映画評「ライジング・ドラゴン」
☆☆★(5点/10点満点中)
2012年香港映画 監督ジャッキー・チェン
ネタバレあり
ジャッキー・チェン自身によると、最後のアクション大作であるという。“大作”の定義がよく解らないが、全編アクションの映画で主役を演じないということなのだろう。「酔拳」で日本に本格紹介されて以来ほぼ全主演作品を観てきたから感慨がないこともない。ハリウッドでも人気者になった。しかし、ハリウッドはかつてのアラン・ドロンほどでないにしてもチェンを十分に生かす術を知らなかったと思う。
アヘン戦争の後、英仏連合部隊が清の離宮・円明園から宝物を略奪、中でも“十二生肖”という12体のブロンズ像が世界に散逸し、世界でオークションで高値が付けられている。
オリヴァー・プラットを代表とするアンティーク・ディーラー会社がこれを狙って、トレジャー・ハンターのジャッキー・チェンに依頼する。チェンはフランスの富豪から“十二生肖”を含むお宝を頂戴した後、同じくフランスの零落貴族を訪れ令嬢ローラ・ワイスベッカー自ら案内する屋敷から色々と情報仕入れ、かつて彼女の先祖が戦利品として持ち帰ろうとして沈没した船の在り処を突き止める。
全体の三分の一くらいまでに当たるこの辺りまでは現代ならではの新技術を駆使した活劇調サスペンスが好調、技術の数々は初期の007を思い起こさせる。「007は二度死ぬ」であったろうか、現在のカーナビみたいな装置が出てきた時まさか30年後に我々が実際に使えるようになるなどと誰が思っただろうか? 尤も、本作に出てくる技術、例えば3Dプリンターによる模造品製造などは、ほぼ現実のものである。
開館直後ローラー・ブレードを使ったアクションもジャッキーらしいと言えばそれまでながら一応新機軸で、既に始まった冬季オリンピックではたっぷり見られるリュージュやスケルトンを思い出させて頗る愉快。
しかし、彼が仲間たちやローラと船の沈没した近くの島に行ってからがいけません。プラットの部下や日本語が混じる倭寇もどきの海賊とを交えた三つ巴の争奪戦が、泥臭いお笑いと共に必要以上に延々と繰り広げられ、僕のようなオールド・ファンを呆れ返らせてしまうのである。いや、実際、日本人観客の映画水準ではこの島シークエンスの程度の低さにはがっかりするしかあるまい。
そもそも僕が褒めておいた最初の三分の一でも状況説明が全く下手で、チェンが何者で何を考えているか全く解らないまま僕らは観ているというのが実際。4人も脚本がいる為に却って“船頭多くして船山に登る”結果をもたらしてしまっている。それでも実に鮮やかに見せ場が集中しているから誤魔化されていたわけだが、それが中だるみの極みである島シークエンスに至って思い起こさせられるといいう次第。
ディーラーのやっていることにも不明な点が多く、国宝級のアイテムの取引反対が世界的ブームになる中オークションで取引が決まらない場合十二生肖の一つを火口に捨てるアクションを起こすなんてのもその典型。それを阻止しようと、ジャッキーがスカイダイビングを最大限に利用して奮闘するのが最初の場面についでのアクションの見せ場であるが、こちらはやや長いのと大袈裟すぎて少々胃にもたれる。
ジャッキーのアクション的見せ場は主に指摘した二か所に集中するわけだが、その他にも昔観たあれやこれやのアクロバティックなアクションが色々と再現されるのは熱烈なファンには嬉しいだろう。
中国の文化財に対する実際の考えが背景にある作品でもあり、日本と韓国が文化財をめぐって互いに色々と言い合っている現状が頭をよぎる。そこまで考えてみる必要はないものの、なかなか難しい問題であります。
タリバンがバーミヤン石仏を破壊した時くらいがっかりしたことはないなあ。
2012年香港映画 監督ジャッキー・チェン
ネタバレあり
ジャッキー・チェン自身によると、最後のアクション大作であるという。“大作”の定義がよく解らないが、全編アクションの映画で主役を演じないということなのだろう。「酔拳」で日本に本格紹介されて以来ほぼ全主演作品を観てきたから感慨がないこともない。ハリウッドでも人気者になった。しかし、ハリウッドはかつてのアラン・ドロンほどでないにしてもチェンを十分に生かす術を知らなかったと思う。
アヘン戦争の後、英仏連合部隊が清の離宮・円明園から宝物を略奪、中でも“十二生肖”という12体のブロンズ像が世界に散逸し、世界でオークションで高値が付けられている。
オリヴァー・プラットを代表とするアンティーク・ディーラー会社がこれを狙って、トレジャー・ハンターのジャッキー・チェンに依頼する。チェンはフランスの富豪から“十二生肖”を含むお宝を頂戴した後、同じくフランスの零落貴族を訪れ令嬢ローラ・ワイスベッカー自ら案内する屋敷から色々と情報仕入れ、かつて彼女の先祖が戦利品として持ち帰ろうとして沈没した船の在り処を突き止める。
全体の三分の一くらいまでに当たるこの辺りまでは現代ならではの新技術を駆使した活劇調サスペンスが好調、技術の数々は初期の007を思い起こさせる。「007は二度死ぬ」であったろうか、現在のカーナビみたいな装置が出てきた時まさか30年後に我々が実際に使えるようになるなどと誰が思っただろうか? 尤も、本作に出てくる技術、例えば3Dプリンターによる模造品製造などは、ほぼ現実のものである。
開館直後ローラー・ブレードを使ったアクションもジャッキーらしいと言えばそれまでながら一応新機軸で、既に始まった冬季オリンピックではたっぷり見られるリュージュやスケルトンを思い出させて頗る愉快。
しかし、彼が仲間たちやローラと船の沈没した近くの島に行ってからがいけません。プラットの部下や日本語が混じる倭寇もどきの海賊とを交えた三つ巴の争奪戦が、泥臭いお笑いと共に必要以上に延々と繰り広げられ、僕のようなオールド・ファンを呆れ返らせてしまうのである。いや、実際、日本人観客の映画水準ではこの島シークエンスの程度の低さにはがっかりするしかあるまい。
そもそも僕が褒めておいた最初の三分の一でも状況説明が全く下手で、チェンが何者で何を考えているか全く解らないまま僕らは観ているというのが実際。4人も脚本がいる為に却って“船頭多くして船山に登る”結果をもたらしてしまっている。それでも実に鮮やかに見せ場が集中しているから誤魔化されていたわけだが、それが中だるみの極みである島シークエンスに至って思い起こさせられるといいう次第。
ディーラーのやっていることにも不明な点が多く、国宝級のアイテムの取引反対が世界的ブームになる中オークションで取引が決まらない場合十二生肖の一つを火口に捨てるアクションを起こすなんてのもその典型。それを阻止しようと、ジャッキーがスカイダイビングを最大限に利用して奮闘するのが最初の場面についでのアクションの見せ場であるが、こちらはやや長いのと大袈裟すぎて少々胃にもたれる。
ジャッキーのアクション的見せ場は主に指摘した二か所に集中するわけだが、その他にも昔観たあれやこれやのアクロバティックなアクションが色々と再現されるのは熱烈なファンには嬉しいだろう。
中国の文化財に対する実際の考えが背景にある作品でもあり、日本と韓国が文化財をめぐって互いに色々と言い合っている現状が頭をよぎる。そこまで考えてみる必要はないものの、なかなか難しい問題であります。
タリバンがバーミヤン石仏を破壊した時くらいがっかりしたことはないなあ。
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