映画評「扉の陰の秘密」

☆☆★(5点/10点満点中)
1947年アメリカ映画 監督フリッツ・ラング
ネタバレあり

1940年代人気を博したニューロティック・スリラーである。それもフリッツ・ラングの監督作品と聞けば期待が高まるが、案に反して、余り芳しくない。

ニューヨークの資産家令嬢ジョーン・ベネットがメキシコで喧嘩を見た時に印象を受けたアメリカの建築家マイケル・レッドグレーヴととんとん拍子に結婚の運びとなる。NYへ行く夫と別行動を取り夫の家に向った彼女は、彼に死んだ先妻との間に12歳くらいの子供がいるのに驚く。家には姉のアン・リヴィアと秘書バーバラ・オニールがいて、首にスカーフを巻いている秘書は謎めいた印象を与える。
 しかも、彼の家には過去の歴史的殺人事件を再現する六つもの部屋があり、鍵がかかって入ることができないもう一つの部屋に合鍵を作った彼女が入ってみると、現在自分が過ごしている寝室と同じ様子なので、夫が自分を殺そうとしているのではないかと疑心暗鬼になる。

つまり蝋人形館恐怖劇にヒッチコックの「断崖」(1941年)のアイデアを足して割ったようなお話で、それは大いに結構。しかし、シーンが上手く繋がっていず何を狙っているのかよく解らずじりじりするうちに、最終盤になってやっと新妻が「断崖」のような心境になるというのでは、楽しめる作品になっていると言い難い。

余りネタバレするのもどうかと思うので控えておくが、実は作者の眼目はヒロインではなく夫の方にある。その意味では「断崖」と違ってヒロインの夫に対する恐怖(不安はメキシコでのシーンにもある)が最終盤になってやっと出て来る構成自体は間違っていないと思うものの、もう少し上手くお話を繋げてくれないとラング作品と言えども「つまらん」と言わざるを得ない。

基本的には脚本がかなり弱体、ラングの映像センスで何とか格好になったといったところ。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2014年04月27日 12:24
脚本の書き換えをするべきだったでしょうな~
オカピー
2014年04月27日 16:24
ねこのひげさん、こんにちは。

「ラングだから」と言うべきか、「ラングなのに」と言うべきか、悩まされる弱い脚本でしたねえ^^;
モカ
2025年05月19日 12:07
こんにちは。

昨夜みましたが、これって「レベッカ」へのアンサーソングじゃないですか? 
ラングなので “アンサーソング” なんて洒落た風に書きましたが、有り体に言えば焼き直し? 真似っこ? 
そう思って観ていると、色々突っ込みどころ満載で面白かったですよ。
ローレンスオリビエの役をわざわざイギリス人のマイケルレッドグレイヴにしているけどどう見てもミスキャスト。
オリビエなら仏頂面で立ってるだけでミソジニストに見えてしまうけれど、バネッサの父君はアメリカ映画初出演で場慣れしていないのかオドオドしている様にしか見えませんでしたね。 全然怖くない ^_^。
秘密の扉の向こうは前妻の部屋で、それがまたレベッカのまんまなんだけど作りがしょぼい (>_<)
こちらもしっかり者の姉が出てくるは、ダンヴァース夫人のかわりに謎めいた秘書が出てくるは、挙句に彼女が放火するし、ここまでやったらパロディーでしょうかね?

本作の唐突なハッピーエンドを観ると改めてヒッチコックの「レベッカ」の上等さがわかりますね。原作のモヤモヤしたバッドエンド感を当時のアメリカ映画のお約束の範疇(罪を犯した人間は罰せられなければならない)に何とか収めたのは流石だなぁと改めて感心しました。

オカピー
2025年05月19日 22:15
モカさん、こんにちは。

たった10年前なのに殆ど思い出せませんねえ。

>「レベッカ」へのアンサーソングじゃないですか? 

10年前に観た時には「断崖」を思い出したようですが、「断崖」は「レベッカ」の姉妹編のようでもありますので、満更的外れではないものの、蝋人形館恐怖劇+「断崖」と言うより、「レベッカ」+「断崖」のほうが良かったですかね。

>当時のアメリカ映画のお約束の範疇(罪を犯した人間は罰せられなければならない)

ヘイズ・コード。
これにかなり縛られつつも、当時アメリカ映画は頑張っていましたね。時々お話が成立していないレベルの映画もありましたが。
やはり「レベッカ」はきちんと作られていましたね。

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