈な私小説”であるそうだ。
1986年、父親の性犯罪により母子家庭に育った、読書好きの19歳貫太は、荷役の仕事を通じて専門学校生の正二(高良健吾)と親しくなって初めて友人なるものを持ち、彼を通じて思慕を寄せる古書店のバイト女子大生・康子(前田敦子)とも友情関係が持てる。
が、家賃を払う代わりに風俗店通いに金を注ぎ、女友達=セックス相手と考える彼から彼女も離れ、中卒故の屈折した江戸っ子意識から地方から来た専門学生の正二や大学生のその恋人をバカにしたことから正二も離れていく。荷役のバイトをしているとは言えきちんとした親を持つ彼とは、そもそも住む世界が違っていたのである。
しかし、3年後バカにしていた仕事場の中年・高橋(マキタスポーツ)が歌手の夢を果たすべくTV番組に出演しているのを見て一念発起、小説を書き出す。
後味の悪い映画は嫌いであるが、一般ドラマにおいて主人公への嫌悪感が作品全体の評価に影響を与えた経験は殆どない。しかし、本作の貫太を観ているとそれが大いに揺らぐ。家賃を払う代わりに風俗店へ通い、自己中心的な発想で対人関係を処理する。一言で言えば、全く社会性がない。ぐずでふてくされ、中卒であることによる劣等感とは対照的に変なプライド意識を持ち、女は性処理の道具と考え、未成年なのにタバコはぷかぷか酒もやる。悪人でないだけに却って始末に悪い。
読書好きにして社交性に欠けるところ以外は僕と正反対である。今は有名人になった西村賢太氏の若き日と考えられなかったならば、最後まで鑑賞できなかったのではあるまいか。環境が背景にあるとは言え、不快になることに変わりはない。最後に希望の光が照らすものの、どうにも好きになれなかった。
とぼけた味があってご贔屓にしている山下敦弘監督の作品としては「リアリズムの宿」に比較的近い構図のお話と言ってよいだろうが、あちらの徹底したおとぼけ感に比べて深刻すぎる重喜劇的な印象を伴い、どうも馴染めないのである。
森山未來は従来のイメージとぐっと違うぐず男を演じて好調。好演すぎて嫌悪感を感じてしまった(笑)。
欧米人は日本的な私小説を小説とは認めず、エッセイの範囲に入れるらしい。本作などは自伝小説と言えるから自己に材を求めているとは言え立派な小説だろうが、尾崎一雄の短編などは僕でもエッセイと思う。
2012年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり
ニュースとスポーツ以外に観る地上波番組は「鉄腕DASH」と「Qさま」だけである。後者のおかげで流行を追わない僕も西村賢太と「苦役列車」の名称は知っていた。
本作の主人公(森山未來)の名が北町貫太というから、原作の内容を知らなくても、自伝的小説であることは容易に察せられる。案の定、Wikipediaによれば彼の発表するものは“強烈な私小説”であるそうだ。
1986年、父親の性犯罪により母子家庭に育った、読書好きの19歳貫太は、荷役の仕事を通じて専門学校生の正二(高良健吾)と親しくなって初めて友人なるものを持ち、彼を通じて思慕を寄せる古書店のバイト女子大生・康子(前田敦子)とも友情関係が持てる。
が、家賃を払う代わりに風俗店通いに金を注ぎ、女友達=セックス相手と考える彼から彼女も離れ、中卒故の屈折した江戸っ子意識から地方から来た専門学生の正二や大学生のその恋人をバカにしたことから正二も離れていく。荷役のバイトをしているとは言えきちんとした親を持つ彼とは、そもそも住む世界が違っていたのである。
しかし、3年後バカにしていた仕事場の中年・高橋(マキタスポーツ)が歌手の夢を果たすべくTV番組に出演しているのを見て一念発起、小説を書き出す。
後味の悪い映画は嫌いであるが、一般ドラマにおいて主人公への嫌悪感が作品全体の評価に影響を与えた経験は殆どない。しかし、本作の貫太を観ているとそれが大いに揺らぐ。家賃を払う代わりに風俗店へ通い、自己中心的な発想で対人関係を処理する。一言で言えば、全く社会性がない。ぐずでふてくされ、中卒であることによる劣等感とは対照的に変なプライド意識を持ち、女は性処理の道具と考え、未成年なのにタバコはぷかぷか酒もやる。悪人でないだけに却って始末に悪い。
読書好きにして社交性に欠けるところ以外は僕と正反対である。今は有名人になった西村賢太氏の若き日と考えられなかったならば、最後まで鑑賞できなかったのではあるまいか。環境が背景にあるとは言え、不快になることに変わりはない。最後に希望の光が照らすものの、どうにも好きになれなかった。
とぼけた味があってご贔屓にしている山下敦弘監督の作品としては「リアリズムの宿」に比較的近い構図のお話と言ってよいだろうが、あちらの徹底したおとぼけ感に比べて深刻すぎる重喜劇的な印象を伴い、どうも馴染めないのである。
森山未來は従来のイメージとぐっと違うぐず男を演じて好調。好演すぎて嫌悪感を感じてしまった(笑)。
欧米人は日本的な私小説を小説とは認めず、エッセイの範囲に入れるらしい。本作などは自伝小説と言えるから自己に材を求めているとは言え立派な小説だろうが、尾崎一雄の短編などは僕でもエッセイと思う。
この記事へのコメント
映画も、なんだかなぁの出来みたいですな。
>「鉄腕DASH」と「Qさま」だけ
前者は見ないですね。後者は私も良く見ます。マニアック過ぎるところもありますがネ。
>出来
恐らく出来は悪くないのでしょうが、それ故に主人公の嫌な部分が気になってしまって嫌悪感が先に出てしまいました(僕にしては珍しいことです)。
それを含めて“出来”というわけですけどね^^
>「鉄腕ダッシュ」
物を大事にする精神で一貫しているところが良いと思っています。
生前母親のご贔屓番組でもありました。
>「Qさま」
クイズに徹し無駄が少なくて良いです。頭の体操に観ております。
世界史と文学史にかけては出場者に負けない自信があります。
この映画私は原作が先でしたが、もうホント主人公がヤな奴で(笑)。
山下監督は最新作が評判ですね。
今年も、貴記事楽しみ読ませていただきますね。
どうぞよろしくお願いいたします。
本当に嫌な奴でしたね。
“愛すべきロクデナシ”などとキャッチコピーにありましたが、全然愛せないなあ(笑)
>最新作
群馬の田舎に住んでいるものでなかなか新しいものは観られません(くすん)。
WOWOWにでも出るのを待っております。
>記事
読まれる方を不愉快にしているのではないかと少々心配しておりますが、今年もよろしくお願い致します。
芥川賞の授賞式でのインタビューでも「賞金でソープに行く」と言って、記者連中の苦笑を買っていましたね。
まあ、芥川賞を受ける小説家には人格破綻者が多いようですがね。
「Qさま」で観ますと、風俗通いはともかく、ひねくれた感じもないですし、大分大人になったのだと思います。尤もあのまま40男になったら恐ろしいことになる(笑)
昔の芥川賞作家は一般の人に知られる前に消えた人が多いと思いますが、最近はTVでもよく取り上げますし、昔より有名人化する可能性が高いですね。変わり者が多いのは確かなようです。
最近、恥ずかしながらAKB48に若干はまっており、これも前田敦子が出演しているところからレンタルしてしまいました。
それにしても案外リアルな作品でしたね。社会にはまだまだ光の当たっていない場所があることを改めて感じたところです。しかし、主人公のあの環境から考えると、まだいい方なのではないでしょうか?彼が犯罪にも走らず。ホームレスにもならず、夢をかなえることができたのは、友人との思い出をつくることができたこと、同僚が前向きだったこと、読書が好きだったこと、バブル期だった(失業せずにすんでいる)こと、などに救われたからではないでしょうか?現在ではそういったことが何もない未熟練労働者や失業者がたくさんいると思います。
そう考えると、現在では寅さんと犯罪者が紙一重の時代になりつつあるような気がしますよ?怖いなあ。
では、また。
今日は外の中は35℃くらいでしたが、家の中は30℃くらい。36~37℃に慣れたせいもあり、随分涼しく感じましたよ。30度でも暑くてやりきれない時もあるし、温度というものはよく解りません^^;
>AKB48
遂にそういうことになりましたか^^
少し余裕が出来たのかな。そうなら嬉しいですね。
NHKで彼女たちのドキュメンタリーが放映されるようですが、とりあえず無視することにします。その時間があれば、古い映画を観るか、本を一冊読めますから。
(一応見続けている)新しい映画に限ればもう観なくても良いという心境になり、少なく見積もっても1000作はある古典(文学以外にも大量にある)書物を読みたいと思っています。読みこなすには最低でも10年。それまで何とか生き続けないと。
バブルと言えば、バブルがはじけて日本人は劣化し、為政者はそれ以上に劣化し、もはやどうしようもないのではないでしょうか?
就職できない若者は入り手の減っていくであろう自衛隊が喜んで迎えてくれますよ。少なくとも僕は入るには年寄りすぎる(笑)
ま、多分僕が生きている間は大戦争はないでしょう。