映画評「横道世之介」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年日本映画 監督・沖田修一
ネタバレあり

今月二本目の沖田修一監督作品は、一字違いの吉田修一の同名小説の映画化。例によってのんびり(最近の言葉で言うと、まったりか)した展開で、それも160分という、事件らしい事件もない作品には珍しいまでの長尺である為少々眠くなった。余りに慢々的に進行するので、起承転結をきちんと考える向きには不満が生じるであろう。

1987年、高良健吾演ずる主人公・横道世之介は、長崎から法政大学に進学して入学式で知り合った池松壮亮と朝倉あきのキューピッド役になり、バイトをするホテルで知り合った年上の謎の女性・伊藤歩に興味を抱く一方、ダブルデートで紹介された令嬢・吉高由里子と健全ながら深い仲になり、故郷にまで一緒に行って、母親・余貴美子と知り合わせる。

本当に1987年の時系列では大事件がない。文学用語を用いれば、100年くらい前に流行った(日本流)自然主義小説的タッチといった感じだ。

基本的にメリハリのないお話にメリハリを付けるのは、およそ30分くらいに一度15年後の“現在場面”を挿入するアイデアで、これがなければ実際退屈したであろう。
 その中に主人公の列車事故救助時の死亡を報道される箇所があり、以降はそれを前提に観ることになるので少々しんみりした気分が出て来るが、この辺りから主人公をその呑気な性格から周囲を幸福にする人物として扱おうという作者の狙いがはっきりしてくる。
 それを最後にまとめるのが、母親の「呑気であった息子と“会えて”幸せだった」という吉高嬢への手紙という次第。ここで主題を明確にした形で、手紙なしに観客に解らせたほうがより効果的ではあったと思うが、昨今の作品だからこれくらいの親切はやむを得ないといったところだろうし、原作にもきっと手紙はあるのだろう。

世代的には1970年代に大学に入った僕より一世代くらい後ながら僕らの時代とムード的にはさほど変わっていない感じがする。しかし、社会はこの後バブル崩壊を経て劇的に変わっていく。バブルは大人の倫理感に影響を与え、新技術特にパソコン、携帯電話は風景だけでなく、人間関係まで変えてしまった。特に人間関係は無機質な、悪い方向に向かっていると思う。

幸福の一つは他人との交流である。精神に支障をきたさない程度のゴタゴタならまるで交流がないより良い。勿論、素晴らしい交流ならなおよろしい。僕の実感である。本作の母親は感謝しているが、世之介君、親より先に死ぬのは一番の親不孝だよ。2009年に死にそうになった僕がしなかった不孝はそれだけだ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年03月25日 02:00
長尺映画のソ連版の『ソラリス』は、何度観ても途中で寝てしまったと映画評論家の小野公世さんは書いておられましたが、ねこのひげは寝なかったですね。
こういうのもありかとおもいますが・・・・手紙はいらんかったかな?
オカピー
2014年03月25日 19:59
ねこのひげさん、こんにちは。

>『ソラリス』
なかなか衛星映画に出ないので、去年図書館から借りてきました。まだ再鑑賞していませんが、ディスクに収めてあります。
ビデオなので画質はひどいですけどねえ。

>手紙
僕の趣味では「なくもがな」ですが、原作にもあったのでしょう。
最近の若い人にはあれくらい説明しないと主題把握も難しいでしょうし、一応引き締める効果はあったと思います。

この記事へのトラックバック

  • 横道世之介/高良健吾、吉高由里子

    Excerpt: 『パレード』『悪人』の原作者である吉田修一さんの同名小説を『南極料理人』『キツツキと雨』の沖田修一監督が映画化した作品です。80年代の東京を舞台に長崎から上京した主人公 ... Weblog: カノンな日々 racked: 2014-03-23 18:00
  • 横道世之介~笑いの中に死の気配

    Excerpt: 善人なおもて往生をとぐいわんや悪人をや 公式サイト。吉田修一原作、沖田修一監督。高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、綾野剛、朝倉あき、黒川芽以、柄本佑、佐津川愛美 ... Weblog: 佐藤秀の徒然幻視録 racked: 2014-03-23 18:25
  • さよなら大好きなひと~『横道世之介』

    Excerpt:  1987年、バブル前夜の東京。長崎から上京してきた横道世之介(高良健吾) は、法政大学に入学する。同級生の倉持(池松壮亮)や加藤(綾野剛)と出逢い、 サンバ同好会に入った世之介は、天然お嬢様の祥子.. Weblog: 真紅のthinkingdays racked: 2014-03-23 21:02
  • 『横道世之介』

    Excerpt: 『南極料理人』『キツツキと雨』の沖田修一監督の新作! ----『横道世之介』って、 ニャんかふざけた名前。 これ、本名ニャの? 「そう、少なくともこの物語の中ではね。 この映画は、そのふざけた名前の.. Weblog: ラムの大通り racked: 2014-03-23 22:37
  • 『横道世之介』

    Excerpt: □作品オフィシャルサイト 「横道世之介」□監督 沖田修一□脚本 沖田修一、前田司郎□原作 吉田修一□キャスト 高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤 歩、綾野 剛、       余貴美子、きたろう、.. Weblog: 京の昼寝~♪ racked: 2014-03-24 08:26
  • 横道世之介

    Excerpt: 411 : 名無シネマ@上映中 [sage] 2013/03/03(日) 23:26:23.74 ID:Ppbuz4+k映画館を出てからジワジワと来る映画412 : 名無シネマ@上映中 [sage] .. Weblog: 映画大好きだった^^まとめ racked: 2014-06-16 21:54
  • 映画評「モヒカン故郷に帰る」

    Excerpt: ☆☆☆(6点/10点満点中) 2015年日本映画 監督・沖田修一 ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2018-04-30 09:17