映画評「フライト」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年アメリカ映画 監督ロバート・ゼメキス
ネタバレあり
ロバート・ゼメキスが監督でタイトルが「フライト」Flightだから少しひねくれたパニック映画かと予想して観始めたが、パニック映画的な場面は序盤だけで、後は「酒とバラの日々」でした(笑)。
エンジンの不調で墜落を回避できない状態だった飛行機を背面飛行という離れ業で不時着させ、被害を最小限に食い止め英雄になった機長デンゼル・ワシントンが、実はアル中でアルコール濃度が高いまま操縦桿を握っていたことが発覚した為公聴会で指摘される可能性が出てくる。そうなれば死者が出ている為裁判の末に最悪終身刑を宣告されるかもしれない。
しかし、若い頃から知り合いの航空会社関係者ブルース・グリーンウッドや弁護士ドン・チードルが色々と揉み消し工作をやった結果、公聴会で嘘を通し続ければ無罪放免になるところを、ちょっと良い仲で事故で故人となったスチュワーデスがアル中だったかと質問を突き付けられた時、彼はこれ以上の嘘を付けなくなる。
インディ系列を除くとアメリカのドラマ映画で一般的な意味できちんと作り上げられた作品は最近なかなかお目にかかれない。何年ぶりという程ではないにしても、評判の良いイーストウッドの作品もどちらかと言えばハリウッドの王道と言いにくいものが多いから、何だか本当に久しぶりに手応えのある“普遍的ドラマ”に当たったなあという印象になる。
通奏低音は神であろう。空を飛ぶこと自体が既に神に近づく行為とさえ言えると思うが、不時着現場にはカルト集団がいて、「事故原因は神の仕業(=不可抗力)」とチードルが言い、副操縦士は宗教かぶれである。
主人公はアルコール中毒自体よりそれに関し自分や関係者に対して嘘を付き続けた人間としての自分に嫌気がさして真実を告白するに至ったのであろう。彼はそれにより刑務所に入るという不自由に甘んじながら「初めて自由になった」と囚人仲間に告げる。人間はかくも不思議な存在であると感慨にふける一方、彼を動かしたのも神の見えざる手なのかもしれない、などと考える。
些か強引なまとめ方になったものの、脚本のジョン・ゲイティンズが「神」を意識して書いたことはほぼ間違いない。スポーツものを得意とする彼としてはスポーツを離れた本作が一番上出来と言うべし。
ゼメキスもその脚本をきちんと映像に移し、ここ十年近くパフォーマンス・キャプチャーによるお子様映画でお茶を濁していたのが勿体ない気がする実力を発揮している。麻薬中毒患者で一時主人公の恋人的存在になる女性にケリー・ライリーが扮して出演。
ローリング・ストーンズの曲(「悪魔を憐れむ歌」「ギミー・シェルター」)と麻薬供給者ジョン・グッドマンの登場をリンクさせた辺りは少々コミカルにして面白い趣向であります。
幕切れのコカインは少し調子に乗りすぎている感がありますがね。
2013年アメリカ映画 監督ロバート・ゼメキス
ネタバレあり
ロバート・ゼメキスが監督でタイトルが「フライト」Flightだから少しひねくれたパニック映画かと予想して観始めたが、パニック映画的な場面は序盤だけで、後は「酒とバラの日々」でした(笑)。
エンジンの不調で墜落を回避できない状態だった飛行機を背面飛行という離れ業で不時着させ、被害を最小限に食い止め英雄になった機長デンゼル・ワシントンが、実はアル中でアルコール濃度が高いまま操縦桿を握っていたことが発覚した為公聴会で指摘される可能性が出てくる。そうなれば死者が出ている為裁判の末に最悪終身刑を宣告されるかもしれない。
しかし、若い頃から知り合いの航空会社関係者ブルース・グリーンウッドや弁護士ドン・チードルが色々と揉み消し工作をやった結果、公聴会で嘘を通し続ければ無罪放免になるところを、ちょっと良い仲で事故で故人となったスチュワーデスがアル中だったかと質問を突き付けられた時、彼はこれ以上の嘘を付けなくなる。
インディ系列を除くとアメリカのドラマ映画で一般的な意味できちんと作り上げられた作品は最近なかなかお目にかかれない。何年ぶりという程ではないにしても、評判の良いイーストウッドの作品もどちらかと言えばハリウッドの王道と言いにくいものが多いから、何だか本当に久しぶりに手応えのある“普遍的ドラマ”に当たったなあという印象になる。
通奏低音は神であろう。空を飛ぶこと自体が既に神に近づく行為とさえ言えると思うが、不時着現場にはカルト集団がいて、「事故原因は神の仕業(=不可抗力)」とチードルが言い、副操縦士は宗教かぶれである。
主人公はアルコール中毒自体よりそれに関し自分や関係者に対して嘘を付き続けた人間としての自分に嫌気がさして真実を告白するに至ったのであろう。彼はそれにより刑務所に入るという不自由に甘んじながら「初めて自由になった」と囚人仲間に告げる。人間はかくも不思議な存在であると感慨にふける一方、彼を動かしたのも神の見えざる手なのかもしれない、などと考える。
些か強引なまとめ方になったものの、脚本のジョン・ゲイティンズが「神」を意識して書いたことはほぼ間違いない。スポーツものを得意とする彼としてはスポーツを離れた本作が一番上出来と言うべし。
ゼメキスもその脚本をきちんと映像に移し、ここ十年近くパフォーマンス・キャプチャーによるお子様映画でお茶を濁していたのが勿体ない気がする実力を発揮している。麻薬中毒患者で一時主人公の恋人的存在になる女性にケリー・ライリーが扮して出演。
ローリング・ストーンズの曲(「悪魔を憐れむ歌」「ギミー・シェルター」)と麻薬供給者ジョン・グッドマンの登場をリンクさせた辺りは少々コミカルにして面白い趣向であります。
幕切れのコカインは少し調子に乗りすぎている感がありますがね。
この記事へのコメント
予告での派手さにつられて劇場に観に行った人が多いでしょうが、ねこのひげもその一人でありますが・・・・(^^ゞ
後は・・・・でありましたね。
ゼメキス健在でありました。
これは観ねば、で公開時鑑賞。^^
“こんな酔っ払いパイロット雇用している
アメリカの航空会社は一体どうなってる!”
このような思考停止感想に終始して、映画
そのものの面白さに全く反応していない方々も
多くて、愕然とした映画ではございましたが。
プロフェッサーの高評価でまんずひと安心。(笑)
D・ワシントンという俳優は不思議。
「トレーニング・デイ」筆頭に、良くない人
演じても、心のどこかで応援したくなる。
加えてゼメキスはやはり語りがお上手ですよ~(^ ^)
>おかしなところ
vivajijiさんも仰っているように、アル中パイロットを雇っている航空会社という問題がないことはないのですが、これが現実を示唆しているかいないかはともかく、人間を見せるための仕掛けですから、全然構わないのであります。
>ゼメキス
キス攻めのほうが良いですが(笑)、久しぶりに大人の映画を撮ってくれました。しかも面白かった^^
>航空会社
アメリカのいい加減さを風刺していると考えられないこともないですが、実際にありえないことであるとしても、これはアル中のパイロットを人間観察という実験台に乗せた作品ですから、そういう前提でスタートした以上はどうでも良いんですね。
同じような問題でも、ジャンル映画では認められない場合がある。目的が違うから無理が出てしまうわけです。
そういうところをきちんと見分けないと、視野狭窄になって映画鑑賞をつまらないものにしてしまいますよね。
>D・ワシントン
60年代のシドニー・ポワチエのような存在ですかね。
役柄がもっと幅広いですけど。
この映画の主人公は嫌いではなかったなあ。精神的に弱いところが良かった。