映画評「ヒンデンブルグ 第三帝国の陰謀」
☆☆★(5点/10点満点中)
2011年ドイツ映画 監督フィリップ・カーデルバッハ
ネタバレあり
第二次大戦前の乗り物事故としてはタイタニック号沈没に次ぐ大事件として記憶されている硬式飛行船ヒンデンブルグ号爆発事件(1937年)をテーマにしたサスペンス映画である。
爆発原因が特定されていない為本作以前にも1975年に反ナチ乗務員によるテロという説で作り上げた「ヒンデンブルグ」というロバート・ワイズ監督作品がある。最後の爆発部分を実写で補った作品で、パニック映画的に観て不満を覚えた人が多いらしく余り評判を呼ばなかったが、僕はなかなか興味深く観た記憶がある。
本作はドイツ製TV映画(日本では劇場公開)でスペクタクルとしては見応えあるものの、お話が強引過ぎる。
独国ツェッペリン社の設計者クルーガー(マクシミリアン・シモニシェック)が、知り合った米国石油会社会長の令嬢ジェニファー(ローレン・リー・スミス)とその母親(グレタ・スカッキ)を間もなく出発予定のヒンデンブルグ号に登場させるなというツェッペリン社社長命令を受けた直後に彼女の婚約者たる青年に襲われ反撃して殺してしまう。ゲシュタポから殺人者として実は極秘文書の持ち主として追われた為令嬢を留めることに失敗、乗員としてこっそり乗り込み、ゲシュタポや爆破計画グループの邪魔立てを乗り越えて爆発物除去に活躍する。
本作にはストーリー上の瑕疵が多い。一番の謎は石油会社のトップが自らの利権の為に時限爆弾を仕掛けた飛行船に妻子を乗せて帰国させる予定であったこと。妻も爆弾の存在を知っている。遅れることが十分考えられるのに余りにも無謀である。令嬢のドイツ人約者の行動もよく解らない。ゲシュタポに追われる主人公がいとも簡単に乗船出来てしまう辺りも相当ご都合主義的。
作劇的に僕が気になったのは映画がどこに力点を置こうとしていたかという問題である。つまり、主人公は時限爆弾を直前に止める。そう、爆発は静電気による水素への引火という現在一番有力な説を取り、爆弾が直接原因ではない。間接原因にはなっているが、鑑賞者としては肩すかしというか、余りに爆弾除去に主眼を置きすぎている為に作劇上のバランスの悪さを感じてしまうのである。
しかし、ストーリーの破綻を無視すればまるで1930年代から40年代のクラシックなサスペンス映画を観ているようなスリルがある上に、事故の裏にナチス・ドイツによる開戦の条件となる輸出解禁への陰謀があったという歴史ミステリー解釈がなかなか面白いので、出来栄え以上の☆★を進呈しましょう。
グレタ・スカッキが老け込んでいて誰か解らなかった。年齢を考えれば仕方がないか。
2011年ドイツ映画 監督フィリップ・カーデルバッハ
ネタバレあり
第二次大戦前の乗り物事故としてはタイタニック号沈没に次ぐ大事件として記憶されている硬式飛行船ヒンデンブルグ号爆発事件(1937年)をテーマにしたサスペンス映画である。
爆発原因が特定されていない為本作以前にも1975年に反ナチ乗務員によるテロという説で作り上げた「ヒンデンブルグ」というロバート・ワイズ監督作品がある。最後の爆発部分を実写で補った作品で、パニック映画的に観て不満を覚えた人が多いらしく余り評判を呼ばなかったが、僕はなかなか興味深く観た記憶がある。
本作はドイツ製TV映画(日本では劇場公開)でスペクタクルとしては見応えあるものの、お話が強引過ぎる。
独国ツェッペリン社の設計者クルーガー(マクシミリアン・シモニシェック)が、知り合った米国石油会社会長の令嬢ジェニファー(ローレン・リー・スミス)とその母親(グレタ・スカッキ)を間もなく出発予定のヒンデンブルグ号に登場させるなというツェッペリン社社長命令を受けた直後に彼女の婚約者たる青年に襲われ反撃して殺してしまう。ゲシュタポから殺人者として実は極秘文書の持ち主として追われた為令嬢を留めることに失敗、乗員としてこっそり乗り込み、ゲシュタポや爆破計画グループの邪魔立てを乗り越えて爆発物除去に活躍する。
本作にはストーリー上の瑕疵が多い。一番の謎は石油会社のトップが自らの利権の為に時限爆弾を仕掛けた飛行船に妻子を乗せて帰国させる予定であったこと。妻も爆弾の存在を知っている。遅れることが十分考えられるのに余りにも無謀である。令嬢のドイツ人約者の行動もよく解らない。ゲシュタポに追われる主人公がいとも簡単に乗船出来てしまう辺りも相当ご都合主義的。
作劇的に僕が気になったのは映画がどこに力点を置こうとしていたかという問題である。つまり、主人公は時限爆弾を直前に止める。そう、爆発は静電気による水素への引火という現在一番有力な説を取り、爆弾が直接原因ではない。間接原因にはなっているが、鑑賞者としては肩すかしというか、余りに爆弾除去に主眼を置きすぎている為に作劇上のバランスの悪さを感じてしまうのである。
しかし、ストーリーの破綻を無視すればまるで1930年代から40年代のクラシックなサスペンス映画を観ているようなスリルがある上に、事故の裏にナチス・ドイツによる開戦の条件となる輸出解禁への陰謀があったという歴史ミステリー解釈がなかなか面白いので、出来栄え以上の☆★を進呈しましょう。
グレタ・スカッキが老け込んでいて誰か解らなかった。年齢を考えれば仕方がないか。
この記事へのコメント
私もあの最後の爆発の場面が実写風になるのをよく覚えている。観たとき印象に残ったのですね、あれはよかったですよね。ジョージ・C・スコットが出ていたのかな。公開当時はそのころ流行っていたパニックもののひとつみたいな宣伝のされ方でしたね。
「ブラックサンデー」でしたか、クライマックスで飛行船が満員のスタジアムに突っ込むのは。あれもおもしろかったですが、日本では公開中止になったのでしたね。ということは、テレビかビデオで観たのかなあ。
「ヒンデンブルグ」については「今ならCGで見せるところを実写でごまかした」といった若い人の感想もあるようですが、当時のSFXでもそれなりに見せることはできたであろうから、僕は寧ろ実写を使ったことによる付加価値を大いに認めたいところ。
勿論、当時余り話題にならなかったのは「エアポート」シリーズのような典型的なパニック映画の作りではなかったからでしょうが、お客にセンスがあればもっとヒットした作品だったと思います。
>「ブラックサンデー」
試写会はやったのですが、圧力があって未公開に終わったのでしたね。
どうしても見たかったので、後年LDが発売された時に買いました。ただ、今観ると画質はひどいし、4:3のトリミングなので、観なおす気にもなりません。
テレビ放映もされた記憶がないので、ビデオではないでしょうか?
最近きちんと公開されたようなので、WOWOW辺りに出るのを期待しているのですが、なかなか出ません。