映画評「塀の中のジュリアス・シーザー」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2012年イタリア映画 監督パオロ・タヴィアーニ、ヴィットリオ・タヴィアーニ
ネタバレあり
1980年代ネオ・レアリスモの系譜を引くパオロとヴィットリオのタヴィアーニ兄弟の勢いは素晴らしかった。中でも「グッドモーニング・バビロン!」(1987年)「カオス・シチリア物語」(1984年)は傑作中の傑作で、それぞれ鑑賞した年のベスト1、2位にした記憶がある。その後話題としては大分地味になってはいるし、二人とも80代と大分高齢になっているものの、本作などは彼らのモットーとするリアリズムを超えて劇映画とドキュメンタリーの間で観客を彷徨させる、実に意気軒昂な作品となっている。
イタリアのレビッビア刑務所では毎年囚人たちにより演劇が披露されている。これは実際に行われているものである。今回の題材はウィリアム・シェークスピアの「ジュリアス・シーザー」で、本番はカラー映像、練習風景はモノクロで撮られている。
一見ドキュメンタリーであるが、「ジュリアス・シーザー」そのものも映画用に用意されたものかもしれないし、撮影には明らかにドラマ映画のものと感じられるものが相当ある。しかし、演じている“役者”は実際の囚人であり、本名で出演している。最後に解ることには撮影前に出所している元囚人もいる模様。
いずれにせよ、囚人が「ジュリアス・シーザー」の各キャラクターを演ずる本人を演じている多重構造に劇映画ならではの面白味があることは間違いないし、ドラマとドキュメンタリー、虚と実の狭間を観客に彷徨わせる狙いは見事に成功している。
囚人服を着て行われている練習風景をまとめると、(一昔前に読んだので詳細は忘れたが)劇「ジュリアス・シーザー」のアウトラインがかなり解るように作られているのも巧み。余りにもアトラクション化しているアメリカ映画にうんざりしている根っからの映画ファンなら映画的興奮を禁じ得ないだろう。
「マルキ・ド・サドの演出によりシャラントン精神病院の患者たちによって演じられたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺」(1967年)に通ずる作品ながら、あちらの患者たちは役者が扮したものだから興趣の種類が少し違う。かのピーター・ブルック作は俳優が演ずる患者たちが演ずる演劇を眺める観衆を我々が観るという視点で作られているので多層性という意味ではこちらのほうが少し単純だが、多層性で勝負しても仕方があるまい。
囚人たちの演技が抜群の迫力。
「マラー/サド」の正式題名は合っているだろうか。記憶力が非常に衰えているから・・・
2012年イタリア映画 監督パオロ・タヴィアーニ、ヴィットリオ・タヴィアーニ
ネタバレあり
1980年代ネオ・レアリスモの系譜を引くパオロとヴィットリオのタヴィアーニ兄弟の勢いは素晴らしかった。中でも「グッドモーニング・バビロン!」(1987年)「カオス・シチリア物語」(1984年)は傑作中の傑作で、それぞれ鑑賞した年のベスト1、2位にした記憶がある。その後話題としては大分地味になってはいるし、二人とも80代と大分高齢になっているものの、本作などは彼らのモットーとするリアリズムを超えて劇映画とドキュメンタリーの間で観客を彷徨させる、実に意気軒昂な作品となっている。
イタリアのレビッビア刑務所では毎年囚人たちにより演劇が披露されている。これは実際に行われているものである。今回の題材はウィリアム・シェークスピアの「ジュリアス・シーザー」で、本番はカラー映像、練習風景はモノクロで撮られている。
一見ドキュメンタリーであるが、「ジュリアス・シーザー」そのものも映画用に用意されたものかもしれないし、撮影には明らかにドラマ映画のものと感じられるものが相当ある。しかし、演じている“役者”は実際の囚人であり、本名で出演している。最後に解ることには撮影前に出所している元囚人もいる模様。
いずれにせよ、囚人が「ジュリアス・シーザー」の各キャラクターを演ずる本人を演じている多重構造に劇映画ならではの面白味があることは間違いないし、ドラマとドキュメンタリー、虚と実の狭間を観客に彷徨わせる狙いは見事に成功している。
囚人服を着て行われている練習風景をまとめると、(一昔前に読んだので詳細は忘れたが)劇「ジュリアス・シーザー」のアウトラインがかなり解るように作られているのも巧み。余りにもアトラクション化しているアメリカ映画にうんざりしている根っからの映画ファンなら映画的興奮を禁じ得ないだろう。
「マルキ・ド・サドの演出によりシャラントン精神病院の患者たちによって演じられたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺」(1967年)に通ずる作品ながら、あちらの患者たちは役者が扮したものだから興趣の種類が少し違う。かのピーター・ブルック作は俳優が演ずる患者たちが演ずる演劇を眺める観衆を我々が観るという視点で作られているので多層性という意味ではこちらのほうが少し単純だが、多層性で勝負しても仕方があるまい。
囚人たちの演技が抜群の迫力。
「マラー/サド」の正式題名は合っているだろうか。記憶力が非常に衰えているから・・・
この記事へのコメント
すでに容量一杯で「もうひとりのシェイクスピア」
並びに本作もこれからゆっくり再見しましょうと
思ってるだけで映画館行脚も為さねばと欲の皮
突っ張ってるもんですから録画したまんま。(- -)
ま、それはさておきまして
本作、実に手応えのある堅実な映画でしたね~
触発されて原作戯曲、53年のマンキウイッツ
監督作品(素晴らしかった!)もDVDで観ました。
ああいう素人(囚人)からして演劇に映える
彼方の人々の容貌とその情熱。茶漬けさらさらの
国とは比べることさえ無理無体ではございますが
正真正銘、圧倒されましたよ。
>1TB
多ければ多いなりに溜まっていくものですよね。
当方は、2台のブルーレイをWOWOW用とNHK用に分けて使っていて、NHK用は放送傾向から言ってほぼ保存版しか録画しないので、ブルーレイに移したら即消します。WOWOW用は新作はブログに記事をアップしたら消し、たまにある古い映画の保存用をブルーレイに移す、という感じ。
それでも結構いっぱいになって必死に削除することも多いです。
>堅実な映画
日本映画の長さとは対照的な点も良かったですね。
上にあげたタヴィアーニ兄弟の二本、NHKさんやってくれないかな。寧ろWOWOWさんのほうが期待できる?
最近のNHKの映画放映はけしからん状態。2005年くらいまでは良かったのですが。
>触発されて
その積極性がうらやましい。
>囚人
顔も濃いですけど、演技も迫力満点でした。終身犯や長期刑でなければ今すぐ役者になってもらいたいくらい。
シーザーはイタリア語でチェーザレというんですね。ラテン語ではカエサルというと思いますが、いつラテン語はイタリア語になったのでしょう?