映画評「最初の人間」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年フランス=アルジェリア=イタリア合作映画 監督ジャンニ・アメリオ
ネタバレあり
SFか何かその類かと思って観始めたら、何とかのフランスの大作家アルベール・カミュの未完の遺作となった自伝的小説の映画であった。そう言えば、そんなタイトルの作品があったような気がする。
僕がカミュの名を知ったのは中学生の時TVでルキノ・ヴィスコンティが映画化した「異邦人」を観た時だ。初めて観たヴィスコンティでもあった。高校になって不条理をテーマにした小説「異邦人」を読んでみたが、文学少年とは言え、余りピンと来なかった。カミュはそれ以降も何作か読んでいるものの、「異邦人」はもう一度読みたいし、観たい。
再読は家に本があるのでいつでも可能であるが、観る方はなかなかそうは行かないようで、記憶する限り初放映以来地上波、僕の利用しているWOWOW、NHK-BSには出ていないのではないか。調べた範囲ではビデオ関連もない。
アルジェリア独立戦争の真っただ中の1957年、アルジェリア生まれの有名作家ジャック・コルムリ(ジャック・ガンブラン)が帰郷して大学で戦争の平和的解決について講演するが火に油を注ぐ形に終わる。
老母(カトリーヌ・ソロ)と過ごすうち、彼は教育は不必要と考える祖母にきつく躾けられた少年時代を思い出す。彼の才能を見抜いて進路を変えてくれたのは小学校の教師である。作家は恩師に献辞を贈る。
しかし、白人であってもアラブ人とアイデンティティーを共有する母親はこの地を去ろうとはしない。彼がフランスの地にあってもその根源にある思いは同じである。
今は知らないが、当時の現地生まれの白人とアラブ人には同じアルジェリア人という思いがあったのではないか。少なくとも民族間で対立している印象を本作からは見いだせない。テロはあってもあくまで自由と独立を確保するためであって民族・宗教的対立ではないような印象があるのである。僕のカミュについての知識は限定的であるからこれ以上踏み込めないが、カミュのアイデンティティーへの意識は根強いものがあると思わせる。
もう一つのポイントは彼が貧民窟出身でありながら一流の文学者になれた教育の価値。非識字者の母親が息子の名前、正確には一家の名字を絵を真似て描くように慣れない手つきで書いていく最後の場面がそれを象徴する。
どこの国でも時代が下るに連れ読めて書けるのが当たり前のようになる。それでもアルジェリアの貧民窟からカミュのような天才が現れたのは優れた教師との出会い、言わば天の配剤がそこにあったからだ。
「家の鍵」で初めて鑑賞したジャンニ・アメリオ監督は自然光を使うのが好きなようで、そこに必然的にドキュメンタリー的な印象を伴うところもあるのだが、本作はその手のライティングを駆使しながらもドラマ的に洗練された演出を見せる進境を見せているような気がする。変にドキュメンタリー臭さがなくなってより自然に観ることができるのだ。二つの時系列をスムーズに繋ぐ為にそういうドラマ演出における深化が必要だったのであろう。
僕の曾祖母は非識字者だったらしい。しかし、聞いて憶えた朗吟は名人だったという。
2011年フランス=アルジェリア=イタリア合作映画 監督ジャンニ・アメリオ
ネタバレあり
SFか何かその類かと思って観始めたら、何とかのフランスの大作家アルベール・カミュの未完の遺作となった自伝的小説の映画であった。そう言えば、そんなタイトルの作品があったような気がする。
僕がカミュの名を知ったのは中学生の時TVでルキノ・ヴィスコンティが映画化した「異邦人」を観た時だ。初めて観たヴィスコンティでもあった。高校になって不条理をテーマにした小説「異邦人」を読んでみたが、文学少年とは言え、余りピンと来なかった。カミュはそれ以降も何作か読んでいるものの、「異邦人」はもう一度読みたいし、観たい。
再読は家に本があるのでいつでも可能であるが、観る方はなかなかそうは行かないようで、記憶する限り初放映以来地上波、僕の利用しているWOWOW、NHK-BSには出ていないのではないか。調べた範囲ではビデオ関連もない。
アルジェリア独立戦争の真っただ中の1957年、アルジェリア生まれの有名作家ジャック・コルムリ(ジャック・ガンブラン)が帰郷して大学で戦争の平和的解決について講演するが火に油を注ぐ形に終わる。
老母(カトリーヌ・ソロ)と過ごすうち、彼は教育は不必要と考える祖母にきつく躾けられた少年時代を思い出す。彼の才能を見抜いて進路を変えてくれたのは小学校の教師である。作家は恩師に献辞を贈る。
しかし、白人であってもアラブ人とアイデンティティーを共有する母親はこの地を去ろうとはしない。彼がフランスの地にあってもその根源にある思いは同じである。
今は知らないが、当時の現地生まれの白人とアラブ人には同じアルジェリア人という思いがあったのではないか。少なくとも民族間で対立している印象を本作からは見いだせない。テロはあってもあくまで自由と独立を確保するためであって民族・宗教的対立ではないような印象があるのである。僕のカミュについての知識は限定的であるからこれ以上踏み込めないが、カミュのアイデンティティーへの意識は根強いものがあると思わせる。
もう一つのポイントは彼が貧民窟出身でありながら一流の文学者になれた教育の価値。非識字者の母親が息子の名前、正確には一家の名字を絵を真似て描くように慣れない手つきで書いていく最後の場面がそれを象徴する。
どこの国でも時代が下るに連れ読めて書けるのが当たり前のようになる。それでもアルジェリアの貧民窟からカミュのような天才が現れたのは優れた教師との出会い、言わば天の配剤がそこにあったからだ。
「家の鍵」で初めて鑑賞したジャンニ・アメリオ監督は自然光を使うのが好きなようで、そこに必然的にドキュメンタリー的な印象を伴うところもあるのだが、本作はその手のライティングを駆使しながらもドラマ的に洗練された演出を見せる進境を見せているような気がする。変にドキュメンタリー臭さがなくなってより自然に観ることができるのだ。二つの時系列をスムーズに繋ぐ為にそういうドラマ演出における深化が必要だったのであろう。
僕の曾祖母は非識字者だったらしい。しかし、聞いて憶えた朗吟は名人だったという。
この記事へのコメント
嘆かわしい限りでありますな。
異邦人・・・・残念ながら安価なDVDでも内容であります。
>20パーセント
そんなに?
日系人や外国人を入れてではないですか?
それじゃ本当に沈没しますよ。
しかし、外国人が増えましたなあ。
兄貴が廃車にした車を自宅の庭に置いているのですが、今年だけで5組の外国人業者が来たそうですよ。
>異邦人
♪ちょっと振り向いただけの・・・の方はありますですが(笑)
マルチェロヤンニとアンナ・カリーナの組み合わせがまた観たいのですがなあ。
とりあえず原作だけで我慢しますか。
カミュの『異邦人』、高校生くらいのときに買って読みました。あのときは、難解で苦しみながら読んだ記憶が笑
何年か経った今、もう一度読みたいし映画も観てみたいですね。双葉さんも高評価だったような。
まずは、この『最初の人間』を観ようとも思います。
本館HPのアドレスが変わりますので、本館にいらっしゃる時はとりあえずこのブログからお尋ねください。お茶も出ない情けない館ですが^^;
双葉さんはサーヴィス付きで「異邦人」には☆四つを進呈しています。
大衆映画ファンを自認されていましたが、技術から入っていくので晩年の大衆映画には満足できるものが少なかったようですね。
「最初の人間」はなかなか感じが出ていると思いました。カミュをさほど知らない僕が言っても信用されませんが(笑)。